5,人との出会い
「あぁ、やっぱり緊張するー。…ねぇ、レル。人間の街って他にもあるでしょ?そこに今から変更するってのはどう??」
「なし!何言ってるの?もうー!いつまで臆病風吹かせるつもり?以前、古竜と睨み合った時の方がよっぽど恐怖体験だと思うけど。」
そうですよねぇ…。はぁ。
私は幾度となく、ため息をつきながら、ヴェーナムの街へと歩みを進めていた。
ヴェーナムまであと1日というところの森で、レルと夕食を食べた。
「ミズはさぁ、街についたらまず何がしたいの?」
「ううーん、街並みを見て回って、それとぉ、あっ、もちろん食事を楽しむ!これ大事だよね!レルは?」
「私も食べ物かなぁ。あと、人間の状態の確認かな?」
「状態?襲われるかどうかってこと?えっ、なに?こっちの人間って凶暴化したりするの?そんなの絶対行きたくないんですど、っていうか、もう行きたくないよー!」
「そんなわけないでしょー!ミズ、落ち着いて。行きたくないのは、元々あなたのビビりさんのせいだから。で、人間の状態っていうのは、精神や進化具合のことだね。この世界ってさぁ、人間種族以外にもたくさんいるけど、なぜか人間の状態に同調するよう気の空気が引っ張られるんだよね。人間の状態が怒りや不安に満ちてくると、この世界も魔獣が増え、魔妖国の活動も反意的になる。まっ、人間の状態がこの世界の一つのバロメータだね。」
「そうなんだ。レルって、まるで監視人みたいなことしてるのね。」
監視人って……。
ミズは本当に鋭いのか、鈍いのかわからないね。
精霊の役割は、この世界の調整。
善悪の判断ではなく、この世界がちゃんと機能しているかどうかを見守り、異変があれば精霊の霊気を解放して不穏な気を鎮めていく。
人間の種族以外は、基本自分達の領地以外に出ないし、興味もない。なので、異種族同士の争いもあまりない。だが、人間だけは異種族の領地を手に入れようと考えるものや、同種族同士で争ったりする。
本当に目が離せない。自ら滅びを選んでるようにも見え、この世界を破滅に追い込むのではないかと、他種族からはあまり好かれていない。
「あぁ、もうすぐかぁ…。とにかく私は大人しく目立たないよう、そう、空気のようにしてるから!
レルもイタズラとかしないでね!」
「ミズ…。私のことをなんだと思ってるの。それに、多分人間で私を認識できる人は、ほとんどいないから。それを忘れて私に向かって話してたら、それこそ変な人になるのはミズだからねぇ。」
「あっ、そうだったー!最近、レルがわかる種族のところが多かったから、すっかり忘れてたよ」
ミズが頭をかきながら、自分の記憶を振り返っていた。
「とにかく明日も歩くから、早く寝よう。よし、『結界』」
ミズが右手を空に向かって上げ、詠唱するとキーンとした透明な結界が周囲5メートル四方に張られていた。
いつ見てもミズの結界は、特殊だよね。
バリアだけでなく、その結界内は気まで浄化されてしまうんだから。
「おやすみ、レル」
ミズは、空間魔法より創り出した、本人のみが物を出し入れできる亜空間よりお手製布団を自分とレルの分を出し、寝る準備を整えて布団に入った。
レルもあくびをしながら布団へ入ろうとしたとき、
「だれかーー、だれかー、助けて−!!」
その言葉にミズとレルは、布団から飛び起きた。
「レル!今の聞こえた?なんか助けを求めてたよね?たぶん、今の声の感じ、子供の声のような気がする。行ってみよう!」
「うん、わかった。でもなんでこんな夜の森に子供がいるんだろう。…とりあえず西の方角だね。」
私は足の強化魔法をかけ、声の方向へ走りだした。
数分すると、巨大な蜘蛛が小さな女の子を口から出した糸でぐるぐる巻きにしており、そのそばでは10代くらいの少年が手に持った剣で、どうにかその糸を切ろうとしていた。
よく見るとその少年も、体中蜘蛛からの攻撃を受け続けていたのか、傷だらけだ。
「ミズ、あれ、ジャイアントナイトスパイダーだよ。夜行性で、夜目がきくから、眠って油断している獲物を糸で縛りあげて、動かなくなったところを巣に持ち帰るんだよ。」
「ひぇ〜、ちょう怖いんですけど!絶対捕まりたくないんですけど!でも、早く助けないとあの少年もそろそろヤバそう」
蜘蛛の足技攻撃をかろうじてかわしているけど、もう体力が残ってなさそうね。
「蜘蛛の糸ってネチャネチャしてほんっと良い思い出ないよのね!ネチャネチャには、ネバネバ攻撃よーー!!」
ミズはそう言うと、魔法で粘度の高い透明なもの空間に作り出し、それを蜘蛛の上から落とした。
