ダンスの相手
私はテレーゼとして何度も15歳までの日々を過ごした。
でも、今、この瞬間は幸せだ。
テレーゼの両親が傍に居てくれる。
独りではないと思える。
それが、こんなにも幸せだと感じる。
ただ、アドリスは幸せな結婚生活とは言えない日々を送っている。
それが悲しかった。
アドリスと2曲も続けて踊ると、私は息が切れた。
「あ、あ、あ、ありがとう。
し、し、し、幸せな……じ、じ、じ時間だった。」
「アドリス様、私にとりましても幸せな時間でした。
感謝しております。」
「テ、テ、テ、テレーゼ嬢。」
「アドリス様、奥様がお待ちだと存じます。」
「あ……………。」
「それに、私は病を得ておりましたので、お恥ずかしいことに息が……
このように切れてしまいました。」
「そ、そ、そ、それは………た、た、た、大変だ。
す、す、す、直ぐに……は、は、は、伯爵の元に………。」
「はい。」
「わ、わ、わ、私が、エ、エ、エ、エスコートしても?」
「ありがとう存じます。 お願い致します。」
「ああ!」
アドリスと言葉を交わしながら、シュタウフェンベルク伯爵と伯爵夫人の元へ向かった。
アドリスは終始話し掛けて来る。
初めての楽しい会話だったようだ。
アドリスは懸命にシュタウフェンベルク伯爵と伯爵夫人に頼んでいる。
自分の語学が拙いから、テレーゼに教えて欲しいのだと……。
シュタウフェンベルク伯爵と伯爵夫人は、困惑した。
テレーゼが未婚女性であること、そして、アドリスには妻が居ること。
当然である。
シュタウフェンベルク伯爵と伯爵夫人が、一つだけ条件を付けた。
「アドリス夫妻にテレーゼが教える。」――それも、前の人生と同じだった。
アドリスは妻の同意を得ると言った。
そして、笑みを見せて「き、き、き、今日は……た、た、た大変……う、う、う、嬉しゅう……ご、ご、ごございました。」と礼を述べて離れて行った。
そして、漸く他の男性と踊っていた妻の手を取り、アドリスは踊り始めた。
それを見て「良かった……。」と思わず呟いてしまった。
その時、テレーゼに声を掛けてきた男性が居た。
その声は私を恐怖の迫に落とす声だった。
「テレーゼ嬢、私と踊って頂けますか?」
声が出なかった。
震え始めた私の身体。
それを見たシュタウフェンベルク伯爵が、私とカール・フォン・ウージンゲンの間に立つように前に進んだ。
そして、言った。
「カール殿、娘を誘って頂き誠にありがたく存じます。
娘はまだ身体が弱ったままでございます。
舞踏会は始まったばかりではございますが、お暇させて頂く所存でございます。
娘の身体を案じる故の親心と思召されて、何卒ダンスのお相手はお許し下さ
い。」
「先ほどまで笑みを零しながら踊っていたではないか。」
「申し訳ございません。」
「テレーゼ嬢、私は其方に聞いている。」
「…………申し訳……ございません。」
「私がダンスの相手では不足か?」
「いいえ、そのような…………。」
ゆっくり歩んできたクラウディア・フォン・ブラウンがカールに告げた。
「カール様、お相手は他の令嬢も数多御出でですわ。
それに、私とも踊って頂いておりませんわ。」
私はクラウディアの声を聞いただけで虫唾が走った。
そして、目の前に居る二人の姿を目にしただけで思い出す斬首刑の直前のことを………。
急に目の前が真っ暗になり、次に目の前に床が見えた。
床が横になって見えた。
⦅あれっ、床が横になってる。⦆
その次に瞬間、また真っ暗になった。
遠くで声が聞こえる。
シュタウフェンベルク伯爵、伯爵夫人、アドリスの声も聞こえる。
カール・フォン・ウージンゲンの声もその中にあった。




