第6話 四人で戦うということ
翌朝、目を覚ました私は、しばらく布団の中から天井を見つめていた。
窓の隙間から朝日が差し込み、階下からは食器を重ねる音や、宿の主人が誰かと話している声が聞こえてくる。隣のベッドでは赤が寝返りを打ち、反対側からは緑の穏やかな寝息が聞こえ、黄色は相変わらず金貨袋を胸元へ抱いたまま丸くなっていた。
昨日までなら気にも留めなかった音ばかりなのに、今朝は一つひとつが耳へ届くことに安心する。
風も、人の声も、三匹の寝息も聞こえている。
あの森では、それが全部なくなった。
私は頭に浮かびかけた黒衣の姿を追い払うように身体を起こし、まず赤と緑の傷を確認することにした。
赤はすでに目を覚ましていて、私と目が合うなり「昨日よりずっと元気でぷ!」と胸を張った。その証拠を見せるつもりだったのか右腕を勢いよく上げようとしたものの、肩より少し高いところまで来た途端に顔を歪める。
「ほら、まだ痛いじゃん。治ったか確認する前に動かさないの」
「元気になったところを見せたかったでぷ……」
「それで悪化したら、また薬も宿も必要になるよ」
赤は少し考えたあと、素直に腕を下ろした。どうやら昨日払った三銀Bの宿代は、お肉ほどではないにしても赤の記憶にしっかり残っているらしい。
包帯を外してみると、右肩から背中にかけて残っていた腫れは昨夜より少し引いていた。痣はまだはっきり残っているものの、軽く触れただけで身体を強張らせるほどではなくなっている。
そのころには緑も目を覚ましていたので、左脇腹の包帯を外して状態を確認した。こちらも腫れは少し収まっており、大きく息を吸ってもらっても昨夜ほど痛がらない。
「歩くくらいなら大丈夫そうだけど、二人とも無理はなしだからね。赤は剣を振らない。緑も痛くなったらすぐ言うこと」
緑は素直に頷いたが、赤は少し不満そうに耳を下げた。
「もし魔物が出たらどうするでぷ?」
「そのとき考える。最初から戦うって決めないの」
自分で口にしてから、昨日までならこんなことは考えなかっただろうと思った。
危険なものが現れたらどうするのか。戦うのか、逃げるのか、誰がどこに動くのか。私はずっと、その場になれば何とかなると思っていた。
でも、何とかならない相手がいることを知った。
だったら、何かが起きてから慌てるのではなく、その前に少し考えておけばいい。
◇
朝食を済ませ、一階へ下りようと階段を歩いていたときだった。
玄関の扉が勢いよく開き、ばたん、と大きな音が食堂へ響いた瞬間、私は何が起きたのか確かめるより先に黄色の腕を掴み、自分の背中側へ引き寄せていた。
赤も階段の途中で足を止め、緑は抱えていた本を胸元へ引き寄せている。
入ってきたのは、大きな荷物を背負った普通の旅人だった。
「おはようさん。いやあ、朝から冷えるな」
男は私たちの様子など気にも留めず、宿の主人へ声を掛けながら外套を脱いでいる。
黒い服ではない。
時計の模様もないし、左手の甲にも数字は刻まれていなかった。
そこまで確認してから、私はようやく黄色の腕を握っていた指から力を抜いた。
「……ごめん。痛くなかった?」
「大丈夫でぷ」
黄色はそう答えたものの、自分も金貨袋を胸へ強く抱き寄せていた。赤と緑も、旅人がただの客だと分かるまでその場から動かなかった。
誰もTIMEの名前を口にしていない。
それでも、四人とも同じものを警戒していた。
昨日の恐怖は、一晩眠ったくらいでは消えていない。
だからといって、無理に忘れる必要もないと思った。
怖いから周囲を見る。仲間から離れない。危険かどうかを確かめてから動く。
今は、それでいい。
◇
宿を出た私たちは、昨日の雑貨屋へ寄って赤と緑の傷をもう一度診てもらった。
