祝祭と世界樹の根
王都を埋め尽くすほどの人、人、人。
中央の大通りには無数の花弁が撒かれ、空には色彩豊かな光の魔法が幾重にも重ねられ、幻想的な花が咲き誇っていた。
教会の厳かな鐘が鳴り響く。
王立楽団が奏でる祝福の旋律に誘われ、沿道の民衆が一斉に歓声を上げた。
「ユーリ様だ!!」
「勇者様ーー!!」
「レグナード陛下、万歳!!」
熱狂が渦となり、王都そのものを震わせる。
巨大な白馬車の上で、純白の礼装に身を包んだレグナードが、隣の悠理へ穏やかな笑みを向けた。
悠理もまた、黒を基調とした異国風のドレスを纏っている。
漆黒のドレスは祝福の光さえ吸い込むようで、その胸元や裾だけが、星屑のような銀糸で繊細に刺繍されていた。
その姿はあまりにも神々しく——そして、危ういほどに美しかった。
馬車の後方では、魔導士たちが上空へ巨大な光の魔法陣を展開していく。
次の瞬間、空一面に巨大な幻影が映し出された。
年若いレグナードと悠理。
共に剣を振るい、研鑽を重ねた日々。
押し寄せる魔族から民を守った戦い。
そして——勇者が“死から帰還した奇跡”。
群衆が涙を流し、祈るように両手を組む。
「あぁ……神様……」
「世界樹が、お二人を結び合わせたのだ……!」
人々は涙を流しながら、不思議な高揚感に酔っていた。
歓喜。
羨望。
敬愛。
恋慕。
救済への感謝と祈り。
止めどなく溢れ出す感情が、王都全体を満たし、熱となって渦を巻いていく。
その膨大な感情の奔流は、誰にも気づかれぬまま、王都の地下深くへと吸い込まれていた。
石畳の隙間。
街路樹の根元。
大聖堂の地下。
世界樹の枝から移植された白銀の根が、脈動するように淡く発光している。
まるで、人々の感情を貪るように。
⸻
少し離れた塔の上で、司はその光景を静かに見下ろしていた。
この結婚を、悠理は渋っていた。
罪を重ねてきた自分に、その資格はないと拒んだ。
だが司は、それこそが罰なのだと突き放した。
彼女は英雄と王妃の二つの顔を、贖罪のために演じ続けるだろう。
(まぁ、レグナードがいるから壊れないだろう。)
「……すごいね。」
隣で知結が頬に高揚を宿し、目を輝かせる。
テオドールとわずかに目を合わせ微笑み合っているが、司は気付くことなく王都を見下ろしている。
王都全体を覆う感情の奔流。
それが世界を修復していく様子を、ただ無言で観測していた。
まるで巨大サーバーの負荷推移でも監視するように。
その横顔を見て、テオドールが微かに息を呑む。
司の瞳が——もう、人とは違うものを映している気がした。




