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10,ミズの気



「なにこれ…。」


「うわぁー、これ、やっちゃってるね…。」



そう、守護の木と呼ばれる大樹は、最初に見た時から更に上へ上へとと大きくなり、全体から発光した薄い膜のようなもので覆われ、枝葉が風もないのにわさわさと揺れていた。その揺れに規則性がないため、なんだかはっちゃけて踊っている人形のようだと思った。うん、若干ホラーだ。



「ミズ、これえらいことになってるねぇ。ミズから直接気をもらっているからか、喜びで興奮状態みたい。まぁ、今までミズが残した気だけで成長してきたのに、今は新鮮な気を吸いたい放題みたいなもんだからね。」

私、飲み放題のドリンクバーじゃないんですけど!



「何それ…。これ以上はヤバくない?レル、私から出てる気の供給を止めた方がいいよね?って、どうやって止めればいいの?」

魔物のことで気や魔力を完全に抑えるようになったけど、この木はいわば私の分身みたいなものらしくてどんだけ他から感知できないようにしててもその存在を隠せないらしい。



「うーん、完全に遮断する方法もあるけど、それやるとこの木、どうなるかわからないよ?」



「えっ、どうゆうこと?」



「ミズはこの木にとって最高に美味しいご馳走なわけ。存在は感じるのに、気を吸えないってことは、目の前に好物を出されているのにお預けをくらっているようなものだからね。」



「じゃあ、どうすればいいのよ!このままだとこの木、どうにかなっちゃうかもしれないじゃん!それに私の体、大丈夫な訳?こんなデカい木に吸われ続けたら吸い尽くされそうだよ。」

うん、私、干からびるな。



「うーん、この感じだと、ある程度になったら落ち着くと思うよ。まぁ、もうちょっと大きくなったり加護の力が強くなると思うけど。元々、この木自体は普通の種類のものだったみたいだけど、ミズの力を吸って特別な木に成長したんだね。この木、若干意思を持ってるみたいだし。ミズの体も平気でしょ?そもそもミズの気を吸い尽くすなんて到底無理だから。」


なに、そのチート設定。私の力のせいで、普通の木が考えられないほどの大樹になり、加護の力や意思まで持っちゃうってこと?っていうか、こんな大樹に吸われても大丈夫な私の気ってどんだけあるのよ。



「まぁ、いいんじゃない?街の人達も喜んでるみたいだし。」



レルの言う通り、大樹の周りは物珍しそうに見物に来る人、まるで御神体のように涙を流しながら崇め祀っている人、その大勢の人を相手に商売している人などちょっとした観光スポットとなっていた。

きっと今回のことでより一層『守護の木』の名声も高まることだろう。それでこの街の発展に繋がるのならまぁいいかと思えた。


「私って、役に立ってんのかなぁ。」

そうひとりつぶやいた。


「何言ってるの?何かしたから役に立つって訳じゃないんだからね。存在していることに意味があるんだから。ミズは自分の事、下げすぎ。ほら、あの屋台の果実水飴、買いにいくよ!」


レルの小さな手で背中をパシっと叩かれ、私の中で重くのしかかった小さな何かはすっとどこかにいってしまった。






***** ヴェーナム市庁舎の一室にて


「これが、今話題の屋台か?」

男は、部下から渡されたとある店の申請書に目を通した。


「はい。数日前に開店してからずっと行列が絶えないようで、昼頃には完売してしまうみたいです。波及効果もあり、周辺の屋台も軒並み売り上げが上がってます。本当はもっと営業してほしいのですが、どうやらいろいろ手間もかかるようで、3日おきに休みをとってます。」


「そうか。この街は人の流れが多いから、流行りや廃りが激しいのだが、この店はどれくら続いてくれるのか。いや、娘達が食べたいと言っていてね、でもいつも品切れになっているらしくて、残念がってるんだよ。明日は営業日か?。」


「はい、確か今日は休日だと思うので明日はやっていると思います。あっ、私は行ったことはないですよ。同僚の女性達がカレンダーに休日を書き込んでいるので、ついいろいろ詳しくなってしまって。ちなみに店主は若い女性?少女のような方らしいです。」


「なら私が出勤前に寄って様子を見てこよう。ダン、明日は会議や面談の予定もなかったから私のスケジュールは午前視察としといておいてくれ。」


「はい、わかりました。それではお土産、期待しておりますね、市長」

秘書のダンはそう言って、機嫌よく部屋を出て行った。



私がこの守護都市ヴェーナムの市長になって10年。この都市の市長は、代々我がミザーム家が引き継いできた。昔はただの貧しい農村に過ぎなかったが、とある魔女様がこの街をここまで大きくしてくださった。厳密には、魔女様の加護の力だが。一般的な言い伝えだとその魔女様はある日突然消えてしまったとあるが、我が家の古い記録によると当時の一部の村人達が、大恩人であった魔女様に追い出し同然の扱いをしていたことがわかっている。その不義理をまだいち村民ではあったが心を痛めたミザーム家の創始者が、いつか魔女様の恩義に報いるために、このヴェーナムの街を今のような大きな都市にまでしたのだ。

『ミザーム』の名前も魔女様の名前とヴェーナムの名前を掛け合わせたものらしい。

ただ魔女様の名前については記述がないので、きっと魔女様がこっそり戻られても大丈夫なように当時の祖先達はあえて伏せているのだろう。



ミザーム家に代々伝わる書には、

『ヴェーナムを救いし守護の魔女様の恩に報いらずは ミザーム家のものならず』

と書き始めの1ページに書かれている。

これは、当主になるものはもちろん、ミザーム家を名乗るもの全てが、幼い頃より教えられる。我が家の家訓のようなものだ。

魔女様が再度ヴェーナムを訪れてくれるかも、魔女様が生きているかもわからないが、ミザーム家は懇々と魔女様に関わる偉業、いかにこの街、我が家にとって大切な人かを叩きこまれるので、わりと皆真剣にいつか魔女様がこの街にまた戻ってきて下さる事を信じている。きっと今その変貌ぶりが話題の守護の木が、このように奇跡を起こし続けていることも大きいのだろう。そう、魔女様がご帰還された時には、当時の罪を謝り、数百年分のこの街の恩を返す、それが先祖代々ミザーム家の悲願なのだ。




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