二匹とも歩くこと自体は問題ないと言われたものの、店の女性からは「今日は激しく走ったり戦ったりするんじゃないよ。痛みが強くなったら、その場で休むこと」と念を押された。
村の入口まで来ると、昨日と同じ二人の見張りが立っていた。
その横には、新しい注意書きが貼られている。
《街道周辺でTIME構成員を確認。旅人は単独行動を避け、異常を発見した場合は最寄りの兵士または村へ報告すること》
私はその文字をしばらく見つめた。
昨日までは、TIMEという名前を手配書で見ても、自分とは遠いところにいる悪い人たちくらいにしか思っていなかった。
今は《TIME》という四文字を見るだけで、音の消えた森が頭に浮かぶ。
私は注意書きから目を離し、見張りの男へ尋ねた。
「この先へ進みたいんですけど、今日は街道を通っても大丈夫ですか?」
「今朝、巡回隊が確認してる。昨日TIMEが出た場所にも兵士が残ってるが、怪我人がいるなら東側の迂回路を使ったほうがいい。少し遠回りになる代わりに、巡回する兵士が多い」
以前の私なら、そこで「分かりました」と答えて終わっていた。
けれど今は、目的地へ向かう道だけでは足りない。
「途中で何かあったら、どっちへ逃げればいいですか? それと、人がいる休憩所はありますか?」
男は少し驚いたように私を見たものの、すぐに街道の先を指差した。
「何かあったら東へ逃げろ。西は沢があって足場が悪い。道を半分ほど進めば休憩所もあるから、怪我人がいるならそこで一度休むといい」
「ありがとうございます」
教えられた道を確認し、私たちは村を出た。
誰が決めたわけでもないのに、今日は四人とも互いに手が届くくらいの距離で歩いている。昨日までなら赤が先へ走り、黄色が何かを見つければ寄り道し、緑が本を読みながら少し遅れることもあった。
今日は誰も離れなかった。
途中、正面から黒い外套を着た旅人が歩いてきたときには、四人の足がほとんど同時に止まった。
男が近づいてくる。
私は服を見る。
時計の模様はない。
次に左手を見る。
数字もない。
男は不思議そうに私たちを見ながら、そのまま横を通り過ぎていった。
姿が遠ざかってから、赤が包帯の巻かれた肩へ触れた。
「普通の人だったでぷね」
「……うん」
私はようやく息を吐いた。
自分がいつから呼吸を浅くしていたのか、分からなかった。
◇
途中の休憩所で赤と緑の傷を確認し、少し身体を休めてから再び歩き始めると、景色は深い森から緩やかな丘陵地帯へ変わっていった。
背の高い木々が減り、左右には腰ほどの高さまで草が伸びている。森の中より遠くまで見渡せることが、今はそれだけでありがたかった。
「この先で大きな街道に合流するでぷ」
緑が本を確認しながら教えてくれた。
「その近くには大きな街もあるでぷよ」
「じゃあ、そこで何か仕事も見つけられるかな。昨日使ったお金も少し取り戻したいし」
黄色が嬉しそうに金貨袋を鳴らした。
「いっぱい稼ぐでぷ!」
赤も負けじと続ける。
「いっぱい稼いだら、お肉も買うでぷ!」
「治療費と宿代が先だからね」
「お肉も旅に必要でぷ!」
そんな話をしていると、少しずつ昨日までの空気が戻ってきた。
そのとき、前方十五歩ほどの草むらが大きく揺れた。
四人の会話が止まる。
赤は腰の剣へ手を伸ばしたものの、すぐには抜かなかった。緑も本を構え、黄色は私のすぐそばへ寄ってくる。
私はまず後ろを確認した。
来た道は開けている。
左右も、昨日の森ほど木が密集していない。
逃げることはできる。
がさり、ともう一度草が揺れた。
灰色の影が飛び出してくる。
現れたのは、犬より一回り大きな四本足の魔物だった。短い灰色の毛に覆われ、背中には黒い縞が走り、口元から小さな牙を覗かせている。
「緑、知ってる?」
「グラスウルフでぷ。街道の近くにも出る弱い魔物でぷけど、群れで動くことが多いから、一匹だけだと思っちゃ駄目でぷよ」
