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元に戻りたい  作者: yukko
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穀潰し

――穀潰し――私は、アン・スミスは貴族のことをそう思っている。

⦅何をしているのだろう?⦆と………。


⦅お茶会? 舞踏会? 社交界? 何を生み出しているというのだ?

 戦争を民は願ったのか?

 農民は願っていたのか?

 イザークは? ベルタは? 望んでいたの?

 そんなはずないじゃない!

 何故、戦争をして、その功績も怪しい人物を貴族にしたんだ?

 こんなのは可笑しい!

 働けよ! 汗を流せよ! 

 着飾るのが……一日に何度もドレスを着替えるのが仕事?

 馬鹿にするなっ!

 そんなのは仕事じゃない!

 私はそんなのになりたくない!………なるもんかっ!⦆


その気持ちを私は、アドリスに言ってしまった。

英語を教え終わった後だった。

紅茶とお菓子を食べながら……呟いてしまった。


「こんな時間……要らないわ。」

「えっ? テ、テ、テレーゼ……い、い、今、な、な、なんて?」

「あ……ごめんなさい。」

「ど、ど、どうしたの……で、で、ですか?」

「アドリス様は……何をされているのですか?」

「は?………な、な、何を、とは……ど、ど、どういう意味ですか?」

「お仕事はありますか?

 日頃、どんなお仕事をなさっておいでなのでしょうか?」

「ひ、ひ、日頃の、し、し、仕事………。

 わ、わ、私は、りょ、りょ、領地のことを……少し……。」

「領地のことでございますか?」

「は、は、はい。ち、ち、父の……て、て、手伝いです。」

「そうなんですね。

 羨ましいです。

 私も何か仕事をしたいのです。」

「わ、わ、わ、私に……ご、ご、語学を……お、お、お、教えるのは……

 し、し、仕事では、あ、あ、ありませんか?

 わ、わ、私は、そ、そ、そう……お、お、お、思っています。」

「そうでしょうか?」

「き、き、貴族の……れ、れ、令嬢が……か、か、家庭教師……。

 そ、そ、そ、それも伯爵令嬢が……。」

「貴族の令嬢や夫人が家庭教師をするなど、普通のことでしょう?」

「そ、そ、それは……そ、そ、そ、そうですが………。」

「私は、もっと役に立つことがしたいのです。

 何かを生み出す仕事をしたいのです。

 だって、貴族は穀潰し。

 農民のように食物を作るでも無し、職人のように物を作る出も無し。

 役に立っているとは思えません。」

「で、で、で、でも……い、い、い、戦の折は……た、た、た、民を守る為に

 た、た、た、戦います。」

「貴方様も戦ったのですか?」

「わ、わ、わ、私は、ま、ま、ま、まだ幼くて……ち、ち、父が……。

 た、た、た、戦いました。」

「そうなのね。」

「テ、テ、テ、テレーゼ嬢の……お、お、お、お父上も……。

 た、た、戦われました。

 み、み、皆、た、た、た、戦ったのです。」

「そうなのですね。お父様も………。」

「わ、わ、私には……と、と、年の離れた、あ、あ、兄が、い、い、居ました。

 あ、あ、兄は………せ、せ、せ、戦死しました。」

「えっ?」

「で、で、で、出来の、よ、よ、良い、あ、あ、兄が亡くなり………。

 で、で、で、出来の悪い………わ、わ、わ、私が、の、の、残りました。

 そ、そ、そ、それで……わ、わ、私が……ちゃ、ちゃ、嫡男として……。

 は、は、伯爵家を……つ、つ、継ぐことに、な、な、なりました。」

「そうだったのですね。

 アドリス様、貴方様は……真面目で優しく、そして、優秀なお方。

 出来が悪いなどと仰らないで下さいまし。」

「テ、テ、テレーゼ嬢……あ、あ、ありがとうございます。

 そ、そ、そんな風に……は、は、初めてです。

 う、う、嬉しゅうございます。」

「私は戦争は大嫌いです。

 民を巻き込む戦争は大嫌いです。

 だから、正しい貴族で居たいと思います。

 戦争を回避出来るような外交力。

 そうであれば……よいですね。」

「え、え、ええ……そ、そ、そう思います。」

「アドリス様、このようなこと伺うのは令嬢らしからぬことでございます。

 なれど、お伺いすることをお許しください。」

「な、な、何ですか?」

「アドリス様のお父上様は……皇帝陛下のお近くのお方でしょうか?

 それとも皇弟殿下のお近くに……?」

「へ、へ、陛下派か……で、で、殿下派か……ですか?」

「……有り体に申し上げますと、左様でございます。」

「ち、ち、父上は……ど、ど、どちらにも、ぞ、ぞ、属しては居りません。」

「左様でございますか。

 私の父も何方にも属しては居りません。

 同じでございますね。」

「つ、つ、妻は、ど、ど、何方からも……お、お、お、お茶会に、ま、ま、ま、招

 かれております。

 は、は、母も……ど、ど、同様に……ま、ま、招かれております。」

「そうなんですね。」

「ち、ち、父は、ど、ど、何方にも、ぞ、ぞ、属さぬと……き、き、決めておりま

 す。」

「私の母も同じでございます。

 父も何方にも属さぬと決めております。」

「お、お、同じですね。」

「はい。」


アドリスとの時間はあっという間に過ぎていく。

今の私にとって、楽しい時間。

英語とフランス語を教えるという仕事。

この世界でのたった一つの仕事なのだから………。


⦅仕事がしたい。生き甲斐が無いのは悲しいのね。

 アン・スミスだったら、仕事が山積み(やまづみ)だったわ。

 それが当たり前で大変だったけど楽しかったな。

 やっぱり戻りたいな。⦆


リアムの顔が浮かんだ。

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