もう一人の守護神③
日本に戻ったが、相変わらず、彩先生と連絡が取れない。そうだ。孝はどうしてる。俺は洋介に電話した。
『もしもし、洋ちゃん。久しぶりね。お元気かしら。』
『わお、ちひろん。元気ですよ。ちひろんは、相変わらずモデルで活躍してるのかな。』
『今度ね、ハワイロケに行くのよ。なんとCMのお仕事なの。凄いでしょう。』
『そんなにビックリしないよ。だって、美しすぎるの知ってるから。』
『またまた、褒めるの上手いんだから。』
『褒めてないよ。事実を述べてるだけだから。えへへ。』
『あのね、洋ちゃん。彩さん、分かるわよね。』
『もちろんだよ。一度見たら、忘れられないね。それが、どうしたの?』
『3日ほど前から、連絡がつかなくて。もしかしたら、孝さんなら、居場所を知ってるかなあと思ったの。』
『実はさあ、孝も連絡つかないんだよ。二人で秘密の旅行でも行ってるのかなあ、なんて思ってたところさ。山奥の電波の届かないところとか、あるいは海外とか。』
『そうねえ、彩さんなら、ありえるわね。しばらく、様子をみようかしら。』
『二人の世界を邪魔しない方がいいかもね。でも、連絡取れたら、すぐに教えるね。』
『ありがとう。もうすぐ夏ね。洋ちゃん、海とか行ったりするの。』
『ああ、こう見えて、サーファーなんだよ。最近は、あまり行ってないけどね。今度、湘南までドライブでも行こうか。』
『うん。連れてって。』
『本当は、ちひろんの水着姿とか見たいけど、有名になっちゃったから、人の多いところは、マズイよね。でも、考えておくから。期待していいよ。』
『洋ちゃん、優しいのね。期待しちゃうよ。じゃあ、また連絡する。バイバイ。』
『またね。』
洋介は、本当にいい人だ。心が優しい。ほんの数分の会話であったが、心が癒された。
しかし、事態は悪い方に向かっている。孝は、間違いなく彩先生と一緒だ。二人とも敵の手に落ちた可能性がある。しかし、なぜ、テレパシーが通じない。そういえば、さっき洋介が言っていた。電波の届かないところ。俺は今まで何も考えずにテレパシーで、コンタクトを取っていた。その能力に何も疑うことはなかった。奈良の山奥の例の場所は、電波が入らないところだったが、テレパシーは通じた。地下街やトンネルでも、問題なく通じる。距離はどうか。どれくらいの距離まで、通じるのかなど試したことはない。試してみるか。俺は分身仏を一体だした。
『これから、ブラジルに瞬間移動しろ。そして、ブラジルから俺にテレパシーを送り、送り終わったら、すぐに戻れ。さあ、行くのだ。』
分身仏は、瞬間移動した。すぐに、「到着した」とテレパシーが入った。距離に問題ないことが証明された。そして、分身仏は、言われた通り戻ってきた。魔界に入った時でさえ、テレパシーは通じた。何かが邪魔をしているようだ。妨害電波ならぬ、妨害テレパシーのようなものがあるのかもしれない。カショーキの仕業なのか。
妨害を阻止するには、どうすれば良いのか。電波で考えれば、強力なノイズを起こせば、大概の電波を妨害出来る。対策としては、周波数を変更し、ノイズを回くぐればよい。テレパシーに周波数のようなものがあるのかは、分からない。あるいは、俺の使っているテレパシーが、もともと感度が悪いのかもしれない。他の種類のテレパシーをマスターしておくべきであった。
俺が頭を抱えているところに、レイちゃんがやってきた。
『ちひろちゃん、何、悩んでるの?お姉ちゃんに言ってごらん。』
『数日前から、彩姉ちゃんと、連絡が取れなくなってるの。とても心配なの。テレパシーが通じないのよ。』
『私は、ちひろちゃんのテレパシーを、感じてるから。ちひろちゃんのせいではないよ。彩姉ちゃんが意図的にシャットダウンしているか、あるいは、誰かが邪魔をしてるのね。テレパシーを妨害するのは、さらに強力なテレパシーだと思うわ。』
俺が、何時間も悩んでいたことを、数分で解析し始めている。いつもながら、レイちゃんは天才だ。
『だとしたら、その強力な妨害テレパシーを打破する方法を考えないといけないのね。』
『たぶん、ちひろちゃんや私たちのテレパシーとは、全く違う種類のものなんだわ。』
俺は、阿修羅大王が言っていた「黒いオーラ」のことを思い出した。オーラの色と同じように、テレパシーにも種類があるようだ。黒いオーラを纏っているがぐや姫が怪しい。
『だけど、ちひろちゃんが妨害を回避する新しいテレパシーを身につけたとしても、受け手側の彩姉ちゃんに、その能力がなければ、結局、通じないわ。でも、方法はあるわよ。私に考えが聞きたい?二つの方法を見つけたよ。』
『聞きたいわ。』
『じゃあ、ちゃんとお願いして。』
『レイお姉ちゃん、妹のちひろに、教えて下さい。』
『やっぱり、ちひろちゃんは可愛いね。私の考えを教えるね。まず、1個目。妨害をしているか強力なテレパシーより、さらに強力なテレパシーを送れば、通じると思うわ。電波で言えば、出力を上げるのと一緒。ちひろちゃん、一人で無理なら、ちひろちゃんの仲間に協力してもらって、パワーを上げれば、きっとうまく行くはずよ。もちろん、私も協力するわ。ただ、この方法の欠点は、パワーが強すぎて、妨害している人に、バレてしまうことかな。そして、2個目ね。テレパシーを送らずに、受け取ることに専念するの。彩先生のテレパシーでなくて、その妨害していると思われる強力なテレパシーを受信するの。三方向から受信すれば、位置が確定できるよ。逆転の発想なの。こっちの利点は、相手に悟られないということ。』
分身仏のテレパシーを妨害するほどの強力なテレパシーあるいはオーラを出せるものなど、そうそういるはずない。だから、その強いテレパシーを探すということか。彩先生と孝を拉致し、監禁したとすれば、そう遠い場所ではないはずだ。まずは、関東に絞って、捜索をしよう。関東の周囲に分身仏を配置させ、徐々に都心に向かって移動しながら、強いテレパシーを探す。ローラー作戦だ。分身仏を1万体で、始めれば、案外、早く見つかるかもしれない。俺は、早速、作戦の実行に移った。分身仏を10体出し、その分身仏が各々10体を出す。これを繰り返せば、あっという間に1万体になる。
『レイ姉ちゃん、ありがとう。きっと上手くいくと思うわ。』
思えば、分身仏のねずみ算方式を編み出すきっかけを作ってくれたのも、レイちゃんだ。頼りになる姉だ。