その言葉を証明するように、左右の草むらが続けて揺れた。
さらに二匹が姿を現す。
全部で三匹。
私は無意識に後ろへ下がりそうになった。
昨日の黒衣が頭をよぎる。
でも、目の前にいるものは違う。
動きが見える。
唸り声も聞こえる。
何より、緑は「弱い魔物」だと言った。
「逃げたら追ってくる?」
「背中を向けたら追ってくることがあるでぷ。赤と俺が全力で走れないから、今の距離なら戦ったほうが安全でぷよ」
だったら戦う。
私は三匹の位置を確認した。
「赤は右の一匹。でも肩が痛んだらすぐ下がって。緑は後ろから魔法をお願い。黄色は私と一緒に中央を見る」
赤が剣を抜き、緑は私たちから三歩ほど後ろへ下がって本を開いた。黄色は金貨袋を服の内側へ押し込み、私の右隣で身構える。
私は武器を持っていない。
でも、見ることならできる。
正面のグラスウルフが身体を低くした。
「来る!」
叫んだ直後、魔物が地面を蹴った。
予想していたより速い。
灰色の身体が一直線に迫り、牙を剥き出しにする。
私と黄色は左へ身体をずらした。
グラスウルフがすぐ横を通過し、爪が土を抉る。
近い。
獣の匂いまで分かった。
魔物が着地して身体を反転させるより早く、後方にいた緑の本から白い光が放たれた。光はグラスウルフの横腹へ直撃し、その身体を草地へ弾き飛ばす。
右側では赤が二匹目と向かい合っていた。
グラスウルフが飛びかかる。
赤は正面から受けず、身体を半歩ずらして牙をかわすと、そのまま剣の腹を魔物の肩へ叩き込んだ。
ところが追撃しようと右腕を上げた瞬間、赤の顔が歪んだ。
昨日の傷だ。
「赤!」
グラスウルフが立ち上がる。
赤はまだ剣を振れない。
私は足元の石を掴み、咄嗟に投げた。
石は頭には当たらず、前脚の近くへ落ちただけだった。それでも魔物の視線が赤から私へ移る。
しまった、と思ったときには遅かった。
グラスウルフがこちらへ身体を向け、地面を蹴る。
私は後ろへ下がった。
黄色が横から飛び込み、魔物へ体当たりする。
軌道が僅かにずれ、牙が私の服の裾を掠めた。
私は足を取られ、尻餅をついた。
グラスウルフが振り返る。
黄色も地面へ転がっている。
赤は右肩を押さえ、緑は一発目の魔法を撃った直後で、次の攻撃がまだ間に合わない。
魔物が牙を剥いた。
怖い。
それでも昨日とは違った。
身体が動かなくなるほどの恐怖ではない。
周囲を見る。
右手のすぐそばに、太い木の枝が落ちていた。
私はそれを両手で掴んだ。
グラスウルフが飛び込んでくる。
枝を横へ構えた瞬間、牙が木へ食い込み、強烈な衝撃が両腕へ伝わった。押し返されそうになりながら足を踏ん張ると、魔物の荒い息と獣臭が顔へ届くほど距離が近い。
「フールちゃん、そのままでぷ!」
赤が走ってきた。
今度は痛む右腕ではなく左手で剣を持ち、刃ではなく腹をグラスウルフの横腹へ叩きつける。
魔物の口が枝から離れた。
私は後ろへ転がるように距離を取り、黄色もすぐに起き上がって魔物の側面へ身体をぶつけた。
「緑!」
「いけるでぷ!」
緑の本から二発目の光が走った。
真正面から命中したグラスウルフが草地へ吹き飛ばされ、何度か脚を動かしたあと、そのまま動かなくなる。
残った一匹は仲間二匹が倒れたことで動きを止めた。
低い唸り声を上げながら、私たちを見る。
赤が剣を構え直し、黄色も私の横へ戻る。緑は後方で本を開いたまま、いつでも魔法を撃てるようにしていた。
今度は誰も一人で飛び出さない。
三匹目のグラスウルフはしばらくこちらを睨んだあと、一歩ずつ後退し、やがて身体を翻して草むらの奥へ逃げていった。
赤が反射的に追おうとしたので、私はすぐに声を掛けた。
「追わなくていいよ。もう襲ってこないなら、それで終わり」
