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元に戻りたい  作者: yukko
41/66

14歳の誕生パーティ

いよいよ、その日がやって来た。

私はカール・フォン・ウージンゲンがクラウディア・フォン・ブラウンを伴って来ると思うだけで、身体が震え出して止まらなくなる。

傍に居るシュタウフェンベルク伯爵夫人が、優しく私の震える手をそっと包んでくれた。


「テレーゼ、私が傍に居ますよ。

 貴女は独りではありません。」

「……はい。ありがとう存じます。」

「テレーゼ、私達が傍近く居る。

 無理だと思ったら、直ぐに言うように。

 其方を退出させる故。」

「……は……はい。」


本当に招いた貴族は少なくて、私は気持ちが少し楽になった。

その時、アドリスが夫婦で来てくれた。


「テ、テ、テレーゼ嬢、お、お、お誕生日……お、お、おめでとうございます。」

「シュタウフェンベルク伯爵様、今日は御招き頂き誠にありがとう存じます。

 テレーゼ嬢、お誕生日おめでとうございます。」

「ありがとう存じます。

 アドリス様、エディット様。

 今日はお越し頂き誠にありがとう存じます。

 どうか、ごゆっくりお過ごし下さいませ。」

「あ、あ、あ、ありがとう存じます。」

「ありがとう存じます。」

⦅うふふっ……アドリスったら、頑張ってエスコートしてるわ。⦆


次から次へと挨拶を受けて少し疲れた頃に、目の前にあの二人が進んで来た。


「テレーゼ嬢、お誕生日おめでとうございます。

 シュタウフェンベルク伯爵、今日は御招き頂き、ありがとうございます。」

「カール殿、娘の誕生を祝って頂き誠にありがとう存じます。」

「カール様、ご紹介して下さいませんの?」

「そうだった…済まない。

 シュタウフェンベルク伯爵、紹介します。

 こちらは私の傍に居て色々助けてくれている大切な人です。

 名はクラウディア・フォン・ブラウン。

 男爵令嬢です。」

「左様でございますか。

 初めてお目に掛かります。

 私はベルンハルト・フォン・シュタウフェンベルクと申します。

 隣に居るのが私の妻。」

「ヘンリエッタ・フォン・アルトドルフでございます。

 何卒、良しなに……。」

「そして、娘のテレーゼ・フォン・シュタウフェンベルクでございます。」

「お初に御目に掛かります。

 私がテレーゼでございます。」

「初めまして、宜しく御お願い致します。」

「カール殿、クラウディア嬢。

 どうか、ごゆっくりとお過ごしください。」

「ありがとうございます。」

「さぁ、あちらに、どうぞ。」

「はい。」

「ええ、行きましょう。カール。」

「あ……テレーゼ嬢、今日の体調は如何ですか?

 先般は御倒れになられた。」

「あ……大丈夫でございます。

 お……心、掛けて下さり、誠にありがとう存じます。」

「体調が良いのであれば、今日は一番最初にダンスの相手をして頂けますか?」

「あ………あの、クラウディア嬢がいらっしゃいます。」

「クラウディア、いいよね。」

「まぁ、私は最初ではないんですのね。」

「それは当然だろう。

 今日の主役はテレーゼ嬢なのだからね。」

「仕方ありませんわ。最初のダンスだけですわよ。

 後はずっと……私と。」

「では、最初のダンスは私と踊って頂けますか?

 クラウディア嬢のお父上と年齢が近こうございますが………。

 宜しければ、お相手願いとうございます。」

「まぁ、伯爵様が?

