戦争終結
3年に渡る隣国サルマティア王国との戦争は、国境近くの村が甚大な被害を受けた。
だが、隣国の動きを知ってから、皇弟殿下に私は「どうか、国境近くの民を我が領地へお移し下さい。戦争終結まで我が領地で暮らさせて下さいまし。」と願い出た。
皇弟殿下は許してくれた。
出兵が決まる前にユーリヒ公爵領からシュタウフェンベルク伯爵領へ、国境近くの村民が映った。
戦争で最も被害を受けた村は、疎開によって村民には死傷者が出なかった。
投石器や火矢による被害は大きかったが、村民の人的被害が無かったことは不幸中の幸いだった。
人的被害はゼロではなかった。
戦争である。
兵士の死傷者数は少なくなかったのだ。
多くの兵の犠牲の上で戦争は終結した。
帝国は侵略を防いだ。
総司令である皇弟殿下を筆頭に兵達が帰還した。
傷を追っている者、担架で運ばれなければならないほどの重症の者、無傷で無事に帰還出来た者……。
帰って来られた兵達は、皆、疲労困憊しているが、笑顔だった。
無事に帰還し、宮殿で皇帝陛下の謁見を受けている皇弟殿下は「酷民の被害は最小限に抑えられました。
これも一重にシュタウフェンベルク伯爵による結果でございます。」と報告した。
シュタウフェンベルク伯爵領に疎開していた村民は、村へ帰って行った。
村を立て直さねばならない。
人が生きていなければ立て直すことは叶わない。
国に平和が戻った。
シュタウフェンベルク伯爵領にも穏やかな日々が訪れようとしている。
続々と徴兵された農民達が堪えって来た。
無事な者ばかりではなかった。
命を落とした者も少なくなかったのだ。
戦死者の家には弔慰金を渡した。
負傷者には治療を無料で行った。
担架に乗せられて帰還した者は、その多くが死亡した。
死亡してからだが、弔慰金を渡した。
もう、テレーゼのクローゼットにはドレスがほぼ無くなった。
残したドレスは謁見用のドレス1着、日常用のドレス3着だけである。
宝飾品は謁見用の物だけしか残っていない。
上下水道の為に、テレーゼはドレスや宝飾品を売っていた。
執事長のマリウスが最も嫌がった私が行ったことだった。
今回の戦争で、またドレスや宝飾品を売った。
売って得た金銭で、弔慰金を捻り出したのだ。
⦅マリウス……知ったら激怒だわ。
だって、売るなどということは伯爵家に相応しくない!っていうのが私を襲撃す
る動機の一つ。
あぁ、マリウスからまた嫌われたわ。⦆
私はカールのこととアドリスのことが気掛かりだった。
無事なのかどうか分からなかった。
「テレーゼ、ご無事ですよ。
お二人ともにご無事です。」
「お母様……どこからかお聞きになれましたの?」
「……いいえ、聞いてないわ。
でもね、帰って来ます。
祈って待っていれば……帰って来られます。」
「………はい。」
私は宮殿へ赴いた。
皇弟殿下への謁見のためである。
「シュタウフェンベルク伯爵、待ちかねておったぞ。」
「皇弟殿下におかれましては、御尊顔を拝せること恐悦至極に存じます。
この度の戦におきまして、殿下の指揮により戦を終えられましたこと……
誠におめでとう存じます。
また、殿下の無事のご帰還、誠におめでたく存じます。」
「シュタウフェンベルク伯爵………否、テレーゼで良いな。」
「はい。」
「テレーゼ、堅苦しい。」
「………………なれど………。」
「良い。」
「はい。」
「して、何を聞きに来た。」
「………カール様は、ご無事に帰還成されました後、どのようなお立場でございま
しょうや。」
「カールか……………。」
「はい。」
「カールは………カールは戦死した。」
「え…………………戦死………。」
「これからはカールの弟を、私が養育し、いずれ何らかの立場に着ける。」
「…………せんし…………左様でございましたか…………。」
「テレーゼ、しっかりせよ。
其方は今や伯爵なのだぞ。
シュタウフェンベルク伯爵であること、常に忘れてはならん。良いな。」
「はい。」
あの後姿……手を振って振り返らずに行ってしまったあの後姿を残してカール・フォン・ウージンゲンが亡くなった。
公爵位が剥奪されて、ひっそりと皇弟殿下の屋敷内奥にある別棟で暮らしているウージンゲン夫人と弟達。
どんなに悲しくとも誰も弔うことが出来なかった。
カールが戦死したと聞いた時、アドリスのことを聞けなかった。
全ての貴族子息の生死を皇弟殿下が知っているはずが無い。
カールだけは常に皇弟殿下の傍に居ると聞いていた。
だから、カールのことしか聞けなかった。
シュタウフェンベルク伯爵邸に戻る馬車の中で、テレーゼ・フォン・シュタウフェンベルクは泣いた。
カールの不幸を嘆いた。
それは私、アン・スミスの涙でもあった。
カールの戦死を聞いてから、私はリートベルク伯爵に使者を出してアドリスのことを聞こうと思った。
宮殿から帰ると、リートベルク伯爵からの使者が文を残していた。
渡された文を読むのが怖かった。
手が、指が震えた。
震える指で文を広げた。
そこには懐かしいアドリスの文字が広がって見えた。
「テレーゼ、私は約束通りに帰って来ました。
これから、父に頼み廃嫡の上、貴女に正式に結婚を申し込みます。
受けて下さい。
愛するテレーゼへ 貴女のしもべ アドリス・フォン・リートベルク」
私は………いいえ、テレーゼ・フォン・シュタウフェンベルクはアドリスからの文を胸に抱き涙を流した。嬉しい涙だった。




