16. 【回想】魔妖国編2
首都レアルをまるで逃亡者のように去って、また辺境の街に戻ってきた。
あぁ、あのなんとも素晴らしい建築物の数々を巡って、可愛い小物とかもお土産に買って帰るつもりだったのに。
あの変態自己中男のせいで、トンボ帰りする羽目に・・・。
私の小刀もまだ出来上がっていないようだし。どうするかなぁ。
修理を依頼した職人の地人のオッチャンにこの辺に観光できるようなところはないか聞いたら、ここから西に一日行ったところに『ゼフィル』と呼ばれる大きな滝のようなものがあるらしく、その壮大さにわざわざ国中からこれを見にくる人もいるくらいだそうで、私とレルはそれを見に行くことにした。
「滝?そんなの見て楽しいのかなぁ?」
「いやぁ、レルは精霊だから感動も何もないかもしれないけど、私達にとってはそのエネルギーとマイナスイオンを浴びることに特別な癒しを感じるんだよ!」
「ふーん、そんなものかね。」
翌日、滝のある山へ向かう馬車の中には、私達の他に妖人のカップルや親子づれなど6組ほどいた。
今は、年間で一番水量が少ない時期らしく、観光客も少なめらしい。
その道中も魔妖国ならではの木々や植物、首都ほどではないが変わった形の建物などが見れ、退屈することなく楽しめた。今回の旅の馬車の馬は、首都レアルへ行く時に引いていたあのハイスペック馬ではなく、普通の馬のようだ。それでも他の国の馬車に比べると格段に速いらしいが。レアルから帰るときに御者のおじさんに聞いたが、あのハイスペック馬は1頭で豪邸が買えてしまうほどの値段がするレアな馬らしい。そんな高貴な馬を一般人の移動用に使うなんてすごいね、と私が言ったら、なんでも今の王の一言で決定したらしい。もっと国の循環を活発にせよと。それまでは、自分の興味以外とことん無頓着な気質の妖人達は、仕事以外で住んでるとこ以外にあまり出かけたりしなかったらしい。
山の入り口に到着すると、馬車を降ろされ山道専用車?らしきものに乗り換えさせられた。
それがとても不思議で、客車の下に車輪の代わりに6本の足のようなものが付いていて、これを足のように動かしてでこぼこの急斜面を登っていくらしい。座席もシートベルみたいに体を固定するものがついていて、まるで何かのアトラクションにでも乗っているかのようだった。
「わぁ、すごー!!めっちゃ楽しい!」
この変わった車?は、山道を登っているにも関わらず思ったほど揺れず、快適だった。本当に魔妖国の技術力が凄まじいわ。
1時間ほど登ったら、少しひらけた場所で到着、ここからは徒歩で行くらしい。
車を操縦していた運転手兼ガイドの男性が、
「みなさん。ここから20分ほどでゼフィルが見えてくると思います。ここから水避けカバーを着て、この結界の中を私についてきてください。」
・・・いや、すでにもう滝の轟音が聞こえてますけど。
しかもその水しぶきの影響か、周囲が細かい霧に覆われていて、体中がしっとりしてきた。
水避けカバーを着ないと、ずぶ濡れになるのね。それにしても、結界の中って、何か魔獣でもいるのかしら?
