ワルツ
アドリスは優しくリードしながら、テレーゼにこれからも会いたいと話した。
彼は生まれて初めて優しく話し掛けられたことが嬉しかったのだ。
しかも、初めて会った女性に、だ。
彼は今まで笑顔で話し掛けられても、その相手はアドリスを見下した笑みだった。
最後まで話したくても、誰も最後まで聞いてくれない。
途中で父や母が入るか、若しくは相手が話すのを止める。
妻でさえ、初めて会った時、婚礼の後で名乗っただけだった。
後は言葉を交わしてもくれなくなった。
それが、アドリスの日常だった。
今日、初めて会ったのに、優しく最後まで時間が幾ら掛かっても気にせずに笑みを絶やさず、アドリスの言葉に耳を傾けてくれたテレーゼ。
そんな人はテレーゼが初めてだった。
だから、アドリスは本当に嬉しかったのだ。
⦅今日だけではなく、また会いたい! いっぱい話したい!⦆とアドリスは思った。
「わ、わ、わ、私は、ご、ご、ご、語学が……に、に、に、苦手です。
お、お、お、教えて、く、く、く、下さい。」
「私が?」
「え、ええ……そ、そ、そ、そうです。」
「父に聞いてからお返事させて頂いても宜しゅうございますか?」
「は、は、は、はい。」
語学は本当に苦手だった。
だが、アドリスは英語とフランス語を学ぶためと理由を付けたのだ。
それは、前のテレーゼとしての人生と同じであった。
「奥様とご一緒の方が宜しいのではありませんか?
誤解を生むのは賢明ではありません。」
「そ、そ、そ、それは……で、で、で、でも……つ、つ、つ、妻は………。
わ、わ、わ、私を……さ、さ、さ、避けている……から………。
わ、わ、私は、さ、さ、誘えない。」
「左様でございますか……それも併せて父の許しを得ます。
それで、宜しいでしょうか?」
「は、は、はい。
あ、あ、貴女に、ご、ご、ご、ご迷惑を、か、か、か、掛けたくは……あ、あ、
あ、ありません。」
「私のことをお考え下さいまして、誠にありがたく存じます。」
ワルツを踊りながら和やかに話し合っているアドリスとテレーゼを見つめている瞳が二つ。
話し始めた時から、ずっと見られている。
その二つの瞳は、テレーゼを捉えて離さなかった。
ずっと見つめ続けているカール・フォン・ウージンゲン。
そして、二人を見つめているカールの傍に居る女性が、その瞳に炎を宿しながらテレーゼを見た。
それは、あのクラウディア・フォン・ブラウンだった。




