第94話 ☆付きアイテムの価値
「何があったのか、最初から聞かせてほしいでぷ」
治療室へ入ってきた王様の声からは、いつもの陽気さが消えていた。
その後ろには数匹の兵士が控え、開いた扉の向こうにも武器を持ったゴブリンたちの姿が見えている。白銀からTIMEに襲われたことまでは聞いているはずだけれど、その後チェック兄貴がどこへ連れていかれ、私たちが何と戦ったのかまでは知らないらしい。
私は治療台から身体を起こそうとしたけれど、すぐに治療役のゴブリンから肩を押さえられた。
「フールちゃんはそのままでいいでぷ。絶対安静でぷ」
「話すだけだよ?」
「寝たままでも話せるでぷ」
「……はい」
仕方なく枕へ身体を戻すと、部屋の端にいる赤たちが笑いを堪えているのが見えた。
「そこ、笑わないでよ」
「笑ってないでぷ」
「赤は絶対笑ってる!」
「安心してる顔でぷ!」
言い返そうとしたところで、オラクルが車椅子を王様のほうへ向けた。
「このままだと話が進まねえ。襲われたところから順番に確認するぞ。白銀、最初はお前だ」
「分かったでぷ」
白銀がチェック兄貴の治療台の近くへ移動した。
湖で再会したときよりは落ち着いているものの、チェック兄貴の傷を見るたびに表情が曇る。それでも今度は俯かず、王様へ向かって話し始めた。
「俺とチェック兄貴は、試練場でフールちゃんたちのレースを見てたでぷ。レースが終わったあとも少し残ってたら、急に黒い靄が広がって、そこからTIMEの四番が出てきたでぷ」
王様の表情が険しくなり、後ろに控えていた兵士たちも僅かにざわついた。
TIME No.4。
手配書に名前は載っていなかったけれど、能力の欄には《悪魔》と書かれていた。
実際に戦うまでは、その二文字が何を意味するのかなんて想像もできなかった。
白銀はそのまま続ける。
「最初は俺とチェック兄貴を二匹とも捕まえようとしてたと思うでぷ。でもチェック兄貴が逃げろって言ったから、俺は試練場から走ったでぷ。後ろから黒いものが追ってきたでぷけど、何とか逃げ切って、フールちゃんたちが宴をしてた場所まで行ったでぷ」
そこでチェック兄貴が治療台から口を開いた。
「白銀が逃げたあと、俺はそのまま捕まったでぷ。黒い帯みたいなもので身体を縛られて、別の場所まで連れていかれたでぷ」
王様はチェック兄貴の腕に残っている拘束の痕を見ながら尋ねた。
「そこで何をされたのでぷ?」
「最初は質問されたでぷ。フールちゃんが持ってる本をどこで手に入れたのか、その本を今も持ってるのかって聞かれたでぷ。でも俺は詳しく知らなかったから、何も答えられなかったでぷ」
私は治療台のすぐ近くに置かれた鞄を見る。
中には《幻獣種召喚の本》が入っている。
「何も答えなかったら、今度は俺を柱に縛って、フールちゃんたちに本を持ってこさせろって言ったでぷ」
「それでチェックを人質にしたのでぷか……」
王様の声が低くなった。
チェック兄貴は静かに頷く。
「そうでぷ」
淡々と話しているけれど、腕や身体には黒い拘束で締めつけられた痕がまだはっきり残っている。
もし白銀まで捕まっていたら、私たちはチェック兄貴が襲われたことさえ知らなかったかもしれない。
王様はしばらく黙ったあと、今度は私たちへ視線を向けた。
「それで、白銀から話を聞いたフールちゃんたちが助けに向かったのでぷね?」
「うん。チェック兄貴を解放してほしければ《幻獣種召喚の本》を渡せって言われたんだけど、本を渡したからって本当に解放してくれるか分からなかったし、あの本が何なのかも私たちはまだちゃんと分かってなかったから、そのまま渡していいとは思えなかったの」
肩にいたメリーが小さな手を上げる。
『だからメリーが壊した』
「うん。メリーを服の中に隠したまま私だけ本を持って近くまで行って、そこからメリーに飛び出してもらったんだ。チェック兄貴を縛ってた黒いものを魔法で壊して、その間に赤と黄色が助けに行ってくれたの」
王様が赤たちを見る。
赤が胸を張った。
「兄貴を助けたでぷ!」
