領地改革
皇弟殿下の容態は知れず見舞いの伺いを立てたが、許されなかった。
私はとても残念に思った。
皇弟殿下が何故、表に出られないのか分からないままだ。
このことと、あの斬首刑が、もし繋がっているのなら……見逃してはならないことだ。
「胃洗浄!」
「い……せん……じょう? 何だ? それは………。」
「お父様、もし、もし……皇弟殿下が毒を盛られていたなら、胃洗浄を一番先にす
べきなのです。」
「テレーゼ、その……いせんじょう、とは何ぞや?」
「説明が難しいのですが、お腹の中を綺麗にすることです。
口から水を入れて、吐き出させる。
それによって、毒が身体に回るまでに………あぁ! でも、もう無理です。
今からなど無意味……遅すぎます。」
「そうか……。」
「あ! 活性炭!」
「かっ……せいたん? それは何ぞや?」
「活性炭とは……どう説明したらいいの?
えっと、炭ですね。小さな穴がいっぱい開いている炭です。
活性炭があれば、内服すると毒物を除去出来ます……はずです。」
「どんな炭でも良いのか?」
「それは……分かりません。
木材を焼いて……高い熱で焼くんです。
それから、水蒸気の中に入れて置いたら活性炭が出来る……と思います。」
「分からん言葉が出て来たな。」
「何が分かりませんでした?」
「すい……何とかだ。」
「すい?…………水蒸気ですか?」
「それだ!」
「そっか……水蒸気はもっと後だもんね。産業革命よりも、ずっと前なんだ。」
「テレーゼ?………独り言であるか?」
「あ………はい、済みません、じゃない! 申し訳ございません。
水蒸気でしたね。」
「そうだ!」
「水蒸気とは、えっと……水を火にかけると、湯気が出ますね。
その湯気でも、目に見えないものを水蒸気と呼びます。」
「では、木材を焼き、湯気に当てれば、かっせい……たん?が出来るのだな。」
「たぶん、湯気では無理かと……目に見えますから……。」
「そうか……作れないか……作れたら、人を救える。
皇弟殿下が毒を盛られたということはなく、他の病やもしれん。」
「はい。」
「ただ、今後は必要になるやもしれん。
最初に其方が言った、いせん……。」
「胃洗浄ですね。」
「そうだ! それと、かっせいたん、これを使えたならば命を救える。」
「はい。ただ、申し訳ございません。私は作り方を詳しく知りません。
作るなら詳しく知っていないと……無理かと存じます。」
「そうか……残念だ………いや! 作ろう!
我が領地で……その者達へ充分に賃金を支払う。」
「何年かかっても作れない可能性の方が高いです。」
「それでも、行う。
何もせずにおるより良かろう?」
「そうですね。
それなら、お父様。 お願いがございます。」
「何だ? 言ってみよ。」
「飲む水と洗濯する水を変えたく存じます。」
「変える? 如何にして。」
「飲む水とは別の水を流す水路を作ります。」
「今、何と言うた。」
「飲む水は川から取り、使った水は別に作った水路に流します。
その水路に排泄物も流します。
水路は海に繋げて、最終的に海に捨てます。
そうすれば、水を介した病気を防げます。あ……病です。
病を防ぐために、飲み水と、使った水を分けるのです。
排泄物は庭ではなく、水路に捨てるのです。
綺麗な街になるだけではなく、臭いも少なくなると思います。
どうでしょうか?」
「其方は………その聡明さは……やはりアン・スミスだからなのだな。」
「伯爵………はい、これはアン・スミスの記憶です。」
「未来から其方は来たのであったな。」
「はい。」
「作ろう。領民を守るのが領主の務め。」
「はく……お父様、ありがたく存じます。」
シュタウフェンベルク伯爵は、上下水道完備、活性炭の開発、そして生理的食塩水の開発を領地で始めた。




