エスコート
シュタウフェンベルク伯爵のエスコートで進んでいく。
怖かった。
あの二人が待っている場所だからだ。
前の斬首刑で、あの牢獄で、最後に会ったクラウディア。
あの目が忘れられない。
震えていたのだろう……シュタウフェンベルク伯爵が私の手にそっと優しく触れた。
そして「大丈夫だよ。其方の傍には常に私が居る。」と言った。
私の左隣にシュタウフェンベルク伯爵。
そして、私の右隣で歩んでいるシュタウフェンベルク伯夫人が微笑んでいる。
私は嬉しかった。
笑みで返した。
そして、二人に守られるように並んで進む。
進んでいくと、その先に彼が居た。カール・フォン・ウージンゲンが………。
ウージンゲン公爵夫妻の隣に居た。
私は恐怖で足が竦んだ。
その時、「テレーゼ、隣に居るのは私だよ。」と微笑みをシュタウフェンベルク伯爵がくれた。
私は「独り」ではなかった。
涙が出そうになったが、私も微笑みで返した。
進み出てカーテンシーをした。
「公爵閣下、並びに公爵夫人におかれましては……
ご機嫌麗しく恐悦至極に存じます。
今日は御招き頂き、大層ありがたく存じます。」
「シュタウフェンベルク伯爵、良く来てくれた。
伯爵、そちらは?」
「はい、我が娘、テレーゼでございます。」
「初めて御目文字叶い恐悦至極に存じます。
私はテレーゼ・フォン・シュタウフェンベルクと申します。」
「テレーゼ嬢、良う来てくれた。
……健やかそうではないか、伯爵。」
「お心をお掛け頂き誠にありがたく存じます。
まだ、快癒とまでは至っておりません。
今日は久しく体調が整いましてございます。」
「そうなのか、それは残念だ。
我が息子の婚約者であったテレーゼ嬢が健やかであればのう。
今頃、我が息子の妻に迎えておったであろうに……。」
「閣下……ありがたいお言葉でございますが……。」
「分かっておる。ただ……残念だと思うたのよ。
聡明そうな令嬢故に、な。」
「誠に私もそのように思いますわ。」
「未だ、我が息子カールは妻を迎えておらぬ。誠、残念よ。」
「父上。」
「シュタウフェンベルク伯爵、伯爵夫人、そしてテレーゼ嬢。
ゆるりと楽しんでくれ。」
「はい、ありがたく存じます。」
ゆっくり公爵の前から下がった。
下がった途端、私は倒れそうになった。
「テレーゼ! 大丈夫か?」
「は……い。緊張してしまって……。」
「そうか……。」
「緊張の糸が切れたのかしら?」
「お母様……。」
「テレーゼ! ありがとう。」
「テレーゼ……私は?……私には……その……なんだ……おとう」
「お父様、如何なさいました?」
「テレーゼ! ありがとう。」
「お父様も、お母様も、泣いていらしては、変に思われます。」
「そうか……そうだな。」
「泣かないわ。」
「お父様、お母様、カール様は婚礼をお済ではないのですか?」
「まだだ、と聞いている。」
「そうなんですか……。」
「不安か?」
「はい……少し、出来れば私はこのまま伯爵家に居とうございます。」
「そのつもりだ。案ずるでない。」
「お父様、ありがとうございます。」
「テレーゼ……お父様と……うっううう……。」
「お父様、泣かないお約束は如何なさいました?」
「そうであった。」
「テレーゼ、ほら御覧なさい。
リートベルク伯爵がご挨拶なさっていらっしゃるわ。」
見ると、そこに懐かしい顔があった。
アドリス・フォン・リートベルクの顔だった。




