カールとクラウディア
父・シュタウフェンベルク伯爵は私をお姫様抱っこのままで歩き、私の部屋のベッドに下ろした。
傍に母・シュタウフェンベルク伯爵夫人とアドリスが居た。
「テレーゼ、もう休みなさい。」
「でも、お客様がいらっしゃるのに。」
「良い、気にするでない。
私からお話申し上げよう。
ご理解下さる。気にするでない。
気にせずに、ゆっくり休みなさい。
宴は予定より早く終えることにする。
終えてから、其方の様子を見に来る。
良いな、大人しゅう寝ておれ。」
「テレーゼ、お父様が仰る通りになさい。」
「はい、お父様、お母様。
あの、アドリス様。先ほどはありがとう存じます。」
「い、いいえ……だ、だ、大丈夫でございますか?」
「ええ、大丈夫です。」
「で、で、では、こ、こ、これで、し、し、失礼致します。」
「アドリス殿、先ほどは本当にありがとうございました。
娘のこと私より早く気付いて下さった。
感謝申し上げます。」
「アドリス様、ありがとう存じます。」
「い、い、いいえ、お、お、お役に、た、た、た立てたなら幸いです。
で、で、では、し、し、し、失礼致します。」
アドリスは部屋から出ていた。
両親も大広間に戻らねばならない。
その前に両親は交互にテレーゼの額に優しい口づけを落として「ゆっくりなさい。」と声を掛けて出て行った。
「怖かった……カールは何がしたかったの?
前のカールと違うのはどうして?
前は無視してたくせに!
何が違って、こうなったんだろう?
けど、聞きたかってた。
上下水道のことなど、取り組み始めた領地改革のことを………。
何を知りたいんだろう?」
前と違うカールの言動に驚いた。
恐怖は少し薄れている。
何故、変わったのかを私は知りたくなった。
カールが何を考えて、どう動こうとしているのか――それを知りたい。
そして、クラウディア嬢のことも……。
主役不在になった誕生パーティは、早く終わった。
招かれた客が全て帰った後、伯爵夫妻がテレーゼの部屋にやって来た。
「テレーゼ、起きているのかい。」
「起きて大丈夫なのですか?」
「はい、もう大丈夫でございます。」
「そうか、それなら少し話をしても良いだろうか?」
「ええ、私もお父様、お母様にお話したくて……。」
「まぁ、そうなのですか?」
「ええ、先ずはアドリス様のことでございます。」
「アドリス殿?」
「まぁまぁ、アドリス様の何を聞きたいのです?」
「私を助けようと急ぎ来て下さいましたけど………。
奥様がどう思われたか心配です。」
「それは、案じなくとも良いそうだ。」
「そうですの。」
「アドリス殿の奥方は、最初の1曲だけアドリス殿と踊るのだと聞いた。
曲が終わったら、2曲目からは他の方と踊るのだそうだ。
だから、お一人になっておられぬ故、気にせずとも良いようだ。」
「そうなのですね、良かった。
………お父様、お父様のお話を伺います。」
「うむ、其方とは僅かなことでもお互いに知り、考慮することが肝要だ。」
「はい。」
「クラウディア嬢だが………。」
「はい。」
「父のブラウン男爵から当然のこと言い含められてカール殿の傍に居る。
だが、思っていたほどの女性ではなかった。」
「それは、どのようなことでございますか?」
「領地についても、凡そ政などに関心が無く………。
クラウディア嬢は宝飾品やドレスのみ関心があるように思うた。
そして、カール殿に妻として迎えられる日を待ち望んでおる。」
「そうですか。」
「其方とは対極におる令嬢よ。」
「本当に宝飾品やドレスに無関心で、そのうえ、どこにも嫁ぎたくないというテレ
ーゼは、クラウディア嬢とは対極です。」
「お母様……私のことは、さて置き……。
お父様、クラウディア嬢は、公爵様のお屋敷にお住まいなのでしょうか?」
「いいや、公爵閣下がお許しになられていないようだ。」
⦅あれっ? 前と違う………何故?⦆
「………では、お住まいは何方でしょうか?」
「男爵邸だと聞いた。
男爵邸から毎日、公爵邸に行っていると……そう聞いたよ。」
「どんな理由で、毎日……通われているのでしょうか?」
「クラウディア嬢からは『カール殿が来て欲しがるから』と………。
アドリス殿のように学びに行っている訳ではないようだ。」
「そんなこと、貴族の令嬢には許されないことです。
でも、許されているのは、一重に男爵様の意を酌んでいるからでしょうね。」
「彼女は年齢が高いが、社交界で情報の共有をする為に……ではないな。」
「もう縁付いていらっしゃるご年齢ですわ。
妻であれば、情報共有の為に社交界で婚家に役立つように努めます。
それが貴族の妻です。
クラウディア嬢のように未婚では………。
嫁げなかった貴族の令嬢は、家庭教師になるか、若しくは高位の貴族の屋敷で侍
女になる――それくらいしかありません。
公爵邸に通っておられるようでございますが、カール様には家庭教師が既に付い
ておられます。」
「……………………………申し訳ございません。」
「何を謝るのだ?」
「私、縁付いておりません。」
「まぁ、テレーゼはいいのよ。ずっと居て欲しいから、ね。」
「………本当ですか?」
「本当よ。嘘偽りはないわ。」
「そ……そうですか………。」
「テレーゼ、私達は何時までも其方に居て欲しいと願っている。
其方が言った通りに、我が伯爵家が謂れのない罪に貶められないように。
その為にも、其方には傍に居て欲しい。
それに、娘には傍に居て欲しいと願う親も居るのだ。
皆が政略の為に嫁がせるのを良しとしている訳でもない。
私達は、政略で縁付かせなくて良かったと思っておる。」
「お父様……お母様……私はシュタウフェンベルク伯爵家の誰一人として………。
あの場所には行かせたくありません。
これからも……お父様、お母様に助けて頂いて……何も起こらないように。
それだけでございます。」
「テレーゼ、ブラウン男爵との接点を持とうなどと考えてはいけないよ。」
⦅えっ! 何故、分かるのよ。⦆
「それは、私に任せなさい。
と、言っても直ぐに接することは難しいがね。
其方が15歳になるまで、後1年だ。」
「はい。」
「後1年は、もう1年とも言えるが、まだ1年とも言える。」
「はい。」
「皇弟殿下のご体調のこともある。
ご体調のことを具に知らねばならぬ。
今、私は私の人脈を使い探っている。
暫し、待つように……。」
「はい。」
⦅テレーゼのパパ! 心強いわ。⦆
湯浴みをし、温まると睡魔が訪れた。
私はそのまま寝てしまった。
今日のことを書き残せなかった。