「黄色も手伝ったでぷ!」
「緑はフールちゃんのところに残って援護したでぷ!」
「みんながいたから助けられたんだよ」
そこまでは上手くいった。
問題は、そのあとだった。
「チェック兄貴を助けたら、四番が怒って持ってた魔導書を開いたの。そこから悪魔が出てきた」
王様が僅かに身を乗り出す。
「悪魔……でぷか?」
「最初に出てきたのは《黒角鬼ベルガ》。五メートルを超えるくらい大きくて、ものすごく硬かった。赤が剣で斬ってもほとんど傷がつかなかったし、口から《冥獄砲》っていう黒い光まで撃ってきたの」
赤が思い出したように剣の柄へ触れる。
「あれは本当に硬かったでぷ。思い切り斬ったのに、ほとんど刃が入らなかったでぷ」
「それだけじゃなかったんだ。四番はもう一体出したの」
私は続けて《六眼刃鬼ゼルグ》について説明した。
三メートルほどの細長い身体。
四本の腕と、その先にある十二本の刃のような爪。
そして六つの赤い目。
《影走》で床の影を走り、《四連魔爪》で複数の方向から攻撃し、《影縫い》では黄色の動きまで封じた。
「ベルガは正面から押し潰してくるのに、ゼルグはすごく速くて、しかも六つの目で別々の相手を見てた。二体が一緒に動き始めてからは、チェック兄貴を連れて逃げるだけでも難しくなったの」
話しているうちに、あの広間の景色が頭へ戻ってくる。
振り下ろされたベルガの巨大な爪。
床を這って迫ってきたゼルグの影。
メリーの障壁に走った亀裂。
そして、チェック兄貴が目の前にいるのに、傷ついた右足では駆け寄ることさえできなかった悔しさ。
無意識に右足へ力を入れそうになったところで、治療役のゴブリンがすぐに気づいた。
「思い出しても動かしちゃ駄目でぷよ」
「動かしてないよ!」
「動かしそうな顔してたでぷ」
「どんな顔なの!?」
治療室に小さな笑いが起きた。
王様の表情もほんの少しだけ緩んだけれど、すぐに真剣なものへ戻る。
「それほどの悪魔が二体もいたのに、どうやって全員で逃げてきたのでぷ?」
「それが……」
私は身体を起こさないよう気をつけながら腕だけを伸ばし、鞄から《幻獣種召喚の本》を取り出した。
「この本が反応したの」
表紙を開く。
ずっと《未確認》だった最初のページには、もう白紙は残っていない。
長い水色の髪と青銀色の尾を持つシャイニー。その隣には、三本の透明な角と星座のような銀白色の模様を持つ巨大なアクアリヴァイアスが描かれている。
「《人魚の旋律》と本が共鳴したら、シャイニーっていう人魚が現れたんだ。そのあとアクアリヴァイアスも来てくれて、二人で私たちを助けてくれたの」
「アクアリヴァイアスって、さっき湖にいた巨大な幻獣でぷ?」
「うん。十五メートルくらいあって、最初は私もちょっとびっくりしたけど、すっごく優しい子だよ」
黄色が両手をいっぱいに広げた。
「これくらい大きかったでぷ!」
「黄色、それじゃ一メートルもないよ」
「気持ちでぷ!」
「大きさは気持ちで変わらないよ!」
また笑い声が起きる。
私はページへ視線を戻した。
「アクアリヴァイアスがベルガとゼルグを《アクア・ノヴァ》で吹き飛ばしてくれて、最後は《蒼海門》っていう海の道を開いてくれた。それでみんなを背中に乗せて、王国の近くにある湖まで連れてきてくれたんだ」
王様は何も言わず、開かれたページを見つめていた。
その視線がシャイニーからアクアリヴァイアスへ移り、やがて本の表紙へ向かう。
そこで、王様の表情が変わった。
「フールちゃん」
「何?」
「この本を景品交換所で手に入れたとき、☆が五つ付いていたのでぷね?」
「うん。最初から付いてたよ」
私は表紙を確認する。
確かに五つの星が刻まれている。
「でも、それがどうしたの?」
治療室が静かになった。
王様だけではなく、白銀やチェック兄貴、治療役のゴブリンまでこちらを見ている。
赤、緑、黄色だけは、私と同じように何が起きたのか分からない顔をしていた。
「何でみんなそんな顔するの?」
王様が信じられないものを見るような顔で尋ねる。
