救出③
『ママとレイちゃんは、具合悪いから、奥で寝てるの。とりあえず、中に入って。』
俺は二人をリビングに案内した。孝の狼狽ぶりがひどい。
『あの、トイレ借りてもいいかな。』
『もちろん、いいわよ。』
挙動不審にもほどがある。孝に演技は無理だ。根っからの素直で純朴な男なのだ。何か目的を果たすために、リビングを出たのであろう。
『洋介さん、ちょっと痩せた?』
俺は、カマをかけた。
『ああ、最近、忙しくてね。少し疲れてるからかなあ。』
高校教師が夏休みに忙しいわけがない。
『じゃあ、私が肩もんであげるね。私、上手なんだよ。』
俺は、この男の背後に回り、両肩に手を当てた。そして、ほんの僅かだが、赤いオーラを出した。男は、オーラに気づいたようだ。俺が、力を込めようと思った瞬間、男の背より、黒い影が現れた。黒のオーラだ。こいつの正体は、かぐや姫だ。わざわざ、やって来るとは、探す手間が省けた。黒のオーラは、俺の赤いオーラを吸収した。
『あなた、誰?』
『やはり、バレてしまったか。しかし、名乗る必要はない。死に行くものに、語る必要などない。』
『いったい、誰が死ぬのかしら。かぐや姫さん。』
『お前、何者だ。』
『教えないよ。と思ったけど、すでに孝さんが、話してたでしょ。私は、ちひろよ。聞いたことあるでしょ。ちひろという名前。あなた方の暗殺リストに、ちゃーんと載ってたわ。』
『ちひろは、死んだはず。』
『あんなポンコツの暗殺者を雇った、あなたのミスよ。私は、この通り生きてるわ。』
洋介に化けた男の姿が変化をし始めた。黒のオーラに包まれ、ついに正体を現した。目の前に立っているのは、噂通り美しい女だ。右手に竹槍を持っている。彼女の武器だ。トイレに行っていた孝が、フラフラしながら戻ってきた。
『言われたことをやった。だから、彩さんを返して下さい。』
『そうか、そうか。よくやったわ、孝。もう、お前も、彩も、どうでもいいわ。どうぞ勝手に死んで行きなさい。』
『そ、そんな。それでは約束が違う。』
『ちひろよ。私は勝ち目のない戦いはしない。あなたは強い。だから、戦わない。今後一切、あなたや、あなたのお仲間にも手を出さないわ。』
『それは、どういう意味?』
『ふふふ。私たちの勝ちということ。カショーキ様の勝利。魔界の勝利なのよ。』
『どういうことだ。戦わずして、勝利とは。』
『孝に聞きなさい。私は帰るわ。』
『かぐや姫。あなたは墓穴を掘ったことが分からないようね。孝や彩さんに言った言葉を思い出してみなさい。同じ言葉を、カショーキがあなたに言うでしょう。かぐや姫の役割は終わった。ならば、用済みってこと。どうでもいいわ。どうぞ勝手に死んで行きなさいと言うでしょう。もう、誰も匿ってくれないわよ。』
かぐや姫の顔が歪んできた。
『そんなことはないわ。私の功労に、カショーキ様は喜んでくれるはずよ。』
『なんて、自分勝手な考えなの。まあ、私にはどうでもいいけど、閻魔大王はどう思うかしら。』
『くそ生意気な子供。だったら、向こうにいる二人を人質にして、あなたに戦ってもらうわ。あなたなら、カショーキにも、閻魔大王にも勝てるでしょ。』
『やれるものなら、やってみて。誰が、人質を取りに行くのかしら。あなたは無理よ。ここから一歩でも動けば、私が叩き潰すから。さあ、どうする?』
かぐや姫は、竹槍を構えた。




