↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フールの大冒険 ~聖なるマップを手に、異世界でまだ見ぬ両親を探します~  作者: ☆☆アダム☆☆


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
82/291

第82話 氷上の大跳躍

鬼殺しレバーを一気に倒した瞬間、マシンの後部からこれまでで一番大きな轟音が弾けた。


身体が座席へ叩きつけられるような加速に襲われ、目の前にあった氷の斜面が一気に迫ってくる。少しでも斜めに入れば、飛び出した瞬間に車体の向きが崩れるかもしれない。


《鬼殺し 98 → 91 → 84》


「速いっ……!」


『まっすぐ!』


「分かってる!」


私は余計にハンドルを動かさず、ピンクお姉ちゃんが残した二本のタイヤ跡へ車体を重ねた。


背後では氷が砕け続け、もう速度を落としてやり直すことはできない。目の前いっぱいに黒い亀裂が広がり、その向こう側の氷が急速に近づいてくる。


「行っけええええっ!」


マシンが氷の斜面を駆け上がった。


ガンッ!


大きな衝撃が下から突き上げ、次の瞬間にはタイヤから地面の感触が消えていた。


「……飛んだ!」


眼下には巨大な亀裂と、その底で波打つ黒い水が広がっている。さっきまで走っていた氷は後ろから次々と崩れ、大きな塊になって水中へ落ちていた。


向こう側の氷は見えている。


けれど、思っていたより遠い。


「届く……?」


飛び出した勢いは十分だと思ったのに、空中ではアクセルを踏んでもタイヤが地面を蹴ってくれない。鬼殺しレバーを握ったままでも、ここから速度を増やすことはできなかった。


車体が少しずつ落ち始める。


向こう岸の縁が迫った。


「お願い……届いて!」


前輪が氷の端を越えた。


「届いた!」


そう思った瞬間、後輪が亀裂側の壁へ激突した。


ドガンッ!!


「きゃあっ!」


激しい衝撃で身体が安全帯へ押しつけられ、マシンの前半分が大きく跳ね上がった。前輪だけは向こう岸へ乗っているけれど、後輪はまだ亀裂の上に残っている。


「止まらないで!」


私はアクセルを踏み込んだ。


前輪が氷を掻き、砕けた欠片を後ろへ飛ばしながら車体を少しずつ引き上げていく。


ガガガガガッ――!


その直後、前輪の下へ新しい亀裂が走った。


バキッ。


「嘘でしょ!?」


『割れる!』


もう一度アクセルへ力を込めた瞬間、右足の傷の奥に鋭い痛みが走った。


「っ……!」


痛い。


それでも、ここで足を離せばマシンごと落ちる。


私は歯を食いしばり、アクセルを踏み続けた。前輪が氷を掻くたびに車体が僅かずつ前へ進み、やがて後輪の片方が縁へぶつかって乗り上げる。


「あとちょっと……!」


さらに車体が前へ出て、もう片方の後輪も氷へ乗った。


ドンッ!


四つのタイヤが向こう岸へ落ちる。


「乗った!」


『乗った!』


喜んでいる暇はなかった。


着地の衝撃で車体は左右へ大きく揺れ、そのまま氷の上を斜めに滑っている。正面には巨大な氷柱まで迫っていた。


「危ない!」


私はアクセルから足を離し、ハンドルを僅かに右へ当てた。凍結湖で覚えた通り、急に切り返さず、滑っている方向を感じながら少しずつ向きを戻していく。


氷柱が左側すれすれを通り過ぎ、ようやく車体が真っ直ぐになったところで、私は大きく息を吐いた。


「……渡れたぁ」


『飛んだ』


「飛んだね……本当に」


右足はまだ震えていた。


怖かったし、もう一度やれと言われたらすぐには頷けない。それでも、ピンクお姉ちゃんが越えた大亀裂を、私たちも自分たちのマシンで渡り切った。


私は鬼殺しレバーを戻し、残量を確認した。


《鬼殺し 82》


飛び出す直前から一気に使ったため、かなり減っている。さらに着地後、前輪だけで車体を引き上げるためにアクセルを踏み続けたことで、スタミナも《67B》まで落ちていた。


