摩天楼にさようなら
深い闇の中に私は居た。
「嫌っ! 怖い!
お願い。戻らせて頂戴。
こんな悪夢は嫌っ!
ニューヨークへ……戻りたい。
リアム……愛してる……会いたい!
リアム……助けて!」
幾ら叫んでも愛するリアムの……その恋しい姿さえも見えない。
暗闇の中、私を恐怖が貫く。
レストランでリアムと食事を楽しんでいた時、車が飛び込んできた時のことを思い出した。
「リアム! リアムっ! 何処に居るの?
怪我、してるの?
無事なの?
リアム……貴方、無事? 無事なの?
返事してよっ! リアム! リアム……リアム……リアム……。
会いたい……抱き締めて……リアム……。」
そして……思った。
「もしかしたら……私………。
悪夢……………死ぬ前に見るって……いう……夢?
確か……カニシアス大学の研究チームが2015年にホスピスで66人に調査したっ
ていうあの死の直前に見る夢?
これは……そんな夢なの?
だったら、私は……私は……死ぬんだ。」
夢の中で私は泣いた。
幼子のように大きな声を上げて泣き続けた。
もう二度とリアムに会えない。
あの腕の中で休めない。
ボスと仕事を、もっとしたかった。
ボスが仕事をしている姿が目に映し出された。
「ボス………私、仕事が大好きでした。
もっと貴女の傍で仕事をしたかったです。」
両親と兄弟を思い浮かべると、目の前に家族の姿が見えた。
「パパ、ママ………ごめんなさい。ごめんなさい。
あぁ………皆に会いたかった……こんな別れは嫌よ。
ジミー……ブレンダ……もう一度……会いたい……。」
そして、リアム…………。
リアムに抱きしめられている私。
「愛してるわ。永遠の愛を………貴方に………。
もう……会えないのね………リアム……。
リアム……同じなら貴方の腕の中で死にたかったわ。
愛してくれて……ありがとう。」
泣き続けた。
リアムの腕の中だったのに、何時しかリアムの姿は消えていた。
幸せな人生だったのだと私は思った。
家族にも仕事にも恵まれて………その上、愛する男性まで得られた。
アン・スミスの人生は幸せに終わったのだ。
もう戻れない……戻りたくても……もう、戻れないのだ。
声が聞こえた。
「テレーゼ!」
「………テレーゼ、お願いよ。目を……目を開けて頂戴。」
テレーゼという名前の人を呼ぶ声が聞こえた。
そして、私は目を覚ました。
「テレーゼ!」
「あぁ……神よ。感謝します。」
⦅?………誰っ?
映画の撮影?
違う………私は女優じゃない。秘書よ。
だったら、誰かの悪戯?⦆
「テレーゼ、声も出ないのかい?」
「大変ですわ。」
「いえ……あの……どちら様で?
ってか! 出て来なさいよ。ジミー!
あんたの仕業でしょう。
もう、大人になったんだからさ。
こんな悪戯しちゃ駄目じゃないの。
ジミー!」
「テレーゼ…………何を言ってる?」
「あなた……テレーゼが………。」
「あの……済みませんが、私はテレー………。
うん? テレーゼ?………………テレーゼっ!」
「そうだ。其方はテレーゼ。」
「え…………………。」
私は、もう一つの悪夢を思い出した。
怖くなって首に手を遣った。
「繋がってる……首と……身体………。」
周囲は驚き、部屋の扉の付近に居る医師を呼んだ。
医師は「記憶を失くされておられます。」と告げた。
記憶が何時戻るか分からないという言葉を添えて………。
ここで、私はテレーゼという伯爵令嬢だった。
幾ら「私はアン・スミスです。」と言っても、誰も私の言葉を信じてくれなかった。
何が起こっているのか私は全く分からないまま、「婚礼の日」に倒れたことを知った。
テレーゼは12歳だということも教えられた。




