感情の設計図
レグナードが嗚咽を漏らしながら、悠理を強く抱きしめる。
「ユーリ、ユーリ……! 会いたかった……!!」
肩が小刻みに震えていた。
悠理は一瞬だけ、その胸に身を預けかけて——すぐにレグナードの肩を掴み、静かに引き離した。
「……私が遠征に送り出された日、貴方は見送りにも来なかった」
まっすぐに向けられた視線。
その瞳には、怒りと悲しみ、そして消えきらなかった想いが滲んでいた。
「違うんだ……聞いてくれ、ユーリ……」
レグナードは必死に首を振り、懇願するように言葉を続ける。
「君が魔族領へ送り出される前……私は父王に、王位継承権の放棄を伝えに行ったんだ」
悠理の目が見開かれる。
「その直後に軟禁された。君を止めたかった。一緒に行きたかった。でも、間に合わなかった……!」
「王族が、何を——」
「王になど、なりたくなかった!!!」
その叫びに、悠理の体がビクリと震えた。
レグナードは悠理の両手を包み込むように握り、その場に跪く。
「私は……君と一緒に戦って、一緒に死にたかった……!」
絞り出すような声だった。
「君が魔族領で重傷を負い、魔族に連れ去られ……戦死したと聞かされた時は、本当に気が狂いそうだった」
レグナードは悠理の手の甲を、自身の額へそっと押し当てる。
「何度も死のうと思った。……でも、できなかった」
浅い吐息が震える。
「もしかしたら……まだ、生きているかもしれないと。その可能性だけで、私は生きてきたんだ」
悠理は唇を強く噛みしめていた。
けれど、溢れた涙までは止められない。
レグナードは立ち上がり、震える指でその涙を優しく拭った。
そして——
壊れ物へ触れるように、そっと、悠理へ口づけを落とす。
「生きていてくれて、ありがとう。ユーリ」
悠理は抵抗しなかった。
ただ静かに、レグナードの胸へ額を預ける。
その光景を、知結とテオドールは頬を赤くしながら固まって見つめていた。
ただ一人。
司だけは少し離れた場所で、淡く光る戦場を見つめ続けていた。
(感情が必要なら——)
人は、恐怖や絶望だけで感情を生むわけじゃない。
愛情。
尊敬。
祈り。
希望。
もっと穏やかで、温かい感情でも世界は満たせるはずだ。
世界を、殺し合い以外で繋ぐ。
司の脳裏に、この世界そのものを書き換えるための設計図が、ゆっくりと形を成し始めていた。




