15,【回想】魔妖国編1
私が魔妖国へ行ったのはたまたまだった。
その時訪れていた地人の国ダズラムの職人ケダンから、私の愛用の小刀の性能を上げるには、魔妖国でしか採れない鉱物を使うのがいいと聞いたからだ。魔妖国の噂はいろんなところで聞いていたので、ある程度は知っていたがあまり行きたくなる話ではなく、今まで様々な旅をしてきたが、そこは訪れたことはなかったのだ。
小刀は、私が慈念樹の森を出るときに森人サイラスからお守りとしてもらったものだ。魔物を捌くのにもよし、接近戦で敵を仕留めるのもできる抜群の性能を持ったものだ。ただ、いくら森人からもらった特別な刀でも、長い年月でだいぶ切れ味が悪くなっていたのもあり、剣や刀の制作・修理の職人がたくさんいる地人の国へ来ていたのだ。
ダズラムから魔妖国へは、年に1、2回ほど商人達がわざわざ大勢の護衛を雇って行き来するぐらい危険な行路なのだが、貴重な鉱物や植物がそこでしか手に入らないためらしい。そんな条件なので、ケダンからは行く事を止められそうだったのだが、私とレルは3週間くらいですんなりと魔妖国へ到着した。その秘密は私がダズラムと魔妖国の間にある慈念樹の森を通ることができるからだ。通常は、森人の結界とその周辺に出る魔物との遭遇を避けるために大きく迂回しないといけないので、2ヶ月弱はかかるのだ。私の場合はむしろ久しぶりの慈念樹の森を通ることができたので、とても楽しかったぐらいだ。ただ私が森にいる事を感知した森人サイラスから、「たまには帰ってこい」との魔通信が入った時は、私のおかんか!と思ったことは秘密である。
いざ魔妖国に到着してみると、思っていたよりずっと近代的な国だった。妖人達はというと、すれ違う人はみなクールビューティー系な顔立ち、長身・引き締まった体躯をしていた。魔妖国というからにはもっとおどろおどろしい、いかにもな感じかと思っていたのだが。噂とは当てにならないのである。人間である私は目立ってはいたが、みなちらっとこちらを見るだけであまり興味がないようだった。まあ、余計なトラブルが避けられて良かったけど。
最初に私達が行ったのは、ダズラムの職人ケダンから紹介された職人の工房だ。早速小刀を見てもらい、メンテナンスと鉱物を使い性能を上げる依頼をした。そこの職人は妖人ではなく、地人のオッチャンだった。なんでも鉱物の豊富さに心を奪われてしまったらしい。どうにも職人気質らしい理由だ。
私の小刀は、鉱物との相性合わせや馴染ませるための時間がかかるようで、2週間後また来るよう言われた。
うーん、その間暇だし、せっかくだから首都レアルへ行ってみようかってレルと話し、次の日にレアルへ行く馬車に乗ることにした。
魔妖国はとてつもなく広大な土地を持ち、首都レアルはその中心に位置していた。国境の街である辺境のこの街からはかなりの距離があるので3日で着くと言われたときは信じがたかったが、馬車乗り場に行って驚いた。通常の馬よりかなり大きな体で筋骨隆々の足を持ったハイパワーな馬が、一台の車を4頭で引いていた。馬のパワーだけでなく、妖術がスピードと快適性を上げるために使われていて、乗ってみるとまさしく前の世界の自動車のごとく速さと揺れのなさで進んでいった。魔妖国のすごいところは、乗り物がもうスピードで移動が安全にできるように道幅がどこも広く、人が歩く道とは分けられて整備されていた。いわば、高速道路のようなものだろう。
あっというまに首都へ着くと、レアルではさらに驚きの景色が広がっていた。
見たこともないお椀のような形をした建物が宙を浮いていたり、どこにも窓や入り口がないただの塔がそびえていたり。とにかく奇天烈摩訶不思議な建物だらけで呆然とした。
ここでも妖術を転用した技術で、みなが思い思いの建物を造ったらこうなったらしい。建築基準とかないんだろうね。私も一気に「ファンタジー、きたーー!!」っとテンションが上がり、私的に一番乙女心をくすぐったオーロラのような光の帯をゆらゆらと纏った球型の建物にあるカフェに入った。入る時は、看板に手を触れると入り口が現れる仕組みのようだ。カフェの中は外観とはまた違った雰囲気で、近代的な感じとファンシーさを合わせもっていた。
オーダーは、席につくとタプレットのような文字盤が現れ、注文が完了し数分すると音が鳴り、テーブルの中央から頼んだ飲み物とお菓子が出てきた。
「これはすごいね!」
「ミズ、頼んだものよりこの仕組みの方が気になるんだね。」
「そりゃ、そうだよ。こんなの元の世界にだって存在しなかったんだから!」
音と共に現れる飲食物が不思議で不思議で、この後2回も追加注文をしてまった。
レルと共にお腹も心も大満足にカフェを出ると、広場で他の妖人より遥かにガタイがいい男達が二人、言い争いをしていた。
