カール
幸いなことにカールは回復が早かった。
そして、シュタウフェンベルク伯爵夫妻とテレーゼは、自分の屋敷に帰ることが出来た。
安堵した。
数日後、毒をエールに入れた人物を特定し、だれの指示かは不明とのことをウージンゲン公爵の使者から聞いた。
――トカゲの尻尾切り――その言葉が脳裏に浮かんだ。
それとも、公爵家が公にしたくない相手が指示したとも思えた。
ウージンゲン公爵のどのような判断なのか図りかねた。
ウージンゲン公爵から先触れがあり、「カールがやって来る。」ことを知った。
断ることは出来ない。
⦅アポ無しで来られるよりは、いいよね。⦆と思い直して出迎えた。
「シュタウフェンベルク伯爵、並びに伯爵夫人。
テレーゼ嬢、先日はあのような場面に遭遇させてしまい申し訳なかった。」
「そのようなお言葉は不要でございます。
カール殿、お具合は如何でございますか?」
「うん、幸いなことに早く回復出来た。
これは、テレーゼ嬢が飲ませてくれた物のお陰だ。」
「いいえ、そうとは限りません。
カール様の生命力がお強いからだと存じます。」
「テレーゼ嬢、其方は謙虚なのだな。」
「そのようなことはございません。事実を申し上げただけでございます。
まだ回復されて間がございません。
くれぐれもご自愛くださいませ。」
「ありがとう。」
カールが帰る時に「やはり諦め難いな……テレーゼ嬢。」と言った。
その顔は少し微笑んでいるように見えた。
毒は少し苦いようで、何時も飲むエールより苦かったから、カールは少し飲んで吐き出したそうだ。
公爵はテレーゼがカールの飲ませた炭の粉を気にしているようだった。
解毒作用があるのかどうか、を知りたいと思っているようで、その実験をしたいとテレーゼに伝えた。
テレーゼは動物実験を進言した。
進言しながら「ごめんね。」と呟いた。
実験は公爵とその側近だけが知っている。
他には知らせず極秘裏に行われる。
この動物実験の為に公爵家に行くことになった。
行くのが嫌だと思いながら、これからの為に行くことにした。
何故だかカールが迎えに来る。
そして、帰りもカールが送る。
その時間が一番嫌な時間だった。
「実験が始まった故に、其方の元にアドリス殿は通えなくなったな。」
「ええ、左様でございます。」
「会いたいか?……アドリス殿に………。」
「ええ、会いたいです。
エディット様を失われて、どんなに心寂しくおられるのか……。
心配でございます。」
「ほほぉ――っ、アドリス殿を案じておると。」
「はい。」
「そうか………私が毒を飲んだ時、其方は……案じてくれたか?」
「それは、当然のことでございます。
目の前で、あのようなことが起きましたので………。」
「そうか………違いが大きいな………。」
「実験の前に2度も伺いました。
そして、初めての実験も御招き頂きましたので伺いました。
実験に立ち会うのは…少し…………。」
「うん、分かっているよ。
令嬢に見せるものではないからね。
見なくてもいいんだよ。
私がテレーゼ嬢に会いたかったから招いただけなんだ。」
「えっ?」
「いけなかったか?」
「……………私は………私は……心に想う方がおります。」
「………アドリス殿か………。」
「いいえ、この世界では会えない方でございます。」
「会えない?」
「はい、その方への想いを断ち切れません。
申し訳ございません。
私は独りでシュタウフェンベルク伯爵家で生きていきたいのです。」
「そんなにも……想いを寄せておるのか……。」
「はい。」
「そうか………羨ましいことだ。」
実験を行っている最中、私は公爵夫妻とカールとお茶を飲んで過ごしている。
その場に、あのクラウディアは居ない。
そして、実験の終了と共に私は公爵家の馬車でシュタウフェンベルク伯爵邸に送って貰った。
別れ際、カールが私の手に口づけを落とした。
そして、「これくらいは許せ。」と言って去って行った。




