14.妖人
あれからあの場所では話せないということで、近くのカフェへ移動することにした。
もちろんあの不届きな連中は、警ら隊に事情を説明して回収してもらった。
どこから聞きつけたのかロイド市長まで駆け付けてくれて、「この者達は私が責任を持って厳しく取り調べるのでご安心ください!2度とこのような者が現れないようしっかり警備の者を増やしますので!」そう言い残し、あの優しそうなジェントルマンな雰囲気はどこへやら、かなりご立腹な表情で去っていった。
これはかなり絞られそうな感じがするから大丈夫かな。どこかの貴族のボンボンって感じだったけど。
「ミズ。大変お待たせしてしまいましたね。」
「シャイア。待ってない。そもそも私は、あなたに会いたくなかったわよ。」
シャイア。この男は魔妖国デュべラスの住人「妖人」だ。
妖人は魔法ではなく、『妖術』というものを使うことができる特別な人種だ。
見た目は、肌が薄ら紫がかっていて、頭には角のようなこぶが2つあり、目の色は黒がほとんどだ。
表向きは鋭い眼光で、妖術も使い、体もスマートな者が多いのだが、私の印象はザ・脳筋だ。
強さこそその者の価値を表すという価値観。ただ無駄嫌いな性格のため戦争などは好まず、自国にこもって生活している者が大半だ。私からすれば何の為の強さなのか、それこそ勿体無い気がするのだが。もっと世界を見て周れば面白いのに。
シャイアはその妖人には珍しく脳筋なタイプではなく、冷酷・無慈悲の策略家で人をいかに自分好みに動かすかということに喜びを感じる変態だった。私は以前魔妖国デュべラスへ行き、そこでシャイアと出会っていた。最初は見た目人間の私をだいぶ見下し、馬鹿にした態度をとっていたのだが、あることがきっかけで私を何かの教祖のように崇めるようになり、付き纏いがエスカレートしたところで私が我慢の限界がきて、唯一彼が従っている魔妖国のナンドーチ王の手も借りてこっそり国を出ていたのだ。
シャイアは頭脳派な一面もあるが、「妖鬼」と呼ばれるデュべラスにおいては武力と妖術に長けた国の中枢を動かすトップ3の立場にあった。彼一人で頭脳と武力で小国を滅ぼせるのではという力を持っているのだが、いかんせ自己中の権化のような彼は他人には興味がなく、国に力を貸していたのも彼を知り尽くしたナンドーチ王が相手だったからだろう。
「いやぁ、私とデュべラスのことを考えて、そっと魔妖国を出たんですよね。本当に申し訳なかったです。なので、最速でミズの元に馳せ参じようとしたのですが、貴方の気の消し方が素晴らしくてこの私でも時間がかかってしまいました。ですが、最近ここにある大樹から貴方の気を強く感じたおかけでこうしてまた貴方の側でいられますね。」
あちゃぁ、大樹のせいでばれたのか・・・。
「っていうか、シャイア。あなたの肌の色どうしたの?」
「これは妖術で変えました。元々の薄紫では人族の国では目立ちますし、妖人だとバレますからね。」
シャイアの肌は、私たちの肌と変わりない色に変化していた。
ただ目の色は妖術を使うときに障害があるといくことで、そのままであった。
実は私には効かないのだけど、普通の人間にはシャイアの目の色は茶色に見えるよう幻術がかけられているらしい。
人間の国は大陸の南側に集中していて、魔妖国のある北側とはたいぶ距離が離れていて交流はほぼない。
存在を知らない人々も多い。シャイアは彼なりに私や周りに迷惑かけないようにしたのかもしれない。いや、ただの気まぐれだろう。他人を思いやる心があったら、こんなところまで追いかけてはこないはず!
「シャイアさ、何がしたいのよ?私はあなたが思うほど暇じゃないから、あなたに付き合ってられないのよ。」
「私は、ただミズのそばでいろいろ観察できればそれでいいのです!」
「はぁー。ナンドーチ王は激おこだと思うけど。なんなら連れ戻されるんじゃない?カッザ隊長あたりに。」
「その辺は大丈夫です。カッザは今禁忌の地から溢れてくる魔物の討伐に行っているのでしばらくはこちらには来れないでしょう。」
「えぇ!それって非常事態なんでしょ?むしろあなたがいないと困るんじゃないの?」
デュべラスは北方最果てにある『禁忌の地』と呼ばれる場所と隣接している。
なぜ”禁忌”と呼ばれているのか。それは通常では考えられないほどの瘴気が充満している土地で、そこで生息している魔物も強大な力と体を持っているからだ。通常は、妖鬼たちが張った強固な結界により魔物が入ってくることはないのだが、今回のように稀にそれを破る災害級の魔物がデュべラスを襲うことがある。
それを退治して、結界を張り直すのが魔妖国特務隊だ。カッザはその特務隊の総隊長であり、武力で言えば国一番の実力者だ。あっ、そういえばこの人もただの脳筋ではなく、シャイアが一応嫌がるぐらいの策士である。
魔妖国があるおかげでこの大陸は『禁忌の地』からの強大な魔物に襲われずにすんでいる。
「まぁ、多少は手こずるかもしれませんが、大したことはないでしょう。それより私は貴方のそばでこの神秘の御業を目に焼き付けることの方がよっぽど大切です!」
「えぇー・・・。」
結局、いろいろ押し問答になったがシャイアのヴェーナム滞在は決定してしまい、私もせっかく軌道に乗ってきた屋台を閉めてまた逃げるわけにもいかず、もうシャイアの好きにさせることにした。
ただ肌や目の色はごまかせても、その容姿がなんとも人間離れしているほど整っており(私からすると表情のない中世の石膏像のようだけど)、周囲から注目を浴びてしまっているのが気になるが。
私はシャイアと別れ宿へ戻ってきたら、あの不届き者達のことは街中の噂になっていたらしく、メリサとユノから心配されてしまった。彼らは隣の都市の貴族の子息らしいが、なんでも前からこの街を訪れては飲食店などに無茶な要求をしてトラブルを起こしていたらしく、今回はロイド市長の采配でこの街自体への入ることが禁止された。私が帰宅前に市長自ら説明に来てくれたらしいが、また私がいる時に直接話てくれるそう。
なんと、ありがたや。
シャイアはというと、とりあえずこの街にあるホテルに泊まって家を探すそう。それを聞いた時、腰を据える気かと恐ろしくなったわ。私ですらまだ家探しをどうしようか迷っていたのに。「私がこの街からまたいなくなることを考えないの?」と聞いたら、「ミズのことだから、この街にいたい気持ちとまた迷惑かけるかもと罪悪感の板挟みになっているのでしょう。そういうことを考えている間は貴方は動きませんよ。」と言われてしまった。シャイアいわく、「貴方の時間感覚は森人と過ごしていたせいなのか、人族とはかけ離れておりますからねぇ。貴方の一悩みの時間はここでは一世代分ぐらいはあるのでは?」
ううっ、そんな正論をまともにくらって私はぐぅのねも返せないわ。
今日は、いろいろあり過ぎて疲れたので早く休むことにした。
とりあえず、明日は店は休みだし、買いだしと仕込みを終えたらレルとスイーツだ!
私はユノから聞いたメニューのあれこれを想像しながら、眠りについた。