警らの人らしき制服を着た人が男達を止めようとしているがどうにもその勢いに飲まれているようだ。
「あの言い合いしてる二人、妖鬼だね。通常の妖人なら止められないよ。」
「妖鬼?」
「妖人の中でも武術と妖術があるレベル以上になって進化した人達のことだよ。」
「えぇっ、じゃ誰も止められないじゃん。どうするのよ。」
「俺の方が強いに決まっているじゃないか!」
「はぁぁー!?お前はいつからそんな偉そうになったんだよ。俺はな、お前より早く特務隊入隊し、妖鬼にもなったんだ。俺の方が強いに決まっているだろう!」
「ふんっ!何言ってんだ。俺はこの間特務隊第3部隊副隊長になったんだ。俺の方が実力を認められたんだから、俺の方が強いんだん!お前はまだ平隊員だろ?」
「そっそれは、俺の第4部隊の副隊長にはまだ空きがないだけだ!実力はお前よりある!お前こそただ運が良かっただけじゃないのか?」
「なんだとー!!」
・・・えーー。こんなくだらないことで喧嘩してるの・・・。
噂で脳筋種族と誰かが皮肉っていたけど、あながち間違いじゃないのね。
心配して損したわ。
「レル、もう行こう。私、小物を売ってるところにも行きたいんだよね。」
私達が呆れてその場を去ろうとすると、
「おい、そこの人族の娘!お前から見て私の方が強いように見えるよな?人族は目利きができるって聞いたぞ?」
「そうなのか?人族は力も魔法も大して使えない者が大半の、弱小種族と聞いたことあるぞ!」
ちょっとー、なにそれ。すっごい失礼なんだけど。そんなことより、私をそんなくだらない内容の喧嘩に巻き込まないでほしいんですけど。
「私は人族ですけど、目利きはできません。でもどちらもそんな大したことないんじゃないんですか?こんな大衆の面前でどうでもいいこと言い合ってるくらいですし。どうしても聞きたいなら他の人にでも聞いてください。」
私はそう言って歩き出そうとしたら、20メートルは離れていたはずの片方の男がものすごいスピードで私の元に来て、腕を掴んだ。
「痛っ!」
ちょっとー、レディの腕をそんな馬鹿力で掴むんじゃないわよ!
「こっちの質問に答えるまで帰さん!で、どっちが強いと思うんだ?」
「知らないわよ!そうやって人族を馬鹿にしてるくせに、力ずくで従わせようとするなんて。痛いから離してよ!」
「馬鹿にしてるんじゃない。事実だろ?弱いくせに争い事をわざわざ引き起こし、この大陸の平穏を脅かす愚かな種族だ。『禁忌の大地』からの魔物を押さえている我らの言うこと聞いても文句は言わせん!」
そういうと男は掴んでいる腕の力を更に強めた。
やばい、このままだと骨が折れる。
私は、咄嗟に私の腕を掴んでいる男に雷魔法を放った。
「うっ。」
男は小さくうめいたのち、その場で崩れ落ちた。
「おい!娘!何をしたんだ!」
もう片方の男がすごい剣幕で私の方へ来ようとしたので、すぐこの男にも雷を放った。
今まで言い争っていた妖鬼二人が突然、倒れたことに周囲の人々が騒めいた。
「レル、騒ぎが大きくなる前に帰ろう。」
私が今度こそと立ち去ろうと振り向いたら、別の男が立っていた。
その男は、今まで出会った妖人達が平凡だと思えるほどの、まるで昔見た彫像のような端正すぎる顔立ちに、スマートな長身、腰まで伸びた黒髪を緩く一つに結んでいた。目の色は他の妖人同様黒だったが、瞳孔部分が金色だった。
私と目が合うと、すぐつまらなそうな表情を隠すこともなく、
「愚か者どもが騒いでいると言うので私が直々に来てみれば、これは貴方がやったのですか?」
「そうだけど。これはあくまでも正当防衛ってやつだから!こっちの男に腕を掴まれて仕方なくよ。」
私はそう言って、赤く痕に残った腕を見せた。
「ふーん、そうですか。人間の貴方にねぇ。一応、この倒れている二人も妖鬼のようですが、このざまなのですね。私も途中から見ていたのですが、この者達は一瞬で倒れたように見えました。毒や呪いの類ではないようですし、どんな魔法を使ったのでしょうか?私達妖人は魔法ではなく妖術を使いますが、ある程度魔法抵抗を皆持っています。しかも妖鬼に進化した者ならば更に魔法攻撃があまり効かないはずなのですがね。」
「そっ、そうなの!?別に特別なことは何もしていないけど・・・。ともかく、あなたが何者か知りませんが、途中から見ていたなら私が悪くないこと知ってますよね?なら、もう疲れたので帰ります。」
「それは困りましたね。この愚か者達はあとでしっかり処遇を決めるとしても、貴方のことはちゃんと調べなくていけなくなりました。」
「なんでよ?!」
「それは私が興味を持ったからです。最初は人族ですし特別な魔道具でも使っているのかと思ったのですが、まさか魔法を使って一撃とは。」
やばい。変な奴に目をつけられたみたい。
しかもこいつ、絶対さっきの喧嘩していた二人より強そうな気がするし。二人の仲間か上司なの?
