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転生して聖女見習いになったと思ったら何故か毒手の親戚みたいなトンチキ拳法を極める流れになってるんですけど!?  作者: 悠戯


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68.絶対絶望ガール


 絶体絶命。

 ほとんどの場合は一種の比喩表現として使われる言葉なのでしょうけれども、今回に関しては本当に絶命しかねません。それも一人ならず友人達と諸共に。



「……ぅ、く」



 多腕の悪魔が掴んでいるエリーちゃんは、幸いまだ息はあるようです。

 少なからず怪我をして服が血に染まっていますが、生きているなら治せます。思春期の女の子の大事な身体に傷跡の一つだって残させやしませんとも。


 とはいえ、治療するのは今のピンチを切り抜けてから。

 ただ殺すだけなら聖堂の床をお豆腐同然に切り裂く爪でサクっと一刺しすれば済むはずですが、そうしていないのは我々に対する人質のつもりでしょうか。より楽観的な推測としては、悪魔の元となっらエリーちゃんのお友達の意識が僅かなりとも残っていて、それが最後の一線を踏み越えさせずにいる……とか?


 後者であれば良いとは思いますけれど、それを前提に無謀な賭けに出るわけにはいきません。そもそも最初に逃げたっきり行方知れずだった悪魔が、どうして今ここに出てきたのでしょう?



「たまたまアイス屋さんの地下に隠れてて、そこに偶然エリちゃんが来たから、これ幸いと人質に……は、流石にないか」



 可能性としてはゼロではないにせよ、王都に何軒の建物があるかを考えたら偶然そんな風に遭遇するとは考えにくい。恐らくは、最初に出会った大聖堂で酷い目に遭わされたレイさんと、ついでに仮面を割ったわたしに復讐すべく、気配を隠して付け回しながら好機が訪れるのを窺っていたというあたりでしょう。



「レイさんは……分かってましたけど、無理そうですね」



 頼みの綱のレイさんは、魔力と体力を使い果たした上に意識を失った状態で簀巻きにされて地面に転がっています。くそっ、いったい誰がこんな酷いことを!?


 ……まあ、わたしなんですが。

 仮に今この瞬間に都合よく目覚めてくれたとしても、この有り様では自力で起き上がることすら難しいものと思われます。到底、戦力としては期待できそうにありません。



「エ……エリーさんを離してください! 人質のつもりなら私が代わりにっ」


「クーちゃん!? 流石にそれは……」



 わたしが有効な打開策を思いつけずにいる間にも、当然ながら周りは待っていてくれません。なんと、それまでレイさんの近くにしゃがみ込んで何やらゴソゴソやっていたクーちゃんが、悪魔相手に大胆な交渉を持ち掛けたではありませんか。そもそも人語を解するかどうかも怪しいですし、唯一の戦力であるレイさんが倒れている現状では向こう側が本当に人質を必要としているのかも怪しいところです。



『……SHH……IIIAAA……』


「エリーさんを地面に置いた? こちらの意図が伝わったのでしょうか?」



 悪魔の声はヘビがシュルシュルと息を吐き出すような感じで、本当にそれが言語としての法則性を有しているのかすら定かではありません。エリーちゃんを今以上に傷付けることなく解放して地面に置いたということは、クーちゃんの発言に対してのリアクションなのでしょうし、ならば意外と交渉の余地があるのかしら?


 などと、悪魔にそんな人間性を期待するのが間違いだったわけですが。



「きゃっ!?」


「クーちゃん!?」



 律儀に人質交換に応じようか迷っていたらしいクーちゃんが、いきなり悲鳴を上げてその場に倒れ込みました。うつ伏せに倒れているので詳しい怪我の程度は分かりませんが、直前に悪魔が腕の一本を横凪ぎに振るのが見えました。どうやら爪でお腹のあたりを切り裂かれてしまったようです。



「だ、大丈夫……まだ、まだ助かる……」



 エリーちゃんに続いてクーちゃんまでもが大怪我を。苦しげに身をよじらせる様子からして致命傷は避けられたようですが、今すぐにでも治療が必要な大怪我には違いないでしょう。



「う、うぅぅ……」



 目の前の悪魔がどこかに行ってくれたら治せるのに。

 なのに、向こうは空気を読まずに距離を詰めてくる始末です。


 怖い、怖い、怖い。


 今すぐ逃げたい。

 でも背中を見せたら、その瞬間にわたしも爪の餌食になるでしょう。

 それに怪我をした友人達や気絶したままのレイさんを置いていくわけにもいきません。


 恐怖で歯の根が合わなくなっているのか、自分の奥歯がカチカチと音を鳴らすのが耳障りでならない。わたし自身はまだ怪我の一つすら負っていないのに、怖くて視界が涙で滲む。他の皆を守れるとしたら、あとはもう一人残ったわたしがどうにかするしかないのに。



『……KKAA……WWFAA……』



 悪魔の言葉、あれはきっと情けないわたしに向けた嘲笑でしょう。

 二本の足で立っていたはずが自分でも気が付かぬ間にへたり込み、唯一できることと言えば誰かが都合よく駆けつけてくれるのを心の中で祈るばかり。我ながら現金なものですが、普段からマトモな信仰心などなく形ばかりの祈りを繰り返していたわたしが、今ばかりは心の底から神様の慈悲に縋ろうとしています。



「神様……っ」



 が、しかし。

 神様だってこんな不信心者を好きこのんで救いたくはなかったのか。



「痛っ!?」



 必死の祈りも虚しく、お腹のあたりに鋭い痛みが走ったと思ったら、ぬるぬるとした生温かい血がそこから溢れ出すのを感じます。情けなくも目を閉じていたので攻撃された瞬間は見ていませんでしたが、先にやられた友人達と同じく爪の攻撃を喰らったのでしょう。


 血液と一緒に肉体を失う意思力も流れ出してしまったのか、もう座り姿勢を保つことすらできません。急速に抗い難い眠気がやってきて、わたしの意識はそのまま闇の中へと落ちていきました。


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まだ助かる!マダガスカル!! 覚醒イベント!?
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