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元に戻りたい  作者: yukko
13/26

アンナ

目が覚めると、見知らぬ部屋だった。

でも、ニューヨークのあの部屋ではなかった。

リアムと暮らしていた部屋ではなかった。


⦅やっぱり、ニューヨークへは戻れないんだ。⦆


涙が出て来た。

その時だった。


「あらっ? 起きたのね。」


声が出なかった。

バレたことが怖かった。


「……………………。」

「まぁ……泣いてたの?

 大丈夫、大丈夫よ。」


そう言って、その女性は私を抱き締めた。


「お父さんは? お母さんは?」

「…………………。」

「貴女の名前は?」

「…………………。」

「覚えてないのか……言いたくないのか……。

 どっちにしろ聞いても無駄なのね。

 いいわ。

 誰か分からない女の子。

 これから、どうしたい?」

「……働きたいです。」

「うん! そうよね。

 働かないと食べられないものね。

 ………じゃあ、私の伯父の所へ行く?」

「………どこでもいいです。

 ここから、離れられたら………。」

「分かった。

 叔父の所は、ここから遠いの。

 食べたら連れて行ってあげるわ。

 たぶん、伯父は喜んでくれるから……。」

「そうなんですか?」

「ええ…………ちょうど……貴女くらいの女の子が居たのよ。」

「居た?」

「………うん、居たの……亡くなってね。」

「そうなんですか。」

「だから、喜ぶわ………たぶん。」

⦅……たぶん、なんだ。でも、受け入れて貰えて働かせて貰えたらラッキー。⦆


食事の時に男性と会った。

男性は優しく抱き締めてくれた女性の夫だった。


「起きたのか……。」

「おはようございます。」

「おはよう。」

「さぁ、食べましょう。」

「早く食べないと、俺が食べちゃうぞ。」

「頂きます!」

「あんなこと言うから……あんたは!」

「あはは……食べないよ。ゆっくり、お食べ。」

「はい。」


朝食に出たのは、伯爵邸とは大違いだった。

少しだけ野菜が入ったスープとパンとチーズだけだった。

その食事が美味しく感じられた。いつもの食事よりも……。


「お腹が空いてたのね。

 いい食べっぷり。

 でも、これだけなのよ。」

「ありがとうございます。

 食べられただけ……幸せです。」

「そうね、食べられただけでも十分だわ。 幸せよ!」

「ご馳走様。行ってくる。」

「行ってらっしゃい。」

「あ……行ってらっしゃい。」

「おう。しっかり食べるんだぞ。」

「はい。」


一緒に食べているその女性は名乗った。


「私の名前は、ザビーネよ。

 今出て行ったのが私の夫、名前はハンス。」

「ザビーネさんとハンスさん、よろしくお願いします。」

「貴女の名前は……うう~~ん、何にしようか?」

「アン………。」

「アン……ナ? アンナは………あぁ……アンナ、アンナ!」

「………はい!」⦅私の名前に近いわ。何だか嬉しい。涙が……。⦆

「どうしたのよ。アンナ!

 何で泣くのよ。私も涙が出ちゃうじゃないの。」


馬車に揺られて、私はザビーネの伯父夫婦の家に着いた。


「伯父さん!」

「急に来るから驚くじゃないか。」

「その子は? 誰なの?」

「………その子……。」

「昨日、拾った子なのよ。

 親のことも名前も分からないみたいなの。

 伯父さんの所で育ててやってくれないかな?」

「何も覚えていないのか?」

「覚えていないか、話せないのか……は、分からないのよ。」

「話せない……なら、守ってあげないといけないわ。ねぇ、イザーク。」

「そうだな……ベルタ。

 分かった。うちで育てるよ、ザビーネ。」

「そう言って貰えると思ったわ。

 この子の名前はね。」

「分からないんだろう?」

「うん、でも……決めて来たのよ。

 この子が……この子の口から出た名前なのよ。」

「何て名前にしたんだ? おじさんに教えてくれないかな?」

「おばさんも知りたいわ。教えて頂戴。」

「………私の名前は」

「うん!」

「何なの?」

「私の名前は、アンナです。」

「アン……ナ………。」

「! アンナ………。」


ベルタと呼ばれた人が急に私を抱き締めた。

そして言ったのだ。


「あなた……イザーク。

 この子は神が与えたもうたのよ。」

「うん、そうだ。そうに違いない。」


ベルタが私を抱き締めて、その二人をイザークが抱き締めた。

その姿を見ているザビーネは泣いていた。



私は、今日からアン・スミスではなく、テレーゼ・フォン・シュタウフェンベルクでもない。

ただのアンナになったのだ。

アンナとして生きていけば、あの斬首刑は回避出来る。

ただ、抱き締められている私の脳裏にはアメリカの両親のことが過ぎった。

そして、その次に、シュタウフェンベルク伯爵夫妻の姿と声が過ぎったのだ。

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