蜘蛛は突然現れたネバネバの液体に手足の自由がきかなくなり、苦しそうにもがきはじめた。
「これで最後よ!『ファイア』!」
ミズからはなたれた火の玉が、蜘蛛にあたり、ネバネバに絡むように火が燃え移り、動かなくなった。
「ふぅ〜、討伐完了。 あっ、待ってて。今、その蜘蛛の糸をとってあげるから。それより、あなたも大丈夫?だいぶ怪我をしているみたいだけど」
突然現れ、あまりにもあっけなくジャイアントナイトスパイダーを倒したミズに二人は呆然としていた。
ミズに声をかけられて少年が、
「あっ、ありがとうございます…。そのー、あなたは…?」
「私?ここからちょっと離れていたところでお布団に入ろうかなと思っていたら、助けを呼ぶ声が聞こえてここに参上したわけよ。私の名前は、ミズ。本当によかった〜、もうちょっと遅かったらあの蜘蛛の巣に連れ去られてたわよぉ。おお、こわ。私、絶対、蜘蛛無理!!」
ミズは、腰のホルダーに差していたナイフで少女の体に巻きついている糸をサクサク切りながら、恐怖の顔で答えた。
「『お布団』?(ここ森だよなぁ、野宿じゃないのか?) あの、俺、冒険者やってるジャンって言います!こっちは妹のユノです。」
兄のジャンは、18歳。髪は薄茶色で冒険者やってるだけあって、細身だが、しっかりした体格だった。前の世界でいう『細マッチョ』というやつだろう。
妹のユノは、同じく薄茶色の髪をツインテールに結んで、兄と顔つきは似ているがまだ10歳ということで、さっきまでの恐怖体験にまだ怯えの色が顔に残っていた。
ジャン達は、家業の宿屋で提供する食材を探しにこの森へ来ていたらしい。夜になってしまったのも、なかなか良いものが見つからず、ジャンが冒険者であることにも油断してしまった結果だった。
「普段は父さんが市場で仕入れをするんだけどさ、怪我で仕事を休まなくちゃいけなくなって。俺、普段冒険者やらしてもらってるから、こういう時こそ恩返ししなきゃって、高級食材目当てに森まできたらこの有様で…。ユノ、本当にごめんな。怖い目にあわせて。」
「ううん、わたし、普段お兄ちゃんと一緒にこうやって行動できないから、今日はすごく楽しみだったの。もちろん、おっきな魔物が出た時は怖かったけど、こうやってお兄ちゃんが助けようとしてくれたこと、すっごく嬉しかったよ。」
ヤバい、泣ける。なに、この麗しき兄妹愛!
そして家族愛。私もま…
「ミズ。『私も混ざりたい』なんて思ってるでしょ?あなたのような鈍チンさんには無理だからね。」
レルがいつのまにかそっと私の肩に乗り、ジャン達に気遣いながら、ボソボソと耳打ちした。
私は反論したい気満々だったけど、ジャン達には見えていないだろう存在と話すことができず、悔しさをにじませながら言いたいことを飲み込んだ。
「とりあえず、この先に私のキャンプ地があるから、そこで一夜を明かしましょう。二人とも疲れてるだろうし。 そうだ、ジャンもユノも怪我してるよね、えっとぉ、どれがいいかなぁ…。これ、飲んで!私の特製「万能薬」です!」
ミズが、亜空間より二つ瓶を取り出し、二人に渡した。
「『万能薬』ですか?うーん、冒険者やってる俺でも初めて聞いたんですけど。…これって、もしかして、『エリクサー』って呼ばれるものなんじゃ…。」
ジャンが渡された瓶の中身が弱い光を放っていることに目を見張り、恐る恐るミズに尋ねた。
「やっだー、そんなわけないじゃん!ただの体力回復薬だと思って。私が適当ポイポイって作ったやつだよー。あっ、でもちゃんと師匠の効果のお墨付きをもらってるやつだから安心して。まぁ、師匠からは『お前の薬は効果にムラがある』って怒られるけど。」
ジャンとユノは、訝しながら恐る恐る瓶の中身を飲み干した。すると、体からふわぁっ力が抜け、全身の痛み、疲労感が抜けた。
「うぅっ、なんですか?!この薬!!こんな効き目の高いの、知りません!」
「お兄ちゃん、これ、すごい!さっきまで息が苦しくて、体中がガチガチだったのに、いま、まるで空に浮いてるみたいにかるいよ〜!」
うんうん、喜んでもらえてなにより。
たまに効果が高すぎるのがあってちょっと心配だったけど、よかった。
以前、森人サイラスの上司の魔獣から受けた古傷を治す為に回復薬を作ったら、飲んだ瞬間100歳くらい若返ったって言われた時は、驚きとともにサイラスにめっちゃ怒られたからなぁ。この世のことわりを覆えす気か!って。
よし、人間に渡す時はもうちょっと気をつけよう。
…赤ちゃんになったら困るもの!!