赤は一歩だけ踏み出したところで止まり、逃げていくグラスウルフを見送ってから剣を下ろした。
「……分かったでぷ」
私たちは草むらが完全に静かになるまで、その場から動かなかった。
やがて緑が周囲を見回し、「もう近くにはいなさそうでぷ」と本を閉じた。それを聞いて、私はようやく握りしめていた太い枝を地面へ置いた。
力を抜いた途端、両腕が小さく震え始めた。
グラスウルフの牙を受け止めたときの衝撃がまだ手のひらに残っている。あと少し枝を拾うのが遅かったら、黄色が横から飛び込んでくれなかったら、赤や緑の援護が間に合わなかったら――考えればいくらでも危ない瞬間があった。
それでも、昨日とは違う。
TIMEの《1》を前にしたときは、何をされているのかさえ分からなかった。赤と緑は一撃で吹き飛ばされ、私は逃げることすらできず、最後には攻撃されるのを待つしかなかった。
今回は怖くても、相手を見ることができた。
仲間の声も聞こえた。
自分の身体も動いた。
「……勝ったんだね」
口にした途端、ようやく実感が湧いた。
緑はすぐに喜ぶのではなく、逃げたグラスウルフの方向をもう一度確認してから私を見た。
「今回は勝てたでぷ。でも、次も同じようにいくとは限らないでぷよ。グラスウルフがもっと多かったり、俺たちより強い魔物だったりしたら、逃げたほうがいいこともあるでぷ」
「うん。分かってる」
昨日は、逃げることを覚えた。
今日は、戦うことを少しだけ覚えた。
どちらか一つが正しいわけではないのだと思う。相手が誰なのか、自分たちがどんな状態なのかを見て、その場で四人が生き残れる方法を選ばなければならない。
そう考えたところで、私は赤の右肩を思い出した。
「赤、腕見せて」
「大丈夫でぷよ」
「さっき剣を振ろうとして止まったでしょ」
赤は目を逸らした。
分かりやすい。
私は赤のそばへ行き、包帯が巻かれている肩を確認した。大きくずれてはいないものの、戦闘中に右腕を動かしたせいで痛みが戻っているらしく、少し触れただけで耳がぴくりと動いた。
「ほら。やっぱり痛いんじゃん」
「フールちゃんが狙われたから、身体が勝手に動いたでぷ……」
「助けてくれたのは嬉しいよ。でも、赤がまた動けなくなったら私も困るの。守るなら、自分が動ける状態でいて」
自分で言いながら、昨日の賞金稼ぎの女性の言葉を思い出した。
――戦わないで守ることも覚えな。
あのときは赤に向けられた言葉だと思っていたけれど、今になってみると、私にも必要な言葉だった。
誰かを守りたいからといって、何も考えずに飛び出せばいいわけではない。助けようとして自分まで倒れたら、結局は別の誰かを危険に巻き込んでしまう。
私は鞄から残っていた冷却草を取り出し、赤の肩へ当て直した。
「今日はもう右腕で剣を振らないこと。約束して」
「分かったでぷ。次は左手で戦うでぷ」
「そういう意味じゃない!」
赤が真面目な顔で答えたので、緑と黄色が同時に吹き出した。
私も呆れながら笑ってしまう。
さっきまで魔物と命懸けで戦っていたのに、四人でこうして笑えている。それが嬉しかった。
黄色にも怪我がないか確認すると、体当たりしたときに膝と服を汚した程度だった。緑も新しい傷はなく、昨日痛めた脇腹が悪化した様子はない。
誰も大きな怪我を増やしていない。
それを確認できて、ようやく戦いが本当に終わったような気がした。
「よかった……」
私が小さく息を吐くと、黄色が不思議そうに首を傾げた。
「何がでぷ?」
「四人ともいるから」
それだけ答えると、三匹は一瞬黙った。
やがて赤が笑う。
「当たり前でぷ。まだ旅は始まったばっかりでぷよ」
「そうだね」
まだ、お父さんとお母さんの手掛かりさえ見つけていない。
こんなところで誰かが欠けるわけにはいかない。
◇
