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異世界リデザイン【完結】  作者: 忘却セミコロン


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8/18

監査ログと三人分の弁当


改修作業を始めてから、半日が経過していた。




司とテオドールは、魔力の通りが特に弱い末端部分から、少しずつ術式を削り整理していく。




archive_access_log {

retain last_record

notify tower_watcher

}


「……まだ生きてたのか、これ」




司は眉をしかめながら、通知先のノードを切り離した。




不要になった古い監視塔への監査経路が、静かに途切れる。


「……影響なさそうだな」




テオドールは周囲の魔力循環を慎重に確認する。




わずかに迷い——


それでも司の解析を信じ、術式を遮断した。




「……消去完了です」


ふぅ、と小さく息を吐く。




「魔法が光って可視化されるのは助かるな。現実のデバッグもこうだったら、どれだけ楽か」


「いえ……ツカサ様の解析がなければ、とても無理です。普通は恐ろしくて触れられませんよ」


テオドールは疲れたように肩を落とした。




古代魔法は、いまだ解明されていない部分が多い。


何が記述されているのかすら、わからない術式も珍しくなかった。




だから新しい機能を追加するたび、既存部分には触れず仮実装を重ねる。


全体構造が把握できない以上、本格的な改修など恐ろしくてできないのだ。




そうして数百年積み重なった結果が、今この王城の防衛機構だった。




「……なるほどな。仕様書がないから、既存コードに『オーバーライド』して誤魔化してきたわけか。典型的な負の遺産だな」




司は大きく伸びをし、凝り固まった肩をバキバキと鳴らした。




「腹減ったなー」


「……そういえば、昨日からほとんど何も食べてませんでした」


「お前、夢中になりすぎだろ。集中力お化けかよ」


司は呆れたように笑う。




テオドールも、ようやく我に返ったように苦笑を浮かべた。




二人はようやく作業の手を止め、顔を見合わせる。




————




休憩のため中央管理棟を出た司たちは、西棟の貴賓室へ向かった。


知結を一人にしておくのは、まだ不安だった。




部屋の前には、二人の騎士が立っている。




「ずいぶん厳重だな」


「……はい。チユ様が、その……何度か逃げ出されまして」


「ぷっ……なるほど」




司が吹き出す横で、テオドールが騎士へ目配せする。




重い扉が静かに開かれた。




「知結、入るぞ」


「——パパ!!」




次の瞬間、知結が勢いよく飛びついてきた。


司は反射的に娘を抱き止める。




この数日で、知結はずいぶん子どもっぽくなっていた。


不安と緊張で、張り詰めていたのだろう。




「飯は食べたか?」


「あ! 今ね、あれ持って二人のところ行こうと思ってたんだよ!」




部屋のテーブルには、籠とカップが三つずつ、水差しと一緒に並べられていた。




「お弁当作ってもらったんだ。一緒に食べよう?」


「さすが、気が利くな」




司は知結の頭を乱暴に撫で回す。




「あー! もう、やめてよ!」


知結が頬を膨らませ、司が笑う。




そのやり取りから目を逸らすように、テオドールは窓辺へ歩いた。




遠くの空を眺める。




(母様、父様……)


不意に胸の奥が熱くなる。




知らず、袖を握る指先に力が入っていた。




その様子に気づいたのか、知結がそっと近づいた。




「せっかくだし、外でお弁当食べようよ。……テオ君も」


背中に触れられた瞬間、テオドールの肩が小さく揺れる。




「いいな、それ」




今度は司が隣から肩を抱き寄せた。


華奢な身体が一瞬だけ強張った。




だが、振り払うことはしない。


二人に触れられている場所から、少しずつ力が抜けていく。


胸の奥に張りついていた冷たいものが、ゆっくり溶けていくようだった。




テオドールはわずかに視線を伏せる。


——その感覚に、まだうまく名前を付けられないまま。



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