「フールちゃんは、☆5がどういう意味か知らないのでぷ?」
「珍しいって意味じゃないの?」
聞き返しながら、私はオラクルを見る。
「オラクルは知ってる?」
「……待て」
オラクルは答えるより先に眉間へ皺を寄せ、《幻獣種召喚の本》の表紙をじっと見つめた。
しばらくして、何かを思い出したように顔を引きつらせる。
「そういや……付いてたな。星、五つ」
「一緒に交換したでしょ!」
「覚えてるよ! ただ、あのときは百万コイン貯めることと、カジノの景品がいくらになるかばっかり考えてたんだよ!」
「オラクル、ずっとカジノのことしか考えてなかったもんね」
「お前もレースだの景品だので騒いでただろ!」
「私は☆の意味を知らなかったの!」
「俺だって表紙をじっくり鑑定したわけじゃねえ! それに、こんなところの交換所へ本物の☆5が置かれてるなんて普通は考えねえよ!」
言い返しながらも、オラクルはもう一度本を見る。
今度はさっきまでと目つきが違っていた。
「……いや、待て。本当に☆5なのか?」
「だから、ここに五つあるよ」
私は表紙をオラクルへ向けた。
一つ。
二つ。
三つ。
四つ。
五つ。
間違いなく五つの星がある。
それを確認したオラクルから、いつもの軽い表情が消えた。
王様が呆れたように尋ねる。
「オラクル殿も気づいていなかったのでぷ?」
「☆付きが貴重なのは知ってる。だが、あのときはカジノで稼いだ百万コインの景品って頭しかなかったんだ。そもそも、☆5なんざ普通に生活してりゃ一生目にする機会がなくてもおかしくねえ」
「そんなにすごいの?」
私が尋ねると、オラクルはすぐには答えなかった。
代わりに王様が近くの椅子へ腰を下ろす。
「フールちゃん。☆というのは、ただ珍しい品につける飾りではないでぷ。世界中で確認されている特別な品につけられる希少度で、☆1から☆5まであるでぷ。数字が大きくなるほど希少になり、価値も高くなっていくでぷ」
「じゃあ、☆1が一番下?」
「そうでぷ。でも、そこを勘違いしちゃ駄目でぷ。☆が一つでも付いている時点で、普通の品とはまったく違うでぷ」
「どれくらい違うの?」
王様は少し考えてから答えた。
「☆1でも一つ売れば、普通の家族なら何年も暮らせるくらいの価値があるでぷ」
「……何年も?」
思わず聞き返した。
「☆1で?」
「そうでぷ」
私は手元の本を見る。
ここには星が五つある。
さっきまで何とも思っていなかった五つの印が、急に別のものへ見えてきた。
「じゃあ……☆5は?」
今度はオラクルが答えた。
「別格だ。☆2や☆3だって国や大商人が欲しがるような代物で、☆4まで行けば金を積めば買えるなんて考えねえほうがいい。そして☆5は、そのさらに上だ」
さっきまでカジノのことで言い訳していたオラクルの声から、完全に冗談が消えている。
「正確な数なんざ誰にも分からねえ。持ってることを隠してる奴もいるだろうし、まだ発見されてねえ物だってあるだろう。だが、今の世界で存在を確認されてる☆5は――五つもねえんじゃねえかって言われてる」
「……世界中で?」
「ああ」
「五つもないの?」
「確認されてる範囲じゃ、な」
私は何も言えなくなった。
百万コインを集めるのは大変だった。
だから、とても良い景品なんだろうとは思っていた。
でも、まさか世界中でも五つ確認されていないかもしれないほどの品だなんて、一度も考えたことがなかった。
隣ではオラクルまで額を押さえている。
「俺としたことが……何でちゃんと確認しなかった」
「カジノに夢中だったからでしょ?」
「言うな。今それが一番効いてる」
黄色が本へじりじり近づいてきた。
「フールちゃん」
「何?」
「それ、売ったらいくらになるでぷ?」
「売らないよ!」
「まだ値段を聞いただけでぷ!」
「黄色は絶対そのあと売ろうって言うでしょ!」
「半分だけでぷ」
「本を半分にしないで!」
治療室に笑い声が起きた。
けれど、私は笑いながらも《幻獣種召喚の本》を抱く腕へ自然と力を込めていた。
エドガーの顔が頭に浮かぶ。
