結婚
この世界で生きるようになって1年後。
テレーゼに再び結婚の話が出た。
出た時点で婚礼することは決まっている。
それが貴族の世界だと1年も居ると、私にも分かった。
女性には権利など無く、仕事も無い。
婚家で子を産むことが最大の仕事。
⦅馬鹿馬鹿しいわ!
あぁ……学んでも何の役にも立ちやしない。
それに、あの恐ろしい斬首刑の時に見た男女。
あの二人のことを知りたくとも、知る術がない。
結婚相手の顔も分からない。
写真が欲しい。
………自由など全く無いわ。
街に出ることも無い。
安全面での脅威を理由に街に出して貰えない。
暇だわ……仕事をしたい……。⦆
鏡の中にブロンドで青い瞳のテレーゼが居る。
その姿を見る度に私はリアムを思い出し恋しさが募る。
今度の婚約者は伯爵家の嫡男だという。
顔も分からないまま結婚する――と決まっているのである。
⦅写真、見たいな……どんな顔かくらい……。
カメラなんてない……この時代は無理よね。
怖いわ……どんな相手か分からないのは……恐怖だわ。
……でも……あの恐怖に比べたら、なんてことないわ。
……それにしても、テレーゼが斬首刑になる出来事が無い。
今は何も起きていない……それって、結婚してからなのかしら?
結婚した後、気を引き締めて……情報は集められるだけ集めて精査しないと!⦆
婚約してもパーティーなど無く、婚礼の日を迎えた。
テレーゼは13歳だった。
お相手は、アドリス・フォン・リートベルク、13歳。
初めて会った相手と結婚しなければならないのは、21世紀のニューヨークで生きていた私には受け入れ難かったが、受け入れるしかなかった。
婚礼は教会で行われた。
荘厳な式だった。
⦅リアムとは結婚しなかったのに……あぁ………リアム……。⦆
⦅13歳同士……幼い御飯事みたいな夫婦ね。⦆と思った私が、夫の顔を見たのは婚礼の後だった。
婚礼の時は顔を上げることさえ許して貰えなかった。
「夫になったお方のお顔を見ようとしてはなりません。宜しいですね。」と、母親に言い含められたのだ。
夫になったアドリスを見た時、思わず「可愛い!」と声に出しそうになった。
やや豊かな身体、何気なく⦅ルイ16世を幼く可愛くした雰囲気だわ。⦆と私は思った。
「テ……テ、テレーゼ。」
「はい。」
「わ……私は……な…仲良い……ふ……夫婦……に……な…なりたい。」
「はい。」
「わ……私と……い……一緒に……よ…良き……り…り、領主に………
な……な、な、なろうぞ。」
「はい。」⦅緊張してる? それだけじゃないわね。⦆
「わ、私は……こ、こ、言葉が……あ、あまり……う…上手く……
は…は、話せない。
す…済まない。わ…分かるか?」
「はい。分かります。ご安心くださいまし。」⦅やっぱり吃音。⦆
「ほ……本当に……す、す、まない……テ……テ、テレーゼ。」
私は悲しく寂しい表情で懸命に話すアドリスが愛しく思えた。
⦅29歳の私が妻で13歳の夫……うぅ~~ん、親子に近い年の差なのかな?
だから、可愛く思えるのだわ。きっと………。⦆
それからの私……テレーゼは、夫・アドリスの秘書のように傍に居て、アドリスが会う人のことを調べて事前に二人で練習をしたり、隣で「大丈夫でございます。お分かりになられています。」と囁いてアドリスが自信を持てるように心掛けた。
アドリスの吃音が治るように、心を砕きながら……「ゆっくりお話ください。」と言い、時間を掛けて話を聞いた。
私は、どんな時でもアドリスが話したい時に聞いて、アドリスの話を遮ることなどしなかった。
時間が掛かることを嫌がらずに微笑みを絶やさずに話を聞いてくれる妻・テレーゼに、アドリスは心を許し、信頼していき、そして惹かれていった。
自ずと、伯爵家のことも……皇帝のことも……知ることが出来た。
だが、知り得た中からは何も斬首刑に繋がるものが見つからなかった。




