四度目の目覚め
ニューヨークでCEOの秘書をしていた頃には……ジミーの悪戯に笑みを漏らしていた頃には………リアムの隣で寛いでいた頃には……あんなに激しい痛みなど感じるようになるとは思わなかった。
3度も斬首刑を受けるとも思っていなかった。
当たり前だ。
斬首刑など無くなったからだ。
3度目の激しい痛みが私を貫いた後、暗い闇の世界になった。
⦅終わったんだ……もう、もうテレーゼに戻りたくない。
もう……嫌だ。
ニューヨークに帰りたい。
私はアン・スミスなのだから……テレーゼは嫌だ。⦆
そう思っていた。
でも、目を覚ますと………そこは、あの部屋だった。
「お嬢様! お目覚めになられましたか。」
「え……………………。」
「今日は婚礼の日でございますから……旦那様も奥様もお待ちでございますよ。」
「え……………………私、12歳?」
「はい、左様でございますよ。
如何なされました? お嬢様、お年をお聞きなられるなど……。」
「なんでも………ないわ。」
「さぁさ、お起きくださいまし。
今朝はご家族がお揃いでご朝食を召し上がりになられる最後でございます。」
「最後………。」
「さぁ、お召替えを………。」
考えが纏まらない私は、促されるままに立ち上がった。
そして、されるままに着替えを終えた。
髪も整えられて、家族が待つダイニングに向かった。
「おはようございます。お父様。」
「おはよう。テレーゼ。」
「テレーゼ、その挨拶はいけないわ。」
「は…い。」
「もう一度お父様のご挨拶なさい。」
「良いではないか。」
「そうは仰いましても、テレーゼは今日より公爵御嫡男の妻になりますから。」
「だから、良い。 今は良い。」
「お父様………おはようございます。本日もご機嫌麗しゅう存じます。」
「テレーゼ……おはよう。」
「お母様………。
おはようございます。今朝もお健やかそうで何よりでございます。」
「おはよう。ご機嫌いかがでして?」
「はい、ありがとうございます。今日は一段と爽やかな朝でございますので、
良き目覚めでございました。」
「それは、宜しゅうございましたわね。」
「おはよう。ファビアン。」
「おはようございます。お姉様。」
「おはよう。モーリッツ。」
「おはようございます。お姉ちゃま。」
「テレーゼ………其方と今日の婚礼の後は、会えぬ。」
「はい。」
「会えぬが、其方は我が娘ぞ。
大切に育てた娘であり、何処に出しても遜色ない女性に育ったと父は思う。
其方は良き妻になり、良き母になる。
其方の母のように……。」
「お父様………。」⦅私の望む姿じゃないわ。でも、親の愛を感じる。⦆
「本来は、この食卓で話すことではない。
昨夜話すべきことであったが、昨日朝まで其方は熱を出して臥せっておった故。
今になった。」⦅へぇ~~っ、発熱……うん?⦆
「はい。ありがとうございます。お父様。」
「お姉ちゃま、何処かへ行くの?」
「お姉様は嫁がれるんだって聞いただろう?」
「とつがれる……?」
「忘れたのかい? モーリッツ。」
「お兄ちゃまは、知ってるの?」
「知ってるさ!」
「お兄ちゃまは凄いね!」
「そりゃあ、お兄様だからだよ。」
「ふぅ~~ん、お母ちゃま。僕は何時お兄ちゃまになれますか?」
「まぁ……それは……神様の思し召しですよ。」
「ふぅ~~ん。」
賑やかな朝食だった。
これがシュタウフェンベルク伯爵家が家族揃って摂った最後の朝食だった。




