7.久方のヴェーナム
「あっ、ヴェーナムの街が見えてきたよ!」
ユノが、街道の先に見えた建物らしきものを指差していた。
ジャン兄妹と森で会ってから数日、ようやくヴェーナムの街に到着した。
途中、私が動けなくなったりと休憩を挟みつつ通常の倍以上の時間をかけてようやくたどり着いた。
まったくもってジャン達には迷惑をかけっぱなしだった。私が動けなくなってしまい、「先に行ってほしい」と声をかけたにもかかわらず、「病人をこんなとこに置いていくなんて出来ない」など「父さん母さんに命の恩人を見捨ててきたって言ったら、家を勘当されちゃうよ」と言って、私が動けるようになるまで辛抱強く待っててくれたのだ。
本当にごめんなさい。
私の体調は、レルの『癒しの魔法』により、どうにかこうして歩けるようにまで回復した。ただレルいわく、「心の傷は、自分で認め・受け入れ・許さない限り完全にはなくならない」とのこと。
最終的には、私自身がしっかり向き合わないといけないんだろう。長い間見ないよう、心の奥に封印していたものが、どんなに時がたとうとまるで昨日の出来事のように浮かびあがってくる。
私がこうしてヴェーナムの街に来ようと思ったのもきっとそのタイミングがきたってことなのだろう。
私が若干暗い面持ちで下を向いて歩いていると、レルが
「ミズ、あれっ!なんかすっごい変わってない?」
少し驚きを含んだ声で話しかけてきた。
そりゃぁ、年月も経てば街も変わるでしょう、まったくこれだから精霊は時の流れを軽く見がちなんだから、と顔を上げるとそこには私が知る【街】ではなく、【都市】と言えるほどの大きさの壁がはるか向こうまで続いていた。
以前のヴェーナムは、簡易的な門のみがあるだけだったが、今は、高くそびえる壁だけでなく、入り口には検問所を兼ね備えた金属でできた門扉が両サイドにあり、兵士らしき人が数人その場所を警備していた。
私が驚きの顔で立ちすくしていたら、ユノがそれに気づき、
「ここがヴェーナムだよ!まだまだ驚くのは早いんだから。中に入ったら、ちゃんと案内するから楽しみにしててね!」
「う、うん。すっごい大きな街でびっくりしちゃった。いつからこんな立派な街になったんだろう。」
「いつからって、ずっと前からだよ。この街を守ってる壁もかなり昔に出来たってじいちゃん達が言ってたし。あれ、ミズってヴェーナムに来たことあるの?」
「い、いや、初めてだよ!私も人伝てに聞いた話と違うなぁと思っただけだから。」
危ない、危ない。私のこと覚えている人間なんていないけど、私がとんでもなく長寿だってバレちゃうとこだったわ。私は、普通の旅人なんだから!
そう自分に言い聞かせていると、私の肩に座っていたレルがなんともいえない含みのあるため息をついた。
ヴェーナムの検問所を旅人として無事に通過し、街の中に入ると、外からの想像のさらに数倍の規模の発展ぶりだった。
昔のヴェーナムは家と店がひとかたまりであり、そのほかは田畑や、家畜を飼う牧草地が広っがっているだけだった。
それが今や、都市と呼べるほどの立派な建物が立ち並び、人も大勢道を行き交っていた。
夜には街灯のようなものが道を照らし、昼間とはまた違った雰囲気になるそうだ。
またもや唖然とした私の手をとり、ユノが自分達の家である宿屋へ連れていってくれた。
「父さん、母さん、ただいま!遅くなっちまってごめん!それが、訳あって…。」
ジャンが言い終わるかいなや、ゴチン!!
店の奥からすごいスピードで出てきた女性がいきなりジャンの頭にゲンコツを落とした。
「いってっっ!」
「どこに行ってたんだい!!まったく!しかもユノまで連れて!どんだけ心配したと思ってるんだい。父さんも自分が探しにいけないから、ギルドに行ってあんた達の捜索を依頼しに行こうとしてたんだよ。本当に良かったよぉ、もう…。」
ジャンの母親らしき女性は、ジャンとユノを両脇に抱きしめ、涙ぐみながら安堵の表情を浮かべていた。その様子にジャン達も思いの外両親に心配かけていたんだということに気づき、それぞれ反省と謝罪の言葉をかけていた。
「それで、母さん、この女性なんだけどね、」とジャンがひとしきり落ち着いたところで、私との出会い、帰りが遅くなったことを説明すると、
「えっ、ちょっ、それをなんで早く言わないんだい!これは失礼したね。二人を助けて頂き、本当にありがとうございました。しかも体調が悪いなか、ここまで来ていただいたなんて。ウチは宿屋兼料理屋なので、上の客室を好きに使ってくださいね!お腹が空かないようなら、スープだけでも部屋に運ばせますから。」
「えっと、初めまして、旅人のミズです。こちらこといきなり来て泊まらせて頂いてすみせん。私の体調のせいで随分皆さんに心配かけるようなことになって、申し訳ないです。ですので、この二人をあまり叱らないであげてください。」
「ミズさん、こっちは二人分の命を助けてもらっているんだよ!あなたがそんな恐縮するとこじゃないわ。さぁ、今日はもう疲れているだろうから、詳しい話は、また明日にでもしようかね。ユノ、ミズさんを部屋に案内して。」
「はぁ〜、疲れたぁー」
私が久々のベットにダイブし、その柔らかさ、そして上質とは言えないが、清潔に保たれ、お日様の匂いのする寝具に体も心もとろけそうになっていた。
「ミズ、具合はどうなの?」
レルが心配そうに私の顔を覗きこんだ。
「大丈夫だよ、今のところ。まだこう胸のところの重さとかざわつきはあるけどね。で、このあとどうしようかね。この宿にそんな長くはお世話になれないし。どこか拠点になるところ探さないと。 そういえば、以前私が住んでたとこってどうなってるんだろうね。なんか全然違う街になっちゃって、どこがどこだかわからなくなってるし。」
「そうだね。あの美味しい果物くれたおばあちゃんたちの家ももうないのかもね。」
そういえば、レルは当時お世話になった老夫婦のおばあさんによく果物をもらっていたっけ。あのおばあさん、なぜかレルのことが薄ら見えていたらしく、「妖精さん、妖精さん、今日は美味しいりんごを持ってきましたよ」と話しかけていた。ただ、レルと会話は出来ないらしく、「あっ、おばあちゃん、ありがとー。ってか毎回言うけど、私は妖精じゃなくて、精霊だからね!」と不毛なやり取りをレルと言葉が通じないなりに交流していたなぁ。
「よし、まずは街の探検。そして、今はどんなものが売れるのか市場調査。どのみちなんか仕事はしないとね。しばらくはこの街にいるつもり…だし。」
そう、逃げてばかりじゃね。今回は、過去の私と向き合うの!そして、時がきたら、笑ってこの街から旅立つのが私の目標!
そして、古龍クレーブとの約束も果たさなきゃいけないしね!




