4.レルとの出会い
レルと二人、ヴェーナムの街へ向かい始めてから、1週間がたった。あと、もう2、3日で街が見えてくるだろう。
レルとの旅は、気楽だ。
景色の良いところを眺めながら、お腹が空いたら気配を消しては魔獣を狩って、森人仕込みの解体手捌きで食料にもできるし。
私は素のままだと、魔獣が近寄らず見つけられないので、敢えて魔力を隠蔽しなければいけない。
以前サイラス達に、その隠蔽方法を教わり、習得するまで、食材になる魔獣が狩れないと知った時は落ち込んだ。 自分の魔力が村の皆の安全を守ると同時に食料不足も招いていたからだ。
今では魔力の出力具合を細かく調整できるようになり、サイラスには本当に感謝している。
「ミズ、なんかソワソワしてるけど、緊張してるの?珍しいこともあるもんだ」
レルが、私を揶揄うように笑った。
「そりゃぁ、するでしょ!!私はこの世界で初めて拒絶というものを知ったんだから!それまでは、なんだかんだ前の世界でもみんないい人だったし、多少のトラブルがあっても最後には解決したし。なのにあの時は…。」
やっぱり心が苦しい。
頭では私も成長したし大丈夫って思っても、体の感覚が拒絶する。あれは、私の人生において、1番きつい記憶だ。命の危機もこれまで何度もあったけど、それより精神的ダメージの方が私にはよっぽどこたえた。
「ミズ。私は、人間ってほんっと学ばない種族だと思ってたよ。争ったり、天災だったりで、何度も滅びかけてるからね。それでも何度でも復活しているのを見るたびに、「学ばない種族」ではなく、「欲の為に常に前を向き続けられる雑草のような種族」だと思ってるよ。これ、凄いことだと思うんだよ。だって、これだけ知能が発達してたら他の知能の高い種族なら同じ事は起きないようにするよ。それなのに、むしろその負の出来事を活かそうとするんだから。どれだけ自分達の欲に忠実なんだよって思うよ。ミズは、自分のことどう思ってるかわからないけど、心の中では、まだ人間と交流したい気持ちが残ってるんでしょ?なら、やってみればいいじゃん。やってみたら、案外あっけなくうまくいくかもだし、ダメでも私というつよ〜い味方がいるでしょ。」
「レル〜!ありがとう!ほんと、そうだよね。やりたいことを諦めるなんて私らしくないし。レル〜、やっぱり持つべきは心の共〜。」
私は感動のあまり、レルをギュッと抱きしめ、レルの頭にすりすり頬ずりした。
「わかった、わかった、はいはい。ミズって感情の起伏、どうなってるの?落ち込んだり、喜んだり忙しいねぇ。あっ、ミズに一つ忠告ね。他の人間と自分が同じだとまだ思ってたら、また失敗するからね!」
「えっ、何が??」
「何がじゃないから。全て。見た目も発言も能力も。」
「…。じゃ、私ってなんなんのよぉ。」
私が少ししょげた感じで聞くと、
「わからん!」
…ちょっとー、なんなのよー!!
私レルとミズとの出会いは、ミズが森人達と別れ、初めてヴェーナムの街へ向かう旅の途中だった。
私は大地の精霊としてまだまだ未熟な状態で、意識もまだはっきりしていなかった。その状態のまま、フラフラと飛んでいたら、邪気だまりのある泉へ迷い込んでしまった。感覚でまずいとわかるが、体の魔力が少しずつ抜けていき、移動する事もできなくなり、とうとう草むらにしゃがみ込んでしまった。
あぁ、私、大地を癒すことも満たすこともできないまま、消えてしまうんだわと自身の消滅を覚悟していた時、突如、強大で異質な魔力がこの場を一瞬で支配し、これまであった邪気が何事もなかったかのように消え失せてしまった。
「えっ、なに?」
自分がとうとう幻まで見るようになったのかとも思ったが、まだ飛ぶ事は出来ないが、体を動かせるようになって初めてこれが現実なことに気づいた。
「助かったのか?」
それなら早く魔力を回復させて、安全なところに移動しないと。邪気は消えたが、元々邪気だまりができるような魔物が多い場所なのだから、すぐに身を隠すか飛んで逃げないと。
だが、体が思うようにいかず、レルは焦りを感じていたら、
「あら、あなた、大丈夫?っていうか、生きてる?やだ、動いてるから本物じゃない!」
突然目の前に、黒髪の少女が現れたかと思うと、レルの体はその少女に抱き起こされていた。
「ちょっ、ちょっ、ちょっと!何!あなた、何者?っていうか、私が見えるの?いつからそこにいたのよ!」
レルは急な気配と女の子の行動に驚き、慌てて女の子の手から逃げようとした。
「待って、待って、妖精さん!私は、悪い者でもなんでもないから安心して!私は、ミズっていうの。どこか具合悪いの?それなら、私、回復魔法使えるから治せるかもしれないよ!」
ううん??あなた、どう見てもただの人間にしか見えないけど、魔法が使える?どういう事?私が見えるって何者よ!
この世界で魔法が使えるのは、森人、竜族、薄暗いところを好む地族だけだ。はるか昔は人間も使えていたようだが、世界を巻き込む大戦を起こした人間が神から怒りを買い、魔法が使えなくなったと言われている。
ミズと名乗った女の子は、この世界では珍しい黒色の髪をしているが、見た目は人間だ。なのに、彼女の体から滲み出るオーラや魔力が桁違いの量だ。
まだ未熟者のレルだが、大地の精霊として彼女の存在自体が一個人を遥かに超えた、この世界そのもののように感じ、レルはほぉーっと体の力を抜いた。
「精霊さん、どうしたの?痛いとこあるの?」
レルが急に大人しくなったことに心配したミズが慌てて聞いてきた。
「……。大丈夫よ。どこも痛くないから。ただちょっと魔力の回復が間に合ってないだけ。それと、私は妖精ってものじゃないわよ。これでも立派な大地の精霊なんだから!ただちょっと、迷ってここに来ちゃっただけなんだから。」
そうレルが言い訳すると、
「そっかー、私と一緒だねぇ。ねえ、精霊さんが良ければ、途中まで一緒に旅をしない?私ね、ヴェーナムという街まで行く予定なんだけど、精霊さんもどこか行く予定なんでしょ?それだったら、安全なところまで一緒に行こうよ!ここら辺さ、なんか薄気味悪い感じがさっきからするしさぁ。」
薄気味悪いって……。それどころが邪気だまりがさっきまであったのに、ミズが消したんじゃないの?
この子、なんにもわかってないわねぇ…。
とりあえず、この辺りを出るまで一緒に行くか。
そうして二人の旅は、そこから当初の予定を大幅に延長し、続いていく。




