お茶会という名の勉強会
アドリスとエディットに英語を教える日がやって来た。
それまでは色々あった。
クラウディアが………カールに言ったのだ。
「どうして、あの方が?」
「先方からの要望らしい。」
「そんなことをお許しになったら、私の立場はどうなるのです?」
「今までと変わりないよ。」
「そういうことではないの!」
「じゃあ、何?」
「あの方の評判が良くなるじゃありませんか。
私は良くならないのに……少しは私の評判のことも……ねっ。」
「それは、そうだね。
だけど、このことは父上がお決めになられたことだから……。」
「だから、それをカール……貴方の一言で……ねっ、お願い。」
「父上に?」
「ええ、教えるのは私! 如何?」
「お願いしてみるよ。」
「ええ!」
カールは父・ウージンゲン公に願い出た。
「父上、どうかアドリス夫妻へ英語を教えるのはテレーゼではなく、クラウディア
にして頂けませんか?」
「其方……あの女に頼まれたのか。」
「父上もご存知でしょう。クラウディアの聡明さを………。
彼女こそウージンゲン公爵の名に恥じぬ働きをします。
どうか父上、ご再考をお願い致します。」
「再考などせぬ。
先方が望んだのはテレーゼだ。
それを忘れるな。」
「父上。」
「この話は二度とするな。良いな。」
「父上、ですが……。」
「くどい!」
「父上。」
「何度も言わせるな。
テレーゼがアドリスとエディットに教えることは我が家にとって良き事。
リートベルク伯爵は、どこにも属さぬ。
我が方に近づけておくために、其方の妻は良き働きをした。」
「父上………。」
「どういう意味か、其方は分かるであろう。」
「はい。」
「もう二度と、クラウディアの名を出すでない。」
「…………………。」
「あれは……欲しがるだけの女よ。
宝石やドレスを与えておけ。それ以外は与えるな。良いな。」
「………はい。」
カールの返事を面白くないクラウディアは、わざわざテレーゼの部屋に鬱憤を晴らそうとやって来た。
「あら、テレーゼ様。」
「ごきげんよう、クラウディア様。
何か御用でございますか?」
「用が無ければ来てはいけないとでも言うの?
私が何処へ行ってもいいのよ。カールが許してくれてるわ。」
「そうですね。」
「じゃあ、どうして御用?って聞いたのよ。」
「初めてお越しになられたからですわ。
何か御用でも御有りだと思いましたの。」
「……用? あるわよ。
ちょっと公爵様が目を掛けたからって、貴女はカールにとって要らないのよ。
分かるかしら?」
「はい、分かっております。」
「私とカールの邪魔をしないで!」
「はい、承知しております。」
「ふんっ!」
何の用か分からないまま過ぎた無駄な時間だと私は思った。
「あぁ~~ぁ、テレーゼって大変ね。
あんなのに目を付けられて……邪魔しないのに。」
「テレーゼ様、何か仰いました?」
「いいえ、何も……何も言ってないわ。」
「では、お着換えをなさいませ。」
「ええ、手伝って頂戴。」
「はい。」
そんなこんなで………やっとアドリスとエディットに英語の授業をする日がやって来た。
お茶を飲みながら英語で話をする。
エディットは難なく話せているが、アドリスは困難だった。
「テレーゼ様、やはり……これからは私一人で伺いたいと思います。」
「あら? どうしてですの?」
「アドリス様が…………。」
「そうね、気落ちするかもしれないわね。
そうだ!」
「?」
「アドリス様、英語の歌を歌いませんか?」
「う、う、う、う、歌?」
「ええ、歌だと大丈夫かもしれませんわ。
やってみましょう、ねっ。」
「でも……大丈夫でしょうか?」
「やってみましょう。駄目で元々でございましょう?」
「はい、そうですね。」
「じゃあ、今から私が歌うから、その後で歌ってね。」
「は、は、は、はい。」
「はい。」
私はドレミの歌を歌い始めた。
♪Let’s start at the very beginning
A very good place to start
When you read you begin with A-B-C
When you sing you begin with do-re-mi
Do-re-mi, do-re-mi
The first three notes just happen to be
Do-re-mi, do-re-mi♪
♪Doe, a deer, a female deer
Ray, a drop of golden sun
Me, a name I call myself
Far, a long, long way to run
Sew, a needle pulling thread
La, a note to follow Sew
Tea, a drink with jam and bread
That will bring us back to Do♪
不思議なことにアドリスの吃音は、話すよりも歌う方が目立たなかった。
アドリスは母国語であるドイツ語の時も、最後まで待ってくれるテレーゼと話す時、酷くならなかった。
「そうですわ。ゆっくりお話しなさいませ。
分かりますもの……分かりますわ。」
「は、は、はい。」
アドリスが自信を持てるように……それを心掛けた。
次第にアドリスのテレーゼへの信頼が高まっていった。
エディットもアドリスと二人っきりの時間が苦痛だったため、テレーゼと三人だと楽しく過ごせた。
二人の信頼を得たことは、義父であるウージンゲン公爵にとって期待以上の出来だった。




