舞踏会
シュタウフェンベルク伯爵が私に聞いた。
「アドリス・フォン・リートベルク……。
テレーゼは彼と話したいのかい?」
「はい、出来ましたら……。」
「彼は愚鈍との噂がございますけれども……。」
「お母様、そんなことはありません。
彼は優しくて思いやりが深くて真面目です。」
「まぁ、そのようにテレーゼは心を寄せているのですね。」
「前の…………。」
「あぁ、そうであったな。
言葉が少し不自由なだけだと、其方は言っておったな。」
「はい。」
「では、挨拶に行くとするか。」
「はい!」
懐かしいアドリスが目の前に居た。
リートベルク伯爵と伯爵夫人に挨拶をしてから、私はアドリスに目を向けた。
アドリスは控えめに立っていた。
そして、次に挨拶した。
「アドリス殿、これが私の娘でございます。」
「私はテレーゼ・フォン・シュタウフェンベルクと申します。」
「わ、わ、わ私が、ア、ア、ア、アドリス・フォ、フォ、フォン・リ、リ、リート
ベルクで……。」
「我が息子のアドリス・フォン・リートベルクでございます。
以後、宜しゅうお見知りおきを。」
アドリスの父・リートベルク伯爵が苛立ちを隠しながら、息子を紹介した。
アドリスは顔を伏せている。
アドリスの隣に居る新妻は、名前を名乗ってからも夫には一瞥もくれず、会話を楽しんでいる。
私はアドリスが可哀想になった。
貴族への挨拶を終えてから、一息入れるためにシュタウフェンベルク伯爵夫妻と庭園に面した大きなバルコニーに出た。
「疲れたでしょう。」
「はい、少し。」
「今日は、もう直ぐ帰るからね。
帰ったら、ゆっくり休みなさい。」
「はい。」
その時、私達に声を掛けて来た人が居た。
懐かしい声だった。
「シュ、シュ、シュ、シュタウフェンベルク伯爵。
な、な、並びに、は、は、は、伯爵夫人。
テ、テ、テ、テレーゼ嬢。」
「これは、アドリス殿ではありませんか。」
「さ、さ、さ、先ほどは、しゅ、しゅ、醜態を……。
お、お、お、お目汚し……い、い、致しました。
お、お、お許しく、く、下さい。」
「いいえ、お気になさらずに……どうか、私の前では、ゆっくり、ゆっくり
お話なさいませ。」
「あ、あ、あ、ありがとう。」
それから私はアドリスと色々話をした。
アドリスが好きな本の話が一番好きだったようだ。
時間が掛かるが、ゆっくり話すと、ほんの少し吃音が気にならなくなった。
「テ、テ、テ、テレーゼ嬢。
ど、ど、ど、どうか……わ、わ、わ、私と……お、お、お、踊って……
い、い、い、頂けますか?」
「宜しいのでしょうか?
あの……奥様と踊られるのではありませんか?」
「い、い、いえ……か、か、彼女は……わ、わ、わ、私とは…………
お、お、お、踊りませんから……お、お、お、お願いします。」
「そうなのですか。」
「あ、あ、あ………シュ、シュ、シュ、シュタウフェンベルク伯爵。
お、お、お、お許し、い、い、い、頂けますか?」
「アドリス殿の奥方が良ければ、娘と踊って頂けると、この子が壁の花にならなく
て済みます。」
「あ、あ、あ、ありがとう存じます。」
「お父様?」
「行っておいで、テレーゼ。」
「はい。」
「アドリス様、娘はダンスを得意としておりません。
どうか、宜しくお願い致します。」
「は、は、は、はい!」
アドリスが手を差し出した。
私はその手に手を重ねた。
アドリスが優しくリードしてくれて、二人でワルツを踊った。
嬉しかった。
二人で踊っていると視線を感じた。
私は視線の先の瞳は、アドリスの新妻だと思っていた。
だが、違っていたのだ。
テレーゼとアドリスを見つめていたのは、公爵の嫡男であるカール・フォン・ウージンゲンだった。




