65.太陽を見上げるガール
全長何百メートルあるのかも定かではない空飛ぶ黒龍。
特撮の怪獣基準でもかなりの大型ファイターだと思うのですが、レイさんはなんと単身それに挑むつもりのようなのです。あの面白イケメンが実はウルトラな宇宙人の如き巨大ヒーローに変身できる隠し芸を持っているならまだしも、流石の彼でもその方面での面白さは期待できそうにないでしょう。
いくらなんでも無謀が過ぎる。
そう思っていたのですが、レイさんの面白さは思った以上だったようです。
いえ、別に変身したりはしませんでしたが。
「すごいスピードで昇っていって……あれ、通り越しちゃった?」
猛スピードで地上から上空へと向かっていったレイさんは、何故だか黒龍をスルーして更なる高高度へ。戦闘機同士のドッグファイトでは上の位置取りを確保したほうが有利だそうですが、敵があれほどの巨体と頑丈さを兼ね備えている場合には、そうしたセオリーは当てはまらないんじゃないでしょうか?
実際、彼の狙いも別のところにあったようです。
「おや、なにやら光が強くなってません? うわ、眩しっ!?」
突如、我々がいる地上が真夏のような暑さに。
今はまだ春頃ですし快晴であっても気温は20℃そこそこ。まあ計る道具がないので大まかな体感によるものですが、精々その程度のはずです。しかし、現在は明らかに真夏の暑さ。恐らく30℃は軽く超え40……あるいは50℃に迫るのではないでしょうか。
「暑っつ!? ぐわぁ、汗が噴き出す!」
「あらあら、大変ですわ。りっちゃんさん、とりあえずハンカチをどうぞ」
「クーちゃんも汗すごいから、お気持ちだけもらってハンカチは自分で使ってね! ていうか、もしかしなくてもレイさんの仕業かなコレ!?」
一時は王都の上空を覆い尽くすほどになった大量の黒雲。
それが異常な熱波によって急速に吹き散らされて、ゴロゴロと鳴っていたカミナリも勢いを失っています。その原因は上空にいる黒龍の更なる高みで、まるで自分自身が小さな太陽になってしまったかの如く輝いているイケメンに違いありません。直視したら目が潰れそうなので、半ば状況証拠からの想像ではありますが。
レイさんが得意とする光を操る魔法。
具体的な原理はわたしも知りませんが、わざわざ雲の上まで移動した点から考えると自然の太陽光を利用するか増幅するかしているのではないでしょうか。その結果があの光球というわけです。
悪魔が光を弱点とすることは分かっています。
もし仮面や体表を覆う黒いローブや鱗の守りに阻まれ十全な威力を発揮できずとも、周囲に展開している黒雲については別でしょう。異常な熱波によって雲が四方八方に散っていき、あるいは雲としての形を維持できずに消えてしまう。なるほど、これで王都へのカミナリ攻撃を防ぐことはできるでしょう。
「でも、これどう考えてもメチャクチャ無理してるよね?」
懸念点があるとすれば、レイさんの力がいつまで保つか。
魔力という感覚はいまいちピンと来ませんが、体力に例えるなら全力疾走でマラソンを走っているくらいには無謀な真似をやっている気がします。
熱気についても、単なる余波を受けている我々ですら汗ダラダラで息が切れるほど。ただでさえ空気の薄い高高度ということもありますし、何より彼自身がその熱源となっているのです。高熱で酸素そのものが焼けてしまう恐れも。多分ですけど、今はほとんど呼吸できていないのではないでしょうか。
「それに……まあ、敵が放っておいてはくれるとは思ってなかったけど」
巨大な黒龍も小太陽の超高熱は捨て置けない脅威と見た様子。
今更ながら翼もないのにどうやって自在に空を飛んでいるのか不思議ですが、それまで地上を見下ろしていた顔を上に向け、グングンと昇っていきました。
黒雲を満足に展開できないのではカミナリ攻撃の心配はないにせよ、なにせあれほどの巨体です。顔は奇妙に歪んだ仮面で覆われているので噛みつきはしてこないかもしれませんが、爪による引っ掻きや尾の叩きつけ、単純な体当たりだけでも人間一人を倒すには余りある威力があるはずです。
対するレイさんも敵の接近に気付いていないわけがないのでしょうが、気付いたところで対処できるかというと話は別。すでに魔力を底近くまで使い果たしてしまったのか、異様な高熱を発していた光も急速に弱々しくなっています。
果たして、敵の攻撃を躱しつつ空中戦を繰り広げる余力などあるのだろうか。
いえ、まず間違いなくないでしょう。
悪魔が変じた黒龍も間違いなくそう思ったはず。
わたしと同じく、まんまとレイさんの作戦にしてやられたというわけです。
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