呼び方
シュタウフェンベルク伯爵と伯爵夫人は、私の話を理解しようと努めてくれた。
そして………私に言ってくれたのだ。
「其方の言葉を信じよう。
ただ、私達にとって其方はテレーゼなのだ。
テレーゼでしかない。
だから、これからも其方のことをテレーゼと呼ばせてくれまいか。
この通り、頼む。」
伯爵夫妻が私に頭を下げた。
その姿を見て⦅絶対に死なせない!⦆と決意を新にした。
今までは積極的に調べることなど出来なかった。
でも、今回は……この時間の遡りは、どうしても助けたい!テレーゼを、シュタウフェンベルク伯爵家の人々を……。
私が比較的安心して聞ける相手は一人しか居ない。
アドリスだ。
シュタウフェンベルク伯爵に頼んで、アドリスと話せるようにして貰おう!――そう決めた。
「今……何と言った?」
「アドリスに会いたいです。」
「アドリスとな……何故、彼なのだ。」
「以前のテレーゼの人生で夫だった人です。」
「それは既に聞いた。」
「その後のテレーゼの人生ではカールの妻になりました。」
「それも聞いた。」
「そのどちらの人生でも牢獄から助けようとしてくれたのはアドリスだけでした。
彼なら私に情報をくれます。」
「どうして会っても居ない彼を、そこまで信じられるのだ?」
「彼だからです。」
「どういう意味だ?」
「彼は真面目で誠実です。それは、この人生でも同じだと思います。」
「彼は結婚したよ。其方との縁は結べない。」
「知っています。」
「テレーゼ、彼はアドリス・フォン・リートベルク伯爵令息だ。
安易にアドリスなどと呼ぶべきではない。」
「あ………………そうでした。
申し訳ありません。
私………私、このテレーゼさんの人生では会っても居ないのに……。
つい……申し訳ありません。」
「否、ここには私と妻しか居ないから……誰にも聞かれていないよ。
ただ、気を付けなさい。いいね。」
「はい。」
「アドリス・フォン・リートベルク伯爵令息に会う為には、成さねば成らぬことが
ある。
何を成さねば成らぬのか分かるかい?」
「社交界デビューでしょうか?」
「そうだ! 先ずはそれからだね。」
「それは私が………。」
「頼むよ。」
「はい、承知致しましたわ。」
「よろしくお願いします。シュタウフェンベルク伯夫人。」
シュタウフェンベルク伯爵夫妻はテレーゼから「お父様」「お母様」と呼んで貰えないことが、やはり悲しそうに見えた。
「………お母様と呼んで貰える日を必ず………。」
「そうだね。」
そう二人が話したのは、私が部屋から出てからだった。




