67.一発逆転ガール
ふーん、おもしれー男……!
いえ、レイさんも望んでこんな方向の面白さを出したいわけじゃないでしょうけど。
「そこのお店からカーテンを拝借してきましたよ。着心地はあんまり良くないでしょうけど」
治療をするにも安全な場所に運ぶにも、まずは身体を隠さなければいけません。
彼自身は気絶しているので何とも思わないでしょうが、対応する我々のほうが気にします。さっきも立ったまま気絶していましたが、人一倍の貞淑さを有するクーちゃんなど熟れたトマトかリンゴと見紛うほどに顔を真っ赤にしておりますし。美少女は恥じらう姿まで可愛らしくて羨ましい限りです。眼福眼福……っと、のんびり目の保養をしている場合ではありません。
「見ないように見ないように……よし、梱包完了。ほら、クーちゃん。エリちゃんも、もうこっち見ても大丈夫ですよぅ」
わたしもその方面の耐性がさほどあるわけではないですが、地元時代は小さい弟達の着替えを手伝ったりしていましたし、他二人より僅かなりともマシでした。
海苔巻きを作る要領で地面に敷いたカーテンの上でレイさんをゴロゴロ転がし、ついでに何箇所か紐で縛ってちょっとやそっとでは布が外れないよう顔と足先だけ外に出した簀巻きの格好に。かなり不格好ですし着心地も最悪、まともな身動きを取るのにも苦労するでしょうが、どうせこれだけ消耗していたら流石のレイさんといえども今日はもう戦えません。
落下の際に負った怪我や自分の魔法による火傷なら、わたしかクーちゃんが治すこともできますが、減った分の体力や魔力はしばらく安静に休まねばカラッポのまま。まだ事件解決には至っていませんが、他にも戦える人は多々いるわけですし、あれだけ活躍したのだから後はのんびり高みの見物を決め込んだとてバチは当たらないでしょう。
「では、そういうわけで……ドラァ!」
というわけで、功労者を労うべく顔面にワンパン入れてみました。
「ちょっ、怪我人に何してるのよ! トドメ!?」
「おやおや、エリちゃんてば人聞きが悪いですね。これは純然たる医療行為なんですよ」
「そんなわけ……うわっ、焦げた肌が急に元通りに!? 気持ち悪っ!」
うんうん、エリちゃんの反応はごもっとも。
自分でも未だにビックリするぐらい効きますからね、この毒手モドキ。
高熱で炭化しかけていた肌も、一発シバけばあっという間に元通りです。
「ふっ、何を隠そう我々は人を殴るとなんか怪我や病気が殴るヘンテコ拳法を修めた癒し系修道女だったのです。コレ、一応は秘伝ってことになってるので、なるべく他言は控えてもらいたいですけど」
「何その変な……何? まあ実際治ってるわけだし信じるしかないけど。でも癒し系って絶対そういうのじゃないと思う」
我ながら胡散臭いにも程がある説明でしたが、目の前で実演したおかげもあってエリーちゃんも最終的にはそういうものだと受け入れてくれたようです。それで肝心のレイさんの容態についてですが。
「うわ、熱っつ!? 魔法の余熱ですかね?」
限界を超えて無理をしたせいか、彼の身体は怪我こそ治ったものの異常な熱がこもっている様子。普通の風邪くらいなら先程のグーで完治するはずなのですが、わたし自身も熱を出して寝込んだ経験はありますし毒手モドキも万能ではありません。
魔法については詳しくないので、もしかすると放っておいても時間を置けば勝手に落ち着くものなのかもしれませんが。性質の悪いインフルエンザが重症化した以上の高熱を放っておくのも不安があります。
「これは、お水か何かで冷やしたほうが良いのではないでしょうか?」
「だよねぇ。元々は建国祭の準備をしてたわけだし、そこらの食べ物屋さんなら何か……あ、この通りって昨日のアイス屋さんのところじゃない?」
ようやくフリーズ状態から復帰したクーちゃんも同意見のようです。
そして都合の良いことに、わたし達が今現在いるのは昨日訪れたアイスクリーム店のすぐ近く。冷やすのが目的ならば、水をぶっかけるよりも氷嚢を作って身体に当てるのが効果的なはず。
「ああ、あのお店? じゃあ、私だけ何もしないっていうのも気が引けるし、ちょっと行って氷もらってくるわね」
地元民だけあってエリーちゃんも件のお店のことはよく知っていたようです。
昨日聞いたうろ覚えですが、たしかアイス屋さんの地下には保存庫と調理場を兼ねた大型の氷室があるとかなんとか。単に冷すだけなら店頭にある売り物のアイスをそのまま押し当てても同じでしょうが、食べ物を粗末にするのは気が引けますし単純にベタベタしそうなのもイヤですし。
お店の関係者でもない人間が不法侵入するのは悪い気もしますが、治療のためなら致し方なし。後で事態が鎮静化したあたりでマー君経由でお店への説明と補償をお願いする必要はあるかもしれませんが、まあ大した問題ではないでしょう。
残る悪魔は最初に遭遇した手負いが一体。
公園に落下した黒龍を加えても、たったの二体。
その状況が油断を生んでいたのは否めません。
「おや、エリちゃん早かったで、す……え?」
しかし、手負いの獣こそを最も恐れるべきというのが狩りの鉄則。
根本的に戦う人間のメンタルを持たない我々には、そのあたりが理解できていなかったのでしょう。もしレイさんに意識があったら、まだ行方の分からない敵が一体でもいる状況で、無警戒に単独行動など取らぬよう忠告していたに違いありません。
つい一分か二分ほど前に氷を取りに行ってくれたエリーちゃん。身体のあちこちを血に染めた彼女を軽々と抱える格好で、最初に出会った多腕の悪魔がその姿を現したのです。
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