救出⑥
『私たちは、大きな間違いを犯してしまいました。罪のない人を傷つける結果となってしまい、申し訳ございません。』
犬飼が、深々と頭を下げた。
『もう、お気づきかと思いますが、我ら3人は、桃太郎様に仕える神でございます。先代の桃太郎様は、とてもたくましく、強く、頭も良く、そして何より優しいお人でした。しかしながら、今、仕えている桃太郎様は、少し頼りなく、考え方も甘いのです。何の疑いもなく、かぐや姫を信じきってしまったようです。主人に成り替わり、謝罪致します。』
『犬飼さん、鳥居さん、猿橋さん。桃太郎を責めるのは、筋違い。あなた方自身の責任です。主人を育てるのも従者の責務。頼りないのであれば、頼れるものになるよう育てなさい。』
俺の言葉に、3人は何も言い返せず、その場にひれ伏した。
『あなた様は、神なのですか?』
『神であるかもしれないが、その前に、愛するものを守りたい、悩める人を救いたい、世界平和を望んでいる一人の人間です。』
『いえ、やはり、あなた様は神です。そうでなければ、伝説の生き物である麒麟や鳳凰があなたを守ろうとやって来るはずありませんから。そして、その如意棒。神でなければ、扱えるわけないです。』
『猿橋よ。もう一度、その如意棒を持ってみるがよい。』
猿橋が起き上がり、如意棒に近づいた。そして、両手で掴んだ。
『あっ、動いた。僅かだが動いた。』
『お前にも、資格があるということだ。精神を鍛えよ。心を強くするのだ。いずれ、如意棒を操れるようになるぞ。』
後ろで、誰かが動いた。桃太郎が目を覚ましたようだ。体を起こし、そして突然、走り出した。左手にナイフを持っている。向かっている先は、彩先生の方向だ。悪あがきをしやがって。無駄だ。今の桃太郎の力では、彩先生の足元にも及ばない。おそらく、怒りの頂点に登りつめているところだ。半殺しにされるぞ。適当なところで、止めないといけないか。桃太郎は、彩先生めがけ、ナイフを振りかざした。と、その時、もう一つの影が動いた。
ズサッ!
桃太郎と彩先生の間に男が倒れた。孝だ。右肩にナイフが刺さっている。
『孝!何、馬鹿なことを。孝、孝。』
彩先生が大声をあげた。
『彩様、大丈夫ですか。彩さま〜。』
再び大泣きしている孝。母親が子供をあやすように、彩先生が孝の頭を撫で、そして抱きしめた。
『もう、無理しちゃって。孝は男の子だもんね。女の私を守ってくれたのね。嬉しいよ。でも、男の子だから、泣いちゃダメでしょ。』
『えーん、えーん、彩ちゃまー。』
『よし、よし。よく頑張ったね。』
恥ずかしくて、見てられない。しかし、この二人の絆は今まで以上に深まっただろう。
俺は孝の肩に刺さったナイフを見た。
『彩先生、幸いにも急所は外れてます。だが、ナイフを抜くと出血が心配です。このまま、病院に行かれた方がいいですね。救急車を呼びましょう。』
スマホを取り出し、119をダイヤルした。すぐに救急車は来るだろう。俺は桃太郎の襟首を掴み、3人の家来に向けて、投げ飛ばした。
『この男を鍛え直せ。一人前の男に育てよ。おまえらの為でも、桃太郎の為でもない。いずれ、桃太郎を必要とする人が現れるだろう。その人の為に、鍛えるのだ。お前らに任せる。さあ、帰れ。』