「レル。こいつ絶対、やばいよね。逃げた方がいいよね?」
「間違いないね。多分魔妖国でもトップクラスの実力者だろうね。この人、私のこと見えるみたいだし。相当、魔術にしろ妖術にしろ感知能力が高いよ。」
私達は意見が一致したところで、どうやってこの場から逃げおうせるか思案していると
「うーん、このまま逃げられたら厄介ですね。死んでしまっても面倒ですし、ひ弱な人間相手に手荒な真似はしたくなかったのですが、仕方がありませんね。」
男がそう言うと、私の体に金属製の縄のようなものが巻きついた。レルはなんか変な球体の結界みたいなものに閉じ込められ、気を失っていた。
「レル!!・・・うぅっ!なにこれ!ちょっと、外してよ!」
「そちらの精霊の方は厄介そうなのでちょっと眠って頂きました。さぁ、これから私の執務室で貴方の使う魔法のことを聞かせてもらいましょうね。」
「・・・ふっざけんな!!あんたみたいな人に話すことなんてない!さっきの喧嘩していた男達とやっていることはなんら変わらないじゃない。そうやって力ずくで人に言うことを聞かせようとするなんて、やっぱりあんたも相当な愚か者だわ!!」
私はあまりの怒りに今まで押さえ込んできた気を全開放した。
その瞬間、私の体中の毛が逆立つような気配がして、ぶわっと金色に光る濃密な空気の圧が広範囲に渡って一瞬で広がった。
「!!!なんだ、これは。体中が・・・苦しいのに、なぜか神々しく感じる光。なんて神秘なんだ・・・。」
「このバカ二人と一緒にあなたも反省した方がいいわ。人族を舐めんなってね!!」
私の憤怒の気の圧に苦しくもがきながらも何故かこの男は恍惚とした表情で私を見ていて、気持ち悪さに身震いした。
私は仕上げにと、私の魔力を最大限使った結界をこの男の周りに張った。
「この結界は、今から3時間は解除されないようになっているから。ちなみにあんたがどんなことをしても壊れないし、その中じゃどんな術も無効化されるから無駄な抵抗はやめることね。それじゃ、もう二度と会うことはないと思うけど。さよなら。」
男は結界の檻の中で何か言っているようだが、私の声は向こうに届いても、あちらの声は外には一切もれない。
周りで呆然と今までの出来事を見ていた妖人達は、私が歩きだすと、まるで化け物を見ているかのように慌てて離れていった。
「ミズの最大効力の結界だから神や精霊王クラスじゃないと破壊できないだろうね。」
レルがいつのまにかあの変態自己中男の術が解けていたようで、私の肩に乗っていた。
「レル。体に異常はない?大丈夫?」
「私としたことが不覚だったわ。あんな妖術、わかっていたらかかるわけないんだから!で、ミズ。これからどうするの?」
「もうここにはいられないから、残念だけど一刻も早くレアルを出発するよ。あぁ、もっとお店見たかったのに〜。あの脳筋男達にさえ出会わなければ今頃・・・。ぐすっ。」
私達は、その足で元いた辺境の街へ戻る馬車に乗り、首都レアルを去ったのだ。




