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元に戻りたい  作者: yukko
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伯爵領

シュタウフェンベルク伯爵になったテレーゼへの結婚の話は全てなくなった。

第三王子は元より、カールもアドリスも別の令嬢との結婚の話を進めなばならない。

私はテレーゼという伯爵の娘ではない。もう伯爵になった。シュタウフェンベルク伯爵より受け継いだ事業を無事に完成しなければならない。

今は忙しく領地を巡り、工事の進捗状況を見ている。

そんな時、カールが訪問して来た。


「テレーゼ嬢、否、今はもうシュタウフェンベルク伯爵でしたね。」

「ええ………カール様、大変ご無沙汰しておりました。

 お健やかにお過ごしでございましたか。」

「ええ、健やかに過ごしておりましたよ。

 シュタウフェンベルク伯爵は、如何でございましたか。」

「ありがとう存じます。私も幸いにして健やかに過ごすことが出来ました。」

「お父上は……残念でございました。」

「父の葬儀に際しましては、誠にありがたく存じます。」

「もう……妻にと願えなくなってしまった……それが残念です。」

「まぁ、大切なお方がいらっしゃるのに?」

「さぁ、何方のことですか、な?」

「ところで、今日はどのようなことでお見えになられましたの?」

「今日は、ブラウン男爵が国外へ逃れたと分かりご報告まで。」

「ブラウン男爵が? 国外へ?

 あの……何がありましたのでしょうか?」

「あの狩場での襲撃の際、ブラウン男爵は体調不良ということで来られてなかった

 のですよ。

 そして、そのまま男爵邸から姿が消えました。」

「では! あの事件に関わっておられたと?」

「そうでしょうね。

 我が屋敷にその時、クラウディア嬢が訪れていたんですよ。

 ブラウン男爵の使者として……出された菓子には毒が入っていました。

 シュタウフェンベルク伯爵が皇帝陛下に進言した小さな魚を入れた(かめ)に小さく千

 切った菓子を入れた。

 すると、菓子を食べた魚は腹を上にして浮かんだ。」

「魚が死んだんですか!」

「そうだ。

 それで、屋敷に留まっていたクラウディア嬢を捕らえた。

 今、我が屋敷の牢に入れている。

 前に私が我が屋敷の茶会で倒れたであろう。シュタウフェンベルク伯爵を招いた

 茶会で……。」

「はい、あれは毒でございました。」

「あれも、クラウディア嬢だった。

 あの時は、私とテレーゼ・フォン・シュタウフェンベルクとの婚姻を結ばせぬ為

 だったそうだ。

 狙ったのは、貴女だった。貴女を狙ったと供述した。」

「嫉妬……ですか?」

「そうだったと供述している。」

「愛しているんですね。カール様を………。」

「迷惑だ。」

「えっ? 大切に御思いなのでは………?」

「どうしてだ!」

「え…………なんと御説明致せばよいのか………分かりません。」

「これだから………私は諦めきれないのだ………はぁ………参った。」

「は? 何か仰いました?」

「否、何でもない。

 先日のお父上が亡くなられた狩場での襲撃だが…………。」

「はい。」

「ブラウン男爵が国外へ逃れたことで他国が関与していると思っている。

 それは陛下はじめ重臣たちも同じ考えである。

 シュタウフェンベルク伯爵もお気をつけられるよう………。」

「はい、心します。」

「それから………どこかの国が何かを仕掛けてくると思う。」

「戦争ですか?」

「あぁ、それも間もなくだろう。

 仕掛けられる前に皇弟殿下が兵を率いられて出られるはずだ。

 私もその中の一人だ。

 生きて帰れなかったら、花一輪でも墓に供えてくれ。」

「カール様! そうなったら無事にご帰還なさって下さい。」

「優しいことを言ってくれる。」

「国内に他国の協力者は居ませんか?

 その人達を見逃したら……国内で皇弟殿下を再び狙うやもしれません。

 帝国の軍事は皇弟殿下が担っておられます。」

「そして皇太子殿下も……な。」

「どうか国内の貴族にもお目を光らせて下さいまし。」

「相分かった。」

「もうお分かりで、動かれているんですよね。公爵閣下は……。」

「そこは……な。

 私も目を光らせよう。」

「お願い致します。」

「また、会いに来てもいいか?」

「どうぞ、お越し下さいまし。」

「ありがとう。」


カールから聞いた話も今までのテレーゼの人生では無かったことだった。

第一、テレーゼの父であるシュタウフェンベルク伯爵の命は狩場での襲撃で失われてはいない。

変わっている。

テレーゼの人生が変わっている。

それが、何故なのかは分からない。



10日後、アドリスがやって来た。

アドリスも皇弟殿下が選んだ中に入っているそうだ。

彼も戦争が始まると戦地へ赴く。


「わ、わ、私が……や、や、役に立つと、お、お、お、思えないのですが………。

 え、え、選ばれました。」

「そうですか…………。

 もし、赴かれたら、どうかご無事でご帰還のほど………。」

「は、はい。帰って来ます。

 ま、ま、また………テ、テ、テレーゼ嬢に……あ、あ、会いたいから………。

 か、か、帰って来ます。

 も、も、もし……か、か、帰って来たら………わ、わ、私は………。

 シュ、シュ、シュタウフェンベルク伯爵の………

 お、お、夫に……む、む、迎えて下さい。」


アドリスが初めてした愛の言葉だった。

アドリスは既にリートベルク伯爵家の嫡男を、リートベルク伯爵に廃嫡を願い出たと言った。

アドリスの幼い弟に継がせて貰いたいと切望し、廃嫡を願い出たのだ。

私は驚いて言葉が出なかった。

返事も出来ぬまま、その日、アドリスは帰って行った。



シュタウフェンベルク伯爵領で異変が起きたのは、それから間もない時だった。

領地内で上下水道の工事についての責任者の一人に任じていた煉瓦職人が消えたのだ。

活性炭を作り出す職人達を取り纏めていた責任者も消えた。

恐ろしいことがシュタウフェンベルク伯爵領で起きている。

対処を間違えると消えた人々の命が保証されない。

私は静かに執事に向かって言った。


「拉致した者達からの要求が有れば、直ぐに知らせて下さい。」

「はい、承知致しました。」

「それから、働いている者達、責任者の安全の確保を!」

「はい、手配しております。」

「ありがとう。念には念を入れねばなりません。

 責任者達の家族の安全の確保も行って下さい。」

「はい、手配致します。」

「それから、皇帝陛下へは既に使者を送っていますか?」

「はい、伯爵の文を届けさせております。」

「ありがとう………こんなことになってしまって……ごめんなさい。」

「いいえ、伯爵………お嬢様……お父上様でも同じことになったと存じます。」

「ありがとう。」


技術を盗むためだと分かっている。

ただ、誰が盗もうとしているのかを私は知りたい。

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