もう一人の守護神⑦
『誰?私を呼んだのは?あれ?ちひろちゃん、こんな遅い時間に何やってるの。』
レイちゃんが、部屋に入ってきた。
『レイ姉ちゃん、うるさかったかしら。ごめんなさい。』
俺は、素直に謝った。
『ちひろちゃん、いいのよ。理由があってのことでしょ。ああ、おじちゃん、来てたの〜。』
『レイ姫、こんばんは。遅い時間に悪かった。また、今度来た時は、勝負してもらえるかな。』
『いいよ。でも、私が勝つけどね。』
シェリーが、困惑の目をしている。こんなに小さな女の子が、巨大で恐ろしい阿修羅大王とタメ口を聞き、勝負をしようとしている。しかも、勝利宣言まで行ったのだ。将棋の話だが、シェリーには分からないだろう。
『おれ、こちらの美しいお姉さんは、どなたなのですか。』
『わしが紹介しよう。この女性はシェリーといって、わしの古い友人じゃ。』
『シェリーさん、初めまして。私は大沢レイと申します。』
レイちゃんが、シェリーの目を見つめた。すると、何と、シェリーが目線を外した。
『こ、こんばんは。レイちゃん、噂通りの女の子だわ。とっても可愛いね。夜、遅くにごめんなさいね。疲れているみたいね。さあ、眠りの続きをしましょう。おやすみなさい。』
『うん。そうする。シェリーさん、握手。』
レイちゃんが手を差し出した。シェリーが、怯えている。震えながら、手を出すと、レイちゃんがその手を握りしめた。
『シェリーさん、おやすみなさい。』
笑顔で、レイちゃんが部屋を出ていった。
『どうじゃ、シェリー。何か感じるものは、あったか。』
シェリーは、がたがたと震えている。
『私、怖かった。阿修羅大王様にも、ヒロさんにも起きなかった感情が、あの小さな女の子に感じたわ。こんなに恐怖を感じたのは初めて。』
『それは何故だか分かるか?』
『たぶん、純粋さだと思う。あの目に見つめられてしまうと、為すすべが無くなってしまう。魔界の者たちが恐れる理由が分かるわ。』
『あの子が、一人でわしに戦いを挑んだのだぞ。ありえんだろう。わしは、本気であの子を叩き潰そうと思ったのじゃが、目を見つめられて、その気が失せてしまったわい。不思議な力を持つ子だ。その時から、わしは、あの子に夢中じゃ。何より、わしを特別扱いしないところがたまらなく嬉しい。』
『シェリーさん、まだ何かあるでしょ。』
『さすがだわ、ちひろちゃん。今の短い時間で、あと二つ、感じたことがありました。』
『やっぱりね。冷静なシェリーさんが、3回動揺したのがわかったから。』
『もう、小さいのによく見てる子どもね。ああ、本当は子供ではないのよね。ややこしいわあ。さっき、私の黒のオーラは他のオーラを吸収すると言ったけど、レイちゃんの方が格が上よ。握手して分かったわ。手が触れた瞬間に、私の気が吸い取られていくの。私はレイちゃんには、決して勝てない。そして、もう一つ。信じてもらえないかもしれないけど、私をここに呼んだのは、阿修羅大王ではないの。呼んだのはレイちゃん。私は、ここに呼ばれる運命だった。レイちゃんと握手して、私の宿命が分かりました。私は、レイちゃんの守護神。魔界の住人とは仮の姿。レイちゃんを守ることで、私の汚れた魂は救われると分かったの。大王様、ちひろちゃん、私が全力でレイちゃんを、かぐや姫から守るわ。かぐや姫の黒のオーラを、私の黒のオーラが吸い尽くしてみせる。本気よ。お二人さん、さあ、私の心を読んで。魔界の詐欺師と言われた女。でも、今、私の心に嘘偽りはないわ。レイちゃんの瞳で浄化されたの。さあ、心を見てちょうだい。』
シェリーは無防備に、両手、両足をひろげ、目を閉じた。
俺は、阿修羅大王と顔を見合わせた。そして、同時に、シェリーの心を読み取った。シェリーの言う通り、彼女の心は純粋。シェリーは魔界の呪縛から解き放たれたのだ。




