父と息子
宮殿内の奥深くに牢のような部屋がある。
堅固な牢とは言い難い。
雅やかな部屋であるが、仕切りの壁は無い。
牢のように扉ではなく鉄格子である。
鉄格子で隔てられているのに、その中は見事な絨毯が敷き詰められており、ベッドも天蓋がある。
高貴な身分の人を閉じ込める為に作られた部屋のようだ。
ただ、牢と同じで、地下に作られている。
カールは皇弟殿下の後をゆっくり地下への階段を下りていく。
薄暗い部屋に蝋燭の灯が点っている。
「アドルフ・フォン・ウージンゲン、其方に面会である。」
「これはこれは、皇弟殿下ではございませぬか。
私などに誰が面会に来たと仰せになられるのでしょう?」
「其方の息子、カール・フォン・ウージンゲンが参っておる。」
「カールがっ!」
「カール、其方の父じゃ。」
「……父上。」
「カール! 其方、テレーゼの元へ行ったのか?」
「はい、参りました。」
「其方はっ! あの女を助けたのか!」
「はい。」
「其方……腑抜けになったようじゃのう。」
「腑抜け? 腑抜けで結構でございます。」
「何ぃ~!」
「私は、この帝国を愛しております。」
「それは私も同じよ。」
「それならば、何故、あのようなことを画策なさいました!」
「皇帝の血を受け継いでおる私が……私の息子が……皇帝には成れぬ。
何故じゃ………何故、成れぬのじゃ?
ただ、何代か前に公爵になっただけよ。
そうであろう?
優れておる其方が如何に努めても、皇帝には成れぬ。
成れぬのなら、奪ってしまうだけよ。………アハハ……ハハっ……。」
「ブラウン男爵を重用したのは何故ですか?」
「あの男はただの平民。隣国サルマティア王国で男爵位を得ただけの男よ。
大したこともしておらぬのに……重用されて……。
だから、利用しようと思った。
隣国サルマティア王国が何か仕掛けてくるのかを見極める為に近くに置いた。
ただ、それだけである。」
「クラウディア嬢を私に近づけさせたのも、父上のお考えでございましたのか?
それとも、ブラウン男爵の策に乗じられたか?」
「敢えて言うなら策に乗じたまで。
ただ、消えた。
狩場の件が始まる前に消えおったわ。
隠れるのが上手い。
今はどこぞの国に入っておるのであろう。」
「父上………私は皇帝の位など要りませぬ。
欲するのは、一人の女。」
「まさか………其方………。」
「ええ、そうです。テレーゼ・フォン・シュタウフェンベルク伯爵。
ただ一人です。」
「愚かな………。」
「愚かなのは父上でございましょう。
身の破滅しかない道をお選びになられました。」
「其方は! 父に向かって!」
「カール、時間だ。」
「はい。
父上………私も後から参ります。」
「そうであろうな。一族郎党、皆、殺される。それが世の常よ。」
カールは地下から出ると、溜息を洩らした。




