12,弁明
パンケーキの屋台を開店し、やっと軌道に乗ってきたなぁと実感が湧いてきた。
当初は、思ってた以上の繁盛でワタワタしていたり、無茶な注文や難癖をつけてくる客に昔のトラウマが呼び起こされて体が固まって動けなくなったりした。その度にいつも周りの屋台のおじさん達が助けてくれ、「おいっ!この店に文句があるんなら俺らが黙ってないからな!」「そうだよ!何、あんたら。ルール守れないようだったら、この屋台街じゃ、どこもあんたらなんて相手しないよ!」と、睨みと圧で迷惑客を追い出してくれた。あんなに開店前は、屋台のおじさんやおばさん達の言葉が荒っぽく聞こえて、何かされたりしたらどうしようかと不安に思っていたが、私がここで商売始めると言うと皆、「頑張れよっ!」と言ってくれてすごく嬉しかった。私でも受け入れてもらえるんだって、皆さんの仲間として認められた気がして安心した。
「ミズならさぁ、あんな奴ら、ささっと麻痺させて動けなくすればいいんだよ。」
と、レルは簡単そうに言うが。
「そんなことしたら、私の能力がバレちゃうじゃん!私は、普通の人として生活したいの。」
そう、みんなから大きな期待をされたと思ったら、勝手に失望されたりするのはもう嫌なのだ。
「ただいまー」
「あー、ミズおかえり!今日は帰りが遅かったね。」
「ユノ、これ、どうぞ。」
「えっ、なに!?可愛いー!髪留めじゃん!」
「お店が早く終わったから、ちょっと足を伸ばして歩いてたら見つけたんだ。いつもお世話になってるからそのお礼も兼ねて。」
「うわぁ、ありがとう。ミズ、大切にするね。」
「これ、ジャンにも。帰ってきたら渡して。」
ジャンには、小型ナイフ用の腰に付ける皮のホルダーにした。森で魔物と対峙した時に、愛用のホルダーが駄目になったとボヤいていたのを思いだしたのだ。
「ミズ、うちの子達にそんないいもん、ありがとうねぇ。」
奥からユノの母であるメリサが手を拭きながら出てきて、お礼を言った。
「いえ、こちらこそいつも助けられていますから。こうして私の商売が軌道に乗ったのもメリサさん達の力が大きいんですよ!」
そう私が言うと、メリサさんやユノは嬉しそうにしていた。
ドンドン
宿の扉を叩く音がして、
「こんにちは。」
「はーい、泊まりのお客さんかい?」
「いえ、私、ロイド・ミザームと申します。ミズさん、いらっしゃいますか?」
「・・・ミザームって、市長さん!?」
「はい、突然の訪問で驚かしてすまない。どうしてもミズさんにお会いして話がしたくて。」
「えっ、私!?」
市長さんが驚いている私を何故か緊張の面持ちで見ていた。
私、何かやらかした?
いや、店のこと?
それとも守護の木と私の事がバレた?
私は、急にいろいろ心当たりを思いだしているうちに、過去の同じような場面を思い出していた。
昔、私の力を森の開拓に使おうと考えた村の偉い人達が私のもとに訪れ、強要しようとしたんだ。
そう、私が協力を拒否したことである事ない事を言われるようになり、この場所を離れることになったんだ。また同じことが起こるの?私は、私のままで好きに生きることはもう人族のもとではできないの?やばい、苦しくなってきた。
私が急に青ざめ、その場で立ち尽くしたことで、メリサさんがいち早く私の異変をキャッチして、私の前に庇うように立った。
「市長。何の用か知りませんが、急に来られてこんなか弱い女性に話があるって横暴じゃないですかね?ミズが怯えているではないですか。いくら市長でもこのままミズを連れて行こうっていうのなら私が容赦しないよ!」
「えっっ、違いますよ!確かに何の前触れもなく訪問したことはこちらの落ち度だ。だけど、ミズさんを害そうとかそういう気は一切ないんだ。ただ、私が一刻も早く確かめたかっただけなんだ。私の推測が正しければ、ミズさんは我がミザーム家、いや、このヴェーナムの大恩人なのだから!」
「はっ!?恩人ですか?どういう事です?」
ミリサさんが狐に包ままれたような顔をして、私に振り返った。
いや、私だってなんの事かわからないよ?
