執事マリウス
シュタウフェンベルク伯爵に【アドリスの父・リートベルク伯爵は何処にも属されていないこと】を話した。
シュタウフェンベルク伯爵から公爵家の多くが陛下派だと教えて貰った。
「多くとは……殿下に近いお方もおいでだということですか?」
「否、何方にも属さず、様子を見ておられる……といった所であるな。」
「何か動きはありませんか?」
「今の所、目立って何も起きては居らぬ。
ただ………殿下ご自身はお気をつけておられるようだ。」
「お気をつけておられる?
どんな風にですか?」
「なるべく殿下派と呼ばれている伯爵家などと接する機会を減らされておいでだ。
陛下派とも減らされておいでで…………。
ただ、ご体調が優れないとも伺っておる。」
「そうですか………体調不良……………あの……まさか、毒?
あ、そんなこと起きませんよね。」
「殿下が毒を飲まされたと、其方は言うのか。」
「映画の影響です。済みません。」
「えい……が、とは、何ぞや?」
「あ…………………その説明は難しいです。
動く……うう~~ん、絵画? で、声も音も聞こえます。
あの……分かります?」
「分からん。だが、其方の話は奇妙奇天烈で楽しいぞ。」
「あはっ、そうですか………それなら、良かったです。」
シュタウフェンベルク伯爵とそのような会話をした翌々日のことだった。
帰宅したシュタウフェンベルク伯爵を出迎えて直ぐに……。
「テレーゼ! 今直ぐに執務室へ来るように!」
「?…………はい、分かりました。参ります。」
執務室では、テレーゼの母・ヘンリエッタとテレーゼ、そして、執事のマリウスも一緒に話を聞いた。
「今日、宮殿にて公にされた。
皇弟殿下が病に臥せておられる。
予断を許されないものだと陛下は仰らなかった。
ただ、ご心配なされておいでだった。」
「予断を許されない状況ではないということですね。」
「テレーゼ、仰せにならなかっただけかもしれませんよ。」
「そうですね、不安定になりますものね。政治面でのバランスが……。」
「陛下は周囲の思惑とは違うのだ。
弟君であらせられる皇弟殿下を愛しておられる。
ただ、ご自分に自信をお持ちではない。
皇帝になるべき人物は皇弟殿下だと仰せになったことがある。」
「……お父様はどうして陛下の御心を推し量れるのですか?」
「私は陛下の護衛をしていた頃があった。
お若い陛下がそう仰せになられたのだ。」
「そうなんですか……。」
「それで、皇弟殿下は……今、どのような………。」
「分からぬ。何も仰せにならなんだ。
床に臥されておいでだということだけだ。」
「ベルンハルト……皇弟殿下の元へお見舞いに伺うことは出来ますの?」
「いいや、無理なようだ。」
「では、重篤な御様子ですの?」
「いいや、それも分からん。」
「では………。」
「ヘンリエッタ、其方が今思うたこと、そのままよ。」
「あの……それは、どういうことですか?
周囲が見舞いを断っていると?」
「そうだろうな、という程度しか分からぬのよ。
違うかもしれぬ、そうかもしれぬ。」
「ベルンハルト、私はお見舞い伺いを立てますわ。」
「うん、そうしよう。我がシュタウフェンベルク伯爵家として……。
お見舞いが叶うたなら、ヘンリエッタ、其方も私と共に行ってくれるな?」
「勿論でございます。」
「私は、伺えますか?」
「テレーゼは無理だ。」
「そうですか。」
「もし見舞うことが叶うなら、其方は大人しく待って居よ。」
「はい、大人しく待って居ます。」
テレーゼは、間もなく14歳になろうとしていた。
執事マリウスは皇弟殿下の容態の話が終わると直ぐに、少し大きな声で言った。
「旦那様、お嬢様のお誕生日が迫っております。
どうか、14歳のお誕生日はお祝いをなさって下さい。
昨年はご家族だけでございました。
今年はお客様を御招きなさいまして、お祝いをなさいませ。
お願い致します。」
「そうだな、今年のテレーゼの誕生日は……そうしよう。」
「そうですわね、今年は……ドレスも作りましょう。」
「お母様、ドレスはもう要りません。
先日、作って頂いたドレスで十分でございます。」
「まぁ、そのようなことはなりませんよ。
お父様のお顔を潰す行為です。」
「テレーゼ、新しいドレスを作っておくれ。
私は私の顔などどうでも良いが、其方の着飾った姿を多く見たい。
頼む、作ってくれまいか?」
「………What a waste. 」
「うん? 英語か……勿体ない、と?」
「まぁ、無駄遣いだというのですか?」
「済みません。」
「作ります。宜しいですね、テレーゼ。」
「はい。」⦅あぁ――っ、勿体ない。⦆
執事は忙しくなった。
皇弟殿下への見舞いお伺いをせなばならない。
そして、テレーゼの14歳の誕生日を祝うパーティの用意をせねばらならない。
だが、非常に嬉しそうなマリウスだった。