ガイドさんについて行くこと、20分。
「!!!!!」
そこにあったのは、私が前の世界で見てきた滝がまるでせせらぎに感じるほどの規模のものがあった。
そこは対岸、滝壺も見えないほどの超巨大な真っ暗な穴に水がまるでブラックホールに吸い込まれる勢いで流れていた。
「レルー!大丈夫ー?」
「これはやばいわ。ここまでとは思わなかったわ。このパワーはやっぱりこの土地の妖力のせいね。」
滝の轟音に会話もままならない状態で、半ば私も叫びながらレルに聞いた。
レルは、滝から噴き上げてくる水飛沫と風を避けるように私の上着に避難していた。
この滝は結界なしの素のままでは、風圧で立っていることもできないので見学場所が限られており、その周囲には風を遮るように結界が張ってあった。その結界の中にいてもこの轟音。これは相当危険なやつだわ。
うん、マイナスイオンとか癒しとかもうそんな次元ではないね。むしろ命の危険を感じるわ。
「みなさん、これ以上の滞在は危険ですので見学は終了です。」
危険?確かに結界を超える轟音となんとなく圧のようなものも外から感じるけど。
私が、きょとんとしていたら同じ馬車で来ていた親切なご夫婦の女性が私の近くに来て説明してくれた。
「ここはね、特に大地からの妖力が濃いところの一つなの。私達妖人ですら直にこの空気に触れ続けると、妖力酔いになって意識がなくなったりするのよ。人族のお嬢さんなら数分ももたないわ。」
そんな恐ろしいところとはつゆ知らず、おいそれと来てしまったのね。
滝の周囲に生えている木や草もよく見れば、全体的に紫がかって、曲がりくねって伸びていた。どうやら大気中の妖力の粒子を大量に浴びつつけているからだそうだ。
先ほどの女性の話からとても危険なところだったけど、その雄大さと底がみえないほどの大自然の未知な姿に感動を覚えつつ、帰りを名残惜しんでいた。
元に来た結界の通路を歩いていると、先を歩いていた別のグループの方から騒がしい声が聞こえてきた。
「どうしたんだろう?」
「結界の外を飛んでるやつがいるぞ!」
「えっ、大丈夫なのか?」
「まじで、やばいやつなんじゃないのか?」
みんなが見ている方を見ると、この結界の通路の上を飛んでいる男がいた。
へぇ、妖術って空も飛べるのね。まぁ、建物も浮かせるぐらいだからなぁ。
なんて呑気に考えていたら、
「ふっ、やっと見つけましたよ。人間のお嬢さん」
「あっ、変態自己中男!なんでって、私を追ってきたってこと?!」
「レアルからいなくなったと思えば、こんな辺境の山奥にいるなんて。私に手間をかけさせないでください。」
「誰もこんなとこまで追ってきてほしいなんて頼んでないわよ!っていうか、どうやってここだってわかったのよ?」
私は、自分の気を完全に消している。魔力で追うのは不可能だ。
「私は妖鬼であり、妖術に関してはこの国に私に右にでるものはいないのです。あなたが去った場所に残った気を分析し、呼吸レベルで吐かれた気までも検知できる妖術であなたの足跡を追ったのですよ。」
なにそれ!怖すぎる。
「それより、あなた結界の外にいるけど大丈なわけ?」
「あぁ、私にはこの程度の妖力の濃さなら全然問題ないです。『禁忌の大地』周辺はもっと濃いですからね。これぐらいで耐えられないようでしたら、妖鬼とは言えないですね。それから自己紹介が遅れましたが、私はシャイアと言います。それでは、ここからレアルに戻りますよ。」
「はぁ?!行かないわよ!私はここで用が済んだら、ダズラムに戻るんだから」
「それはゆゆしき事態ですね。あなたを力ずくでレアルに連れていく必要があるようです。」
シャイアはそういうと、両手から触手のようなものを出し、なぜか結界を通り抜けて私を捕まえた。
「この間の鎖ではあなたには通じなかったのですが、今回はそこから逃れられませんよ。対魔力用の捕縛術です。」
「くっぅ・・・。離してよ!私に何の用があるのよ。」
「そうですね、人族のようなのに森人のような大地の魔力を使ったり、聖女と呼ばれる伝説上に存在したらしい者のような神聖な力を感じたりとこんな研究材料としては見逃せません。人間には過ぎた能力ですよ。」
レルは私の服の中に隠れたまま、体が動かないようだ。