「ミズ。一度話を聞いたほうがいいと思うよ。なんかこの人から懐かしい感じも受けるし。悪い気も感じないし。」
レルがコソッと私の耳元で囁いた。
「・・・わかりました。ここで話して頂けるのなら応じます。」
他に誰もいない宿の食堂で、私とロイド市長が向き合って座っている。まだ、食事の時間には早いと言うことで、急遽ここを借りて話すことにした。メリサさんが私を心配して付き添うことを提案してくれたが、なんとなくこれ以上は迷惑をかけられないと思い、大丈夫だと断った。
「それで、市長さん。お話とは。」
「あぁ、話の前に確認したいことがあるんだ。その、ミズさんはこのヴェーナムに来て、日がまだ浅いと聞いているのだが、以前ここに滞在したことは?」
「・・・なんでそんなこと、聞くんですか?」
「別に責めようと思って聞いているわけじゃないんだ。いや、そりゃ、言いたくないか・・・ごめん。私の名前は先程名乗った通り、ロイド・ミザームというんだ。ミザーム家は昔はね、家名を持たないただの平民だったんだ。だが、御先祖がある事がきっかけでこのヴェーナムをある人に恥ない場所にしようとしたとき、家名を作った。もちろん、正式に名乗れるまでは実績を作って王家から了承を得るまで時間はかかったがね。ミザームの名は、この街の『ヴェーナム』とこの街の恩人大魔女さまの名前の一部からとったと言われている。ミズ、貴方はヴェーナムを魔物の暴走から救い、私の祖先の命を救った大魔女さまではないですか?」
「えっ・・・!』
私は呆然とした。私の力がバレたうんぬんの前に私の正体がバレた。何で?そんな昔の話、なんでしってるの?えっ、この人、あのお婆さんの子孫なの?
私、恩人?いや、大魔女さまってなに?
私は分かりやすく狼狽した。その様子を見て、市長は、
「やはり、そうでしたか。いや、お答え頂かなくて結構です。私達は、大魔女さまに正式に謝罪の機会を長年待っていたのです。ヴェーナムに多大な恩恵をくださった貴方様を私達の祖先は、半ば追い出すような態度でまさに恩を仇で返してしまいました。ここで正式にヴェーナムの街の代表として、謝罪させて頂きたい。そしてミザーム家の先祖の代表してとして、我が一族を助けて頂きありがとうございました。」
ロイド市長は、そう言い終わると椅子から立ち上がり、深く頭を垂れた。
「・・・私、嫌われてなかったの?私のこと、怖くないの?あの時、みんな私の力を恐れて、もう村を出る頃なんて、誰一人近寄らなかったの・・・。」
言い終わるや否や、私の中にあった様々な思いが浮上して、涙としてとめどなく流れてきた。
「わぁーーー。」
もう堪えきれなくてついに声を出して、大泣きしてしまった。だって、辛かったんだよ?だってずっと苦しかったんだもん。私が関わってきたこと、してきたこと、全て無駄じゃなかったって。
「ミズさん。貴方を長い間、苦しめていたのですね。本当に申し訳なかった。確かにその当初はそういう雰囲気もあったそうですが、村を助けた大魔女さまに村の一部の人間が無理強いしようとして大魔女さまの怒りを買ったと噂になり、そのほとぼりが冷めるまで大魔女さまにお願い事をするのはやめようとなったようです。ミザーム家の者がしばらくして様子を見に行ったところもう大魔女さまのお姿はなく。当時、当主にあたる者が亡くなり、その葬儀なども重なって気づくのが遅くなってしまったのもあったそうです。ミズさんが去ったことで、無理強いしようといた村の役人は、村人から責められ、責任をとって村から追放されたそうです。そのあと、ヴェーナムを任されたのが私の祖先なのです。ミズさん、私達がこうしていられるのも全て貴方のおかげなのです。」
そう、私とレルが一番お世話になった老夫婦の孫ヤダークが天寿を全うしてこの世を去るのを見届けてから、この地を出たのだった。ヤダークは、子供の頃からおじいちゃんっ子でよくこの老夫婦の家に遊びに来て、私と話たり、祖母がレルに果物をあげているのを不思議そうに見ていたっけ。
「このヴェーナムが守護都市と呼ばれていることはご存知でしょうか。」
「は、はい、あの大樹が守る土地ってことなんですよね?」
私は、ようやく落ち着き、鼻水をハンカチで拭きつつ答えた。
「はい。ですが半分間違いです。あの大樹は、大魔女さまが住んでいらした家を突然一夜にして突き破るように成長したんです。村のものの大半は、大魔女さまが守り神を与えてくださったと喜んでおりましたが、排除しようとしたものも過去いました。あっ、ヴェーナムの者じゃないですよ?ヴェーナムはこの大樹が現れてから、様々な豊かさの恩恵を受け続けて、瞬く間にこの王国3番目の大都市になったことに他の都市の領主や王家の一部の者がやっかみ、完全なこじつけで大樹を伐採しようとしたんですよ。まぁ、結果散々だったようですね。作業人や管理者に怪我人、死亡者まで出て逃げるようにこの街を後にしたようです。それ以来、この大樹は御神木として国から認定され、何人も手出しは厳禁となっております。」
もう情報過多です。ただでさえ、情緒がとんでもない事になっているのに、私を慕ってくれてた一族がこの街をこんなに大きな都市にしてくれて、私の気で育ったまぁいわば私の分身が、国家規模の保護を受けている。でも一番は、私、皆んなに嫌われてなかったんだなぁ。一緒に過ごした月日は、偽りではなかったんだ。その事実が私の体の奥底を柔らかい光で照らしてくれた。