TIME No.4は、この本を知っていた。
少なくとも、私たちよりずっと前から、この本が何なのかを理解していた。
だからチェック兄貴を捕まえ、本と交換するための人質にした。
でも――。
「……☆5だから欲しかったのかな」
私が呟くと、オラクルはすぐには頷かなかった。
「それだけで決めるのは早えな。確かに☆5なら、それだけで国が動いてもおかしくねえほどの代物だ。だが、あいつは『☆5を渡せ』とは言わなかっただろ?」
「うん。《幻獣種召喚の本》を渡せって言ってた」
「だったら、☆5だから欲しかったのか、《幻獣種召喚の本》だから欲しかったのか、それとも両方なのかはまだ分からねえ。そこは一緒にしないほうがいい」
私はもう一度、本の表紙に並んだ五つの星を見た。
確かにそうだ。
エドガーは最初から本を指定していた。
それに、シャイニーとアクアリヴァイアスが現れたときにも、何かを知っているような反応をしていた。
「アクアリヴァイアスがベルガとゼルグを吹き飛ばしたあと、エドガーが変なこと言ったんだ」
王様がこちらを見る。
「何と言ったのでぷ?」
「『やはり、その本は――』って。最後まで言わなかったから、その先は分からないけど」
治療室が再び静かになった。
オラクルは少し考え込んでから、煙草を指先で転がした。
「やっぱり、あいつは本について何か知ってるな」
「オラクルも知らないの?」
「知らねえ。《幻獣種召喚の本》なんて名前自体、あの交換所で初めて見た。☆5だとちゃんと認識してりゃ、もう少し調べようとはしただろうが……」
オラクルはそこで言葉を止め、苦い顔をする。
私はすぐに続きを言った。
「カジノに夢中だったから?」
「二回も言うな!」
「だって本当でしょ!」
「お前だって一緒に遊んでただろうが!」
「私は十歳だもん!」
「そういうときだけ子供を使うな!」
赤たちがまた笑い始めた。
王様まで少しだけ口元を緩めたけれど、すぐに《幻獣種召喚の本》へ視線を戻した。
「どちらにしても、その本をこれまでと同じように扱うのは危険でぷ。☆5を持っていると知られるだけでも、それを狙う者は現れるかもしれないでぷ」
「TIMEじゃなくても?」
「もちろんでぷ。☆1でさえ、普通の家族が何年も暮らせるほどの価値があるでぷ。それが世界でもほとんど確認されていない☆5となれば、欲しがるのは悪人だけとは限らないでぷ。国や商人、収集家だって興味を持つはずでぷ」
私は本を胸へ引き寄せた。
百万コインで交換したときには、使い方さえ分からなかった。
《未確認》という文字しか出ないから、もしかしたら外れの景品なんじゃないかと少し思ったことさえある。
それが今では、世界でもほとんど確認されていない☆5で、TIMEまで狙っている。
「じゃあ、もう人前で出さないほうがいいね」
「ああ。必要なとき以外は鞄から出すな」
オラクルが答えた。
王様も頷く。
「この部屋にいる者にも、本のことを外では話さないよう伝えるでぷ」
後ろに控えていた兵士たちが一斉に姿勢を正した。
「分かったでぷ!」
赤たちも頷いた。
「赤も言わないでぷ!」
「緑も秘密にするでぷ」
黄色も真剣な顔で頷きかけたところで、私はじっと見る。
「黄色、本当に大丈夫?」
「何で黄色だけ疑うでぷ!?」
「さっき売ったらいくらになるか聞いてたから」
「あれとこれとは別でぷ! 秘密は守るでぷ!」
「本当?」
「本当でぷ! ……値段は気になるでぷけど」
「やっぱり気になってる!」
また笑いが起きた。
でも、黄色も本気で秘密を守るつもりなのは分かっていた。
私は《幻獣種召喚の本》を閉じると、今度こそ鞄の奥へしまった。その上へ《人魚の旋律》を入れ、しっかり口を閉じる。
五つの星は、もう見えない。
それでも、さっきまでとは鞄の重さまで違って感じられた。
王様は私が本をしまったことを確認すると、今度は兵士たちへ向き直った。
「本の件とは別に、TIMEが王国内へ侵入したことは重大な問題でぷ。試練場と王都の入口、それからカジノ周辺の警備を増やすでぷ。黒い服と時計の紋章を見つけても、一匹で近づいては駄目でぷ」