そして何より気になるのは右足だった。


さっき強く踏み込んだときの痛みが、まだ傷の奥に残っている。


『足、痛い?』


メリーが心配そうに覗き込んだ。


「さっきより痛くなった。でも、まだ動かせるから、しばらく強く踏まないようにする。ここで無理して動かなくなったら、最後まで走れないもん」


『うん』


本当は反射的に「大丈夫」と答えそうになったけれど、治療室で痛みを隠さないと約束したばかりだった。


私は右足の位置を少し直し、痛みが強くならない程度にアクセルへ力を掛ける。


そのとき、前方から大きな駆動音が聞こえた。


顔を上げると、桃色のマシンが見える。


「……近い」


ピンクお姉ちゃんだ。


大亀裂を越える前より明らかに距離が縮まり、その間にいたマシンも減っている。


魔法板には《5位》と表示されていた。


十九位まで落ちたところから、砂漠を抜け、ピラミッドを越え、毒沼で《温存者の道》を見つけ、氷雪区間では滑り方まで覚えてきた。


ようやく先頭争いが見える場所まで来た。


けれど、背後からも轟音が響いた。


バックミラーを見ると、後続のマシンが次々に大亀裂へ挑んでいる。その中には、何度も競り合ってきた青い六輪車もいた。


小柄なゴブリンは迷わず斜面へ入り、そのまま宙へ飛び出す。六つのタイヤが向こう岸へ着地すると、大きく跳ねながらもすぐに姿勢を戻して追ってきた。


『青、来た』


「やっぱり来るよね」


あのゴブリンも、まだ終わっていない。


私たちが右足を庇って速度を落とせば、すぐに追いついてくる。でも、だからといって無理にアクセルを踏み込めば、今度こそ右足が持たないかもしれない。


残っているBと鬼殺し、傷めた右足、そして前を走る四台。


ここから先は、残すだけでも使うだけでも勝てない。


◇


大亀裂を越えてしばらく進むと、氷雪区間にも少しずつ終わりが見え始めた。


雪は薄くなり、凍っていた路面にも黒い地面が混ざってくる。冷たい風はまだ残っているものの、タイヤがしっかり路面を掴む感覚が戻ってきた。


「滑らない……!」


『走れる』


「うん。でも、足は使いすぎない」


私はアクセルを軽く踏み、右足の痛みが強くならない範囲を確かめながら速度を上げた。


前方には四位の紫色のマシン、その先には三位と二位、そして先頭のピンクお姉ちゃんが見えている。まだ距離はあるけれど、もう見失うほど遠くはなかった。


そのとき、コース脇の魔法板へ新しい表示が現れた。


《最終区間まで 残り一地区》


「……最終区間?」


『もうすぐ最後?』


「たぶん」


胸が高鳴った。


第一の試練も、いよいよ終わりが近い。


だからこそ、ここから残っているものをどう使うかが重要になる。


《スタミナ 66B》


《スピード 鬼殺し82》


右足には痛みが残っている。


使えるものは、これだけ。


「最後まで全部残す必要はないんだよね」


『使う?』


「うん。でも、まだ」


今までは使い切らないことを考えてきた。でも、ゴールしたあとにBや鬼殺しを大量に残しても意味はない。


重要なのは、どこで使うかだ。


その答えを探しながら進んでいると、前方に巨大な石造りの門が現れた。


門の向こうからは明るい陽射しが差し込み、遠くから観客たちの歓声まで聞こえてくる。


「外に戻るんだ!」


門を抜けた瞬間、眩しい光が視界いっぱいに広がった。


目の前には巨大な谷があり、両側を切り立った岩壁に囲まれた細いコースが何度も上下しながら奥へ伸びている。急な下り坂と上り坂、連続するカーブ、そのさらに先には空中へ突き出した巨大な跳ね橋まで見えた。


そして谷の遥か先、二本の巨大な旗の間に白い横線が引かれている。


「……ゴール?」


『ゴール』


間違いない。


ここまで一度も見えなかった終点が、初めて姿を現した。


観客席からの歓声が一気に大きくなる。


「最終区間でぷー!」


「ピンク様が先頭でぷ!」


「挑戦者は五位でぷ!」


胸の奥が強く鳴った。


ゴールは見えた。


でも、まだ五位。


このまま走っているだけでは試練を突破できない。


私は四位の紫色のマシン、その先の三位と二位、そして桃色のマシンを順番に見た。


「ここからは……残すだけじゃ勝てない」


『使う』


「うん。ここまで残してきたものを、今度は勝つために使う」


右手を鬼殺しレバーへ添え、私は最終区間へ続く長い下り坂へマシンを向けた。


ゴールまで、あと一地区。


そしてピンクお姉ちゃんまで、あと四台。


第一の試練の決着が、ようやく見えてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。