 奥様はお宜しいのでございますか?」

「勿論でございます。 どうぞ、宜しくお願い致します。」

「では、最初のダンスの相手が決まったようですね。

 テレーゼ嬢、後程。」

「……は…はい。」


ダンスは挨拶が終わって、直ぐに始まった。

私は震えていた。


「テレーゼ嬢、震えてるのか。

 其方、今日も具合が悪いのか?」

「い……いいえ、そのようなことはございません。

 お気に掛けて頂き、誠にありがとう存じます。」

「無理はするな。身体が辛いなら、そう言えば良い。」

⦅えっ? これが、あのカール様?⦆

「どうした? やはり具合が悪いのではないか?」

「いいえ、大丈夫でございます。

 ありがとう存じます。」

「そうか……それなら良いのだ。

 辛くなれば何時でも言うが良い。

 直ぐに休めば良かろう。」

「はい。ありがとう存じます。」

「テレーゼ嬢、其方は嫁ぐ気は無いのか?」

「嫁ぐ、でございますか?」

「そうだ。」

「私は身体が良くありません。

 それで、父も母も、このまま過ごして良いと申しております。

 私はそのようにさせて頂くつもりでございます。」

「其方は聡明だと聞く。

 聡明な其方を妻に迎えたいと願う貴族は居ろう。

 嫁がぬと決めたのは、残念なことだ。」

「そのような……聡明だとカール様に仰って頂き嬉しゅう存じます。」

「そのような顔で言われても、嬉しくなさそうだが?」

「それは……そのような顔でございましたか……申し訳ございません。

 決して嬉しくないなどと、そのような気持ちは全くございません。

 ただただ、勿体のう存じます。」

「其方は。様々な事を領地で行って居ると聞いた。

 飲み水と使った水を分けるとか……画期的だが、領地全てに広げるのか?」

「はい、最終的には、領地全てで上下水道の整備を行いたく存じます。」

「じょうげすいどう?、とは何ぞや。」

「上水道と下水道を合わせて上下水道と呼んでおります。

 上水道とは、飲む水、食事に使う水、食器を洗う水、洗濯に使う水、身体を洗う

 為の水のことでございます。

 下水道とは、食器を洗った後の水、洗濯をした後の水、身体を洗った後の水のこ

 とでございます。

 水を分けると、飲み水に使った水が入りません。

 身体に良いと思います。

 病に罹りにくいと思われます。」

「そうか、テレーゼ嬢は貴族の令嬢らしからぬ。

 其方の身体も今より良くなるのではないか?」

「さぁ、それは如何でございましょう。」

「良くなれば嫁ぐことを考えれば良いのではないか。

 このまま埋もれさせておくには惜しい。」

「私如きを、多大に買って頂き誠に有り難く存じます。」

「謙遜はしない方が良い。

 其方のような令嬢は稀だ。

 誰かに取り入ることなど考えて居らぬのだな。」

「はぁ……取り入れるほど、他家の方々を存じません。」

「そうか………あははは……。

 早いな……もう曲が終わってしまった。」

「はい。」

「楽しかった。ありがとう。」

「光栄に存じます。」


カールの手から私は手を離した。

すると、カールが急に私の手を取り、庭の東屋に向けて歩き出した。


「カール様!」

「……………………。」

「カール様、お手を……御放し下さいませ。

 カール様っ! そんなに早く……走れません。

 カール様………お願いでございます。

 お手を御放し下さいませ……カール様……痛い。」

「テレーゼ嬢、何処が痛い?」

「はぁ、はっはっ……息が苦しゅう存じます。」

「テレーゼ……済まぬ。」


聞こえて来た声が3つ。

一つは父の声、もう一つはクラウディアの声、そして一番早く私の前に走って来たのが、アドリスだった。


「テレーゼ!」

「アドリス様……。」

「チッ……騎士の登場か……。」

⦅え? 誰が騎士なのよ。⦆


アドリスはカールから奪うように私の手を取って引き寄せようとした。

それを阻止しようとカールが私とアドリスの間に立った。


「まだ、私とテレーゼ嬢は踊るのだ。」

「そ、それは、う、嘘でございましょう。

 き、急に、て、手を取り、む、無理やり、は、走り出されました。

 ど、どうか、テ、テレーゼ嬢を……お、お父上の……は、伯爵にお返し下さ

 い! お、お願い致します。」

⦅アドリス……吃音が少し改善されてる。偉いわ、アドリス!⦆

「カール殿……娘はまだ快癒しておりません。

 そのように走ると、寝込みます。

 どうか娘を、私にお返し下さい。」

「もう少し、話したいのだ。伯爵、頼む。」

「カール! 私を放っておいて、何をしているの!」

「はぁ……聞きたい話が聞けない。」

⦅何を聞き出したいの? カールの頭の中が分からない。⦆

「テレーゼ、こちらに来なさい。」

「はい、お父様。」


アドリスは私の手を引いて、自分の直ぐ傍に引き寄せた。

私はアドリスの手を繋いだまま、伯爵の前に行った。

アドリスにエスコートして貰っているかのようだった。


「カール殿、娘を休ませます。

 どうか、ごゆっくりお過ごしください。

 クラウディア嬢も、ごゆっくりお過ごしください。

 失礼します。」

「し、失礼します。」


急に体がふわりと宙に浮いたように感じると、それは父の腕の中だった。

父がお姫様抱っこをしている。


「お父様、歩けます。

 下ろして下さい。」

「否、駄目だよ。」

「お父様……皆さんに見られたら恥ずかしいです。」

「何を恥ずかしがることがあるか!

 父が娘を抱き上げて歩く……恥ずかしいことではない。」

「お父様ぁ………もぉ………。」


私は少し拗ねた。

その様子をアドリスが見て笑みを零した。


「テ、テレーゼ嬢、す、拗ねた、お、お顔が……あ、愛らしゅう存じます。」


そう言って、耳まで赤くした。

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