少し休んでから出発しようとしたところで、黄色が倒れている二匹のグラスウルフへ目を向けた。
さっきまで赤の傷を心配していた顔から一転し、何かを思い出したように目が輝いている。
「そうだったでぷ!」
「今度は何?」
黄色は倒れたグラスウルフのそばまで行き、その牙を指差した。
「これ、置いていったらもったいないでぷ!」
私は意味が分からず、黄色とグラスウルフを交互に見た。
「倒した魔物を持っていくの?」
「全部じゃないでぷ! 牙とか爪とか、売れるところだけ持っていくでぷよ」
「売れるの?」
「売れるでぷ!」
黄色の返事だけでは少し不安だったので緑を見ると、こちらも頷いた。
「魔物の身体には、道具や薬の材料になる部分があるでぷ。グラスウルフなら牙と爪は買い取ってもらえるでぷよ。毛皮も使えるでぷけど、綺麗に取るには専用の道具が必要でぷね」
私は改めてグラスウルフを見る。
ついさっきまで私たちへ襲いかかってきていた魔物だ。
戦うことだけで精いっぱいで、その後のことなど考えていなかった。
「魔物を倒したら、それで終わりじゃないんだ……」
「旅にはお金が必要でぷ!」
黄色が金貨袋を掲げた。
「昨日だって薬と宿でいっぱい使ったでぷ。QUESTだけじゃなくて、売れるものはちゃんと売って旅のお金にするでぷよ!」
それを聞いて、昨日払った金額を思い出した。
治療用品に一銀Bと四赤B。
宿代に三銀B。
確かに、これからも怪我をしたり宿へ泊まったりすれば、お金はどんどん必要になる。
赤がグラスウルフの牙を眺めながら口を開いた。
「これを売ったら、お肉も買えるでぷ?」
黄色は即座に首を横へ振った。
「まず旅のお金でぷ!」
「ちょっとくらいお肉でもいいでぷ!」
「駄目でぷ!」
「二人とも、まだ売れる金額すら分かってないからね」
私が止めると、赤と黄色はようやく黙った。
緑が呆れながら笑っている。
私もつられて笑った。
昨日は、初めてQUESTでお金を稼いだ。
今日は、魔物を倒したあとにも旅へつながるものが残ることを知った。
知らないことは、まだいくらでもある。
それでも一つずつ覚えていけばいい。
私は倒れたグラスウルフの前へしゃがみ込み、牙を近くから見た。
「じゃあ、どうやって取るの?」
その瞬間、黄色の顔がさらに明るくなった。
「それは俺に任せるでぷ!」
緑がすぐ横から口を挟む。
「黄色だけに任せると、売れるところを全部取ろうとするから俺も見るでぷ」
「お金になるなら全部持っていくでぷ!」
「荷物が重くなったら歩けないでぷよ」
三匹が言い合うのを聞きながら、私はもう一度、自分の両手を見た。
まだ少し震えている。
でも、その震えはさっきより小さくなっていた。
TIMEに負けた昨日。
グラスウルフに勝った今日。
たった一日で強くなれたわけではない。
私は剣も使えないし、魔法も使えない。さっきだって、拾った枝で必死に牙を受け止めただけだった。
それでも昨日の私より、少しだけ知っている。
勝てない相手からは逃げること。
戦える相手でも一人で飛び出さないこと。
仲間の位置を見ること。
そして、戦いが終わったあとにも旅は続いていくこと。
「よし」
私は袖を少しまくった。
「教えて。みんなでやろう」
黄色が元気よく頷き、緑も本を抱え直した。
赤は右肩を冷やしながら、「俺も見るでぷ」と私の隣へ座る。
風が草原を渡り、四人の髪や服を揺らしていく。
少し前まで魔物と戦っていた場所で、今度は四人そろって牙の取り方を相談している。
私はなんだか可笑しくなって、また少し笑った。
こうして私たちは、初めて自分たちの力で魔物との戦いを終えた。
そして同時に知った。
この世界の冒険は、魔物を倒したところで終わりではないらしい。
むしろ、その先にあるものまで全部ひっくるめて――旅なのだ。