「このままこの結界の外に出してしまえば、人間のあなたでは意識を保つのももって2、3分でしょ。服に隠れている精霊は霊力に敏感なので、あなたよりもっと早くに体力ごともっていかれるでしょうね。」
「レルー!!」
「あなたが大人しくついてくるのでしたら、このまま結界の中を移動させてあげますよ。」
「卑怯者!!」
「卑怯?無能で、無力な人族からそんなことを言われるのは心外ですね。自分たちの実力も知らずに無駄に戦いに明け暮れて、国、いやこの大陸を滅ぼすようなことをずっと繰り返している種族に何を言っても無駄ですかね。」
「確かにそういう人たちもいるよ。けど、私は皆んながそうじゃないって知ってる。私の能力は私が必要って思ったところで使うの!この力は誰かを悲しませたり、苦しませたりするためにあるんじゃない!特にあなたみたいな自己中男が興味本位で扱っていい能力じゃない!」
私はまた怒りでレアルで起こした自身の気を解放しようとした。
「おっと、その手はもう通用しませんよ?私にはこの対魔力結界の道具がありますからね。それにそれをやるとあなたの周りの妖人達も巻き込んでしまうのでは?」
「うぅ・・・」
「では、大人しくついてくるしかないのですよ。」
もうこのままついていくしかないのか?対魔力結界って何なのよ?あんなの戦争に使われたら、他の種族なんてあっというまに滅ぼされちゃうでしょ。
諦めの考えが頭をよぎった時、ふっと昔聞いた森人サイラスの言葉を思い出した。
『ミズ。この大陸には魔力を持たない代わりに他の力を使う種族がいます。その者達は非常に知力が高く、魔力で攻撃してくるものに対抗できる術を持っているそうです。そんな者ともし、対峙しなければいけないことになったらあなたは魔力ではなくあなただけが持つもう一つの能力で対抗しなさい。きっと相手はそれを攻略する術もなく抑え込むことができるでしょう。ただし、それはミズが本当にピンチになった時にしてください。あまりに威力が大きいので。』
ーーーーもう一つの能力。
それは、神聖力。神々の力を授かったとされる奇跡の力。
私がこの世界に落とされた時に放出された力。
あれは私が無意識に使った力だったが、そのあとサイラスにいろいろ教えられた。
森人でも使うことができるのは、ほんの一握りだ。
この世界に来た当時は魔力と神聖力がゴチャまぜに発動していて、それをしっかり自分の中で切り離して使うことができるようになったのだ。
私は久しぶりに私の奥底で眠っていた神聖力を引き出し始めた。
そう、これをすると段々と意識が遠くなる。
意識のレベルが上がることで、無の境地になるのだ。
私の中を神聖力で満たし始めると、私を掴んでいたシャイアの妖術の触手が消えて行った。
「これは、・・・・?魔力ではありませんね。すごいです。そうですか、私の妖術をまるで氷を溶かすように簡単に消してしまうとは。」
『フレイル』
私がそう唱えると、上から光の輪が何重にも重なってシャイアの上から落ちてきた。
そして一つの筒状になると強い光を放ち、一瞬にしてシャイアは消えた。
「えっ、あの男消えたぞ?」
「死んだのか?」
周りはシャイアが消えたことで動揺が広がった。
私にゼフィルのことを教えてくれた女性が心配して、
「お嬢さん、大丈夫?あなた強いのね。さっきの男性、妖鬼でしょ?そんな人を打ち負かしちゃうんだもん、驚いたわ。」
「ありがとうございます。私なら大丈夫ですよ。あの男のことなら心配ありません。あっ、もちろん殺してもいないですよ?彼の元の場所に強制送還しただけです。」
「あら、そうなの?何があったかわからないけど、またあなたを追ってきそうな勢いだったわよね。」
「ふふ。その点は心配無用です。あの男はあと1年はレアルから出れないので。」
そう、あの光は指定地点への強制送還ではなく、送還先の都市から期限付きで出れなくなるという『不可視の檻』という術をかけといたのだ。本当は一生涯にしようかと思ったけど、あれでも『禁忌の大地』からでてくる凶暴な魔獣の討伐を引き受けてくれてる特務隊の関係者らしかったので、私達が安全にこの国から出発して、もう追ってこれないほどに移動し、痕跡も消えるまでにしておいた。また、息の気を追ってとか言われたら、気持ち悪いからね。
うん、私って良心的だわ。




