シュタウフェンベルク伯爵
クラウディア・フォン・ブラウンは、ウージンゲン公爵がテレーゼに嫡男カールとの婚約を申し込んだことで、父のブラウン男爵から責められていた。
そして、言った。
「其方が最初から妻に選ばれるわけなど無い。
愛妾になることだ。
期待などしておらぬわ。
ただ、今のままなら愛妾にも慣れずに、ただ付きまとっているだけよ。
早う、愛妾になれ。
もう、どこへも嫁がれぬ年だと分かっておろう。」
皇族が狩場で襲撃された時、ブラウン男爵は狩場に居なかった。
一番、疑われた。
ブラウン男爵に疑いの目が注がれても、クラウディアにはカールしか見えていない。
狩りの日、クラウディアはウージンゲン公爵邸でカールを待って居た。
ブラウン男爵よりの使者として………。
そして、ブラウン男爵は男爵邸から姿を消した。
襲撃して捕らえられた2人は口を割らなかった。
時間だけが経過していく。
この襲撃の黒幕は分からないままだ。
そして、シュタウフェンベルク伯爵は負傷して床に臥している。
もう虫の息で、皇弟殿下に家族のことを頼んでいる。
命を削りながら息も絶え絶えに「私は、もう無理です。どうか妻を、娘を、幼い息子らを………。」と………。
⦅嘘よ……そんなはず無いわ。
だって、私……テレーゼが15歳になってから……。
まだ14歳………どうしてなの………。⦆
このままシュタウフェンベルク伯爵は宮殿内で治療を受けていたが、家族が宮殿に急ぎ到着する前にシュタウフェンベルク伯爵は亡くなった。
夫の亡骸に縋りつくことが出来ない妻。
皇族方の前でそんな姿を見せられないからだ。
現代を、21世紀を生きている者にとっては、信じられない光景だった。
幼い弟達さえも涙を堪えて静かに立っている。
遺体はシュタウフェンベルク伯爵邸に、家族と共に戻った。
屋敷内で、家族だけになった時に初めて夫人は夫に縋りついた。
泣きながら子ども達を呼ぶ。
「お父様にお別れを……。」と………。
幼い弟達も亡き父に縋りつき大きな声を出して泣いた。
私は弟達を後ろから抱き締めた。
自分の本当の父親ではないのに涙が止めどなく流れた。
屋敷は……全ての人が静かに当主の死を悼んだ。
葬儀は事件が解決していないこともあり、家族だけで営んだ。
屋敷の敷地内にある一角に伯爵は埋葬された。
そこは伯爵夫人・ヘンリエッタが決めた場所だった。
「お父様は傍に居て下さいますよ。
ここに来れば、お父様に会えます。」
「はい……。」
「……おとうちゃま……。」
伯爵夫人は子ども達を抱き締めて泣いた。
悲しみから立ち上がるように、ヘンリエッタは宮殿に挨拶に行った。
葬儀が終わったことを報告に行ったのだ。
その場でヘンリエッタはテレーゼの意志を伝えた。
「娘、テレーゼは亡き夫が始めました領地の上下水道事業を、亡き夫の意志を継ぐ
べく行いたいと申しております。
伯爵位を何卒、娘、テレーゼ・フォン・シュタウフェンベルクに賜りたく存じま
す。
男子が二人おりますが、まだ幼く……夫の事業を継ぐことは叶いません。
何卒、ご理解賜り、テレーゼが伯爵を継ぐことをお許しくださいませ。
いずれ、嫡男たるファビアンが成人しました暁には、テレーゼからファビアンに
伯爵位を移譲する所存でございます。」
「………已むを得ぬのであろうな……。
何と言っても、上下水道事業はテレーゼの案である。
最早、我が息子に嫁げとは言えぬな。」
「では………。」
「女伯爵か………第三王子の妃に迎えたかった。
………ベルンハルトの死が………なければ……生きていてくれさえすれば……。
我が友を………失いたくなかった。
何よりも……残念だ……。」
皇帝陛下はテレーゼをシュタウフェンベルク伯爵と認めた。
そして、宮殿の謁見の間に於いて、初めてテレーゼ・フォン・シュタウフェンベルクはシュタウフェンベルク伯爵として皇帝陛下に謁見した。
テレーゼ・フォン・シュタウフェンベルク14歳。
これから、母と弟達、そして領主として領民の命を守る立場になった。