「了解でぷ!」
「それから、試練場にはまだTIMEが残っている可能性があるでぷ。確認へ行く場合も必ず複数で動くでぷ」
「はいでぷ!」
兵士たちが治療室から出ていき、廊下を走っていく足音が遠ざかっていった。
王様はチェック兄貴を見る。
「チェックも今日は休むでぷ。詳しいことを思い出しても、今すぐ全部話そうとしなくていいでぷ」
「分かったでぷ」
「白銀もでぷ。よく知らせてくれたでぷ」
白銀は少し驚いたように目を開いたあと、深く頭を下げた。
「はいでぷ」
王様は最後に私を見る。
「フールちゃんも休むでぷ」
「うん」
「本当に休むでぷよ?」
「何で王様まで疑うの!?」
「さっき治療役から聞いたでぷ」
「何を!?」
治療役のゴブリンが何食わぬ顔で私の右足へ新しい包帯を巻いている。
「必要な情報共有でぷ」
「絶対余計なことまで言ったでしょ!」
「事実しか言ってないでぷ」
オラクルが横から笑う。
「諦めろ。もう王宮中に、お前が大人しくしてねえことは知られてる」
「そんなことで有名になりたくないよ!」
王様まで笑った。
さっきまでTIMEの話で張りつめていた治療室に、ようやく少しだけ明るい空気が戻ってくる。
王様は扉へ向かいかけたところで、一度足を止めた。
「そうでぷ。フールちゃん」
「何?」
「百万コインで☆5を手に入れたこと自体は、ものすごく運が良かったと思うでぷ。でも、これからは☆の付いた品を見つけたら、意味を知らないまま触ったり持ち歩いたりしないほうがいいでぷ」
「そんなに危ないものもあるの?」
「価値が高いということは、それだけで争いの原因になることがあるでぷ。それに☆付きの品は、必ずしも便利なものばかりとは限らないでぷ」
私は少し考えた。
☆1でも、普通の家族が何年も暮らせる価値。
☆5なら、世界で確認されているものが五つにも満たないかもしれない。
今までなら、星の付いた物を見つけても「珍しい物だ」くらいにしか思わなかったはずだ。
「分かった。次に見つけたら、ちゃんと調べる」
「それがいいでぷ」
王様は満足そうに頷き、治療室から出ていった。
扉が閉じる。
しばらくして、私は大きく息を吐いた。
「……☆5かあ」
『すごい?』
メリーが肩から尋ねてくる。
「すっごいみたい」
『シャイニーもすごい』
「うん。それは知ってる」
私は笑いながら鞄へ手を置いた。
本の値段がどれほど高くても、それだけなら実感は湧かなかったかもしれない。
でも、私にとってこの本の価値は、もう五つの星だけじゃない。
シャイニーと出会った。
アクアリヴァイアスとも出会った。
二人が来てくれたから、チェック兄貴を連れて全員で帰ってこられた。
だから、たとえどれだけ高く売れるとしても手放す気なんてなかった。
「黄色」
「何でぷ?」
「絶対売らないからね」
「まだ何も言ってないでぷ!」
「念のため」
「黄色の信用が低すぎるでぷ!」
赤と緑が笑い、チェック兄貴まで治療台の上で肩を揺らした。
その声を聞きながら、私は枕へ身体を預ける。
身体は疲れている。
右足もまだ痛い。
それでも、チェック兄貴は戻ってきたし、《幻獣種召喚の本》も守れた。
今日はそれで十分だった。
ただ、一つだけ胸の奥に残っている。
TIME No.4エドガーは、この本が何なのかを知っていた。
私たちが☆5の意味さえ知らなかったときから。
そして幻獣種が現れた瞬間にも、驚くだけではなく、何かを確かめたような反応をしていた。
――やはり、その本は。
その先に何が続くのかは分からない。
私は目を閉じかけ、もう一度だけ鞄を見た。
☆5《幻獣種召喚の本》。
世界でもほとんど確認されていないという、最高位の希少品。
その本を、TIMEは狙っている。
理由はまだ分からない。
だから今は、勝手に答えを作らない。
ただ一つだけ確かなのは、百万コインで何気なく手に入れた一冊の本が、私たちが思っていたよりずっと大きな秘密につながっているということだった。




