里心
12歳で、また時間を遡って目覚めた私。
この1年間は、ひたすら学んだ。
父から皇帝陛下と皇弟殿下とのことなども含めた。
「テレーゼは何故、そのようなことを知りたいのかな?」
「この国を統べるお方が皇帝陛下でございますね。
では、皇帝陛下の弟でいらっしゃる皇弟殿下に興味を持ちました。」
「其方、言葉が………まぁ、良い。私と二人なら………。」
「この国は、周囲の国と……その………上手く外交が出来ていますか?」
「外交にまで興味があるのか?」
「はい。戦争は嫌です。
だから、周囲の国と仲良くしてたら、いいなぁ~っと思いました。」
「そうか……大人のような話をするかと思ったら……やはり愛らしい。
仲良くしていたら、いいなぁ~、か。」
「はい。」
「周囲の国、全てと上手く行っているわけじゃないよ。
でもね、10年前の戦火を経て、今の安定した国になったのだよ。」
⦅戦争があったんだ………知らなかった。⦆
「この国の兵だけじゃなく、民も多く負傷したのだよ。
国境付近の国土は荒れ果てた。
民の家が焼かれ、作物は略奪され、家畜も………。
悲惨なものだった。
あの戦火から、このように豊かな国土に復旧させた。
戦争の時も、復旧させた時も、第一線に立たれて陣頭指揮を取られたのが、王弟
殿下なのだよ。」
⦅王弟殿下! なかなか実力がある方なのね。
……アメリカは攻撃されたこと無いって言ってもいいのかもしれないわ。
あの9.11だけ……それもテロで国家間の戦争じゃない。⦆
「皇帝陛下は? 皇帝陛下はどのようなお働きを?」
「ゴホッ…………。」
「伯爵様、大丈夫ですか?
咳き込まれて……紅茶を上手く飲めなかったんですね。」
「テレーゼ………頼むから、前のようにお父様と呼んでくれないか?」
「えっ? でも、私の父ではありません。」
「テレーゼ………もう、1年にもなるのに………。
まだ、思い出せないのかい?」
「私はアン・スミスです。」
「……テレーゼ……悲しいよ。私は………。」
私は父と読んで貰えないシュタウフェンベルク伯爵が可哀想になって来た。
13歳になった時、アドリスが結婚した。
⦅アドリスの結婚は13歳に決まってるのね。
仲良い夫婦に!って言ってたわ。
二回も助けようとしてくれた。
周囲の人達には見えないのね。
アドリスの優しさと男らしさが………。
真の男らしい男とは、武に猛るのではなく優しさの中に強さがあるんだわ。
この世界でもアドリスの奥様はエディット様なのかしら?
幸せになって頂きたいわ。⦆
時を遡っている今、アドリスに会いたいと思っても、会えるわけじゃないことだけは私にも分かっている。
この世界でアドリスが情報などを与えてくれると決まっているわけでもない。
ただ、会いたいと思った。
あの吃音が懐かしく愛おしかった。
まるで、弟を思うような気持ちだと私は思った。
⦅元気かな……皆……。⦆
もう戻れないのではないかと思い始めた私は、急にアメリカが……ニューヨークが恋しくなった。
「パパ………ママ………ジミー………ブレンダ………元気かな。
会いたい……家族に会いたい………な……。
ボス……もう新しい秘書が居ますよね。
…………リアム……私、戻れそうにないわ。」
夜中、一人ベッドで、そう呟いてしまった。
涙が頬を伝わって流れても私は夜の闇をぼやけた眼で見ていた。
何気なく……夜の闇を見ていた。
その時、シュタウフェンベルク伯夫人が部屋に入って来た。
私は涙に濡れた頬のままシュタウフェンベルク伯夫人を迎えた。
「あ……シュタウフェンベルク伯夫人。」
「テレーゼ! どうしたの?
恐ろしい夢を見たのですか?
涙が……………テレーゼ………可哀想に………。」
「あ………………。」
シュタウフェンベルク伯夫人は私を抱き締めて言った。
「テレーゼ、貴女は私の愛する娘。
どんな時でも貴女の傍に居ますよ。
一人ではありませんよ。
テレーゼが居てくれるだけで私は幸せです。
泣きたい時は泣いていいのよ。」
私はシュタウフェンベルク伯夫人に抱き締められたまま、大きな声を上げて泣いた。
それは、アン・スミスの想いを抱いているからだが、それだけではなかった。
これから先、15歳で迎えるであろう斬首刑への恐怖でもあった。




