第38話 精霊を知る者
翌朝、目を覚ました瞬間に最初に感じたのは、腕の痛みだった。
「いたた……」
ベッドから身体を起こすと、昨日何度も木箱を運んだ腕だけでなく、背中や足まで少し痛む。大したことはないけれど、普段とは明らかに違った。
昨日、本当に自分で働いたのだと思うと、痛いのに少しだけ嬉しかった。
着替えを済ませて部屋を出ると、廊下の向こうから赤たち三匹が揃って歩いてきた。正確には、歩いているというより全員でよろよろ進んでいる。
「おはよう」
「おはようでぷ……」
いつもなら一番元気な赤まで声が弱く、腰へ手を当てて老人のような歩き方をしている。その後ろでは緑も腕をさすっていたけれど、黄色だけは何事もないような顔をしていた。
「黄色は平気なの?」
「俺は頭を使って荷物を積んでたでぷ」
「一番楽してたってこと?」
「効率よく働いたと言ってほしいでぷ」
間違ってはいないのかもしれないけれど、少し納得できない。
宿の食堂へ下りると、オラクルはすでに朝食を食べていた。それどころかいつも通り煙草まで吸っていて、身体が痛そうな様子もない。
「オラクル、身体痛くないの?」
「この程度で筋肉痛になるほど鈍ってねえよ」
「ずるいでぷ」
赤が悔しそうに睨む。
「何がずるいんだよ」
「俺たちだけ痛いでぷ」
「知らねえよ」
赤は不満そうだったけれど、朝食に肉が出てくるとすぐに機嫌を直した。
◇
朝食を終えると、昨日決めた通り《精霊の叫び》について情報を集めるため街へ出た。
まずは骨董品や美術品を扱う店を回り、緑が描いた絵の写しを見せながら、《精霊の叫び》という名前や、絵の中から声が聞こえたことを説明していく。
しかし、そう簡単に答えは見つからなかった。
「喋る絵なら怪談で聞いたことがある」「山水を描いた古い絵自体は珍しくない」「呪われた品じゃないか」など、いろいろな話は聞けたものの、絵に精霊を閉じ込める方法や、それを解く方法を知る人はいない。
中には「珍しいなら一度持ってこい。値段をつけてやる」と言う店まであった。
その話に黄色が少しだけ反応した。
「値段だけ聞いてみるでぷ?」
「売らないよ」
「聞くだけでぷ。価値を知るのは大事でぷ」
「中に精霊がいるんだよ?」
「じゃあ精霊込みで――」
「黄色」
私が睨むと、黄色は「冗談でぷ」と目を逸らした。
最近、少しオラクルに似てきた気がする。それはあまり良くない。
昼を過ぎるころには何軒も店を回っていたけれど、有力な情報は一つも得られなかった。昨日の荷物運びの疲れまで残っているせいで足も重く、私たちは大通りの端にあるベンチで休むことにした。
緑が本を開いて今日聞いた話を確認したものの、書かれているのは怪談や推測ばかりだった。
「こんなに聞いても分からないんだね……」
「珍しい物なら、知らない奴のほうが多くて当然だろ」
オラクルはそう言いながら煙草を咥えている。
「オラクルは途中で賭場見てたでぷ」
赤が言った。
「見ただけだ」
「入りたそうだったでぷ」
「入ってねえだろ」
「私たちが腕掴んだからね」
情報収集が賭博に変わりかけたことだけは、忘れてはいけない。
黄色も金袋を抱えながら真面目な顔で頷いた。
「オラクルにお金持たせたら駄目でぷ」
「お前にだけは言われたくねえ」
二人が言い合っている間、私は通りを眺めた。
これだけ人がいて、これだけ物が集まる街なのに、答えは簡単には見つからない。両親のことも、《精霊の叫び》のことも同じだった。
「私、探してばっかりだなあ……」
思わず呟くと、緑が本から顔を上げた。
「旅って、そういうものかもしれないでぷ」
「そうなの?」
「分からないでぷ」
「分からないのに言ったの?」
「それっぽかったでぷ」
思わず笑ってしまったけれど、そのおかげで少しだけ気持ちが軽くなった。
「もう少し探そう」
急いだからといって答えが見つかるわけではない。それでも、何もしなければ何も分からないままだ。
◇
午後からは、絵そのものではなく魔法や不思議な道具に詳しい人を探すことにした。
何軒か回った末、大通りからかなり離れた裏路地で、《魔法具修復・鑑定》とだけ書かれた小さな看板を見つけた。
中へ入ると、壊れた杖や割れた水晶、用途の分からない金属片などが棚いっぱいに並んでいる。奥から現れたのは片眼鏡を掛けた痩せた男性で、私たちが事情を説明して緑の描いた写しを渡しても、最初はほとんど興味を示さなかった。
ところが、《精霊の叫び》という名前を伝えたところで、写しを持つ手が止まった。
「今、何と言った?」
「《精霊の叫び》です」
「誰がその名前を?」
「《聖なるマップ》に出たんです」
男性はしばらく黙ったあと、写しを机へ置いた。今まで話を聞いた人たちとは、明らかに反応が違う。
「何か知ってるんですか?」
「その絵そのものは知らない。ただ、君たちの話が本当なら、かなり厄介な物かもしれない」
私は思わず身を乗り出した。
男性によると、精霊が自ら物を依代にして宿ること自体は、それほど珍しい話ではないらしい。
問題は、《精霊の叫び》の中にいる精霊たちが自分の意思で入ったのではなく、何者かによって強制的に閉じ込められたことだった。
「自分から物へ宿るのと、外から封じ込められるのでは使われている力の性質がまるで違う。後者なら、絵を壊した程度で解放できるとは考えないほうがいい」
「じゃあ、剣で額縁を――」
赤が言いかけると、男性はすぐに首を横へ振った。
「絶対にやめたほうがいい。器だけ壊して封じる力が残れば、中の精霊まで傷つける可能性がある」
「優しく壊すのも駄目でぷ?」
「壊し方の問題ではない」
赤がしょんぼりした。その横で緑が本を開き、《破壊禁止》と書いた文字を二重線で囲む。
「それじゃ、どうすれば助けられるんですか?」
私が尋ねると、男性は少し考えてから答えた。
「封じた力そのものを解く必要があるだろう。ただし、それが魔法なのか、呪いなのか、それ以外の何かなのかは実物を調べなければ分からない。少なくとも、普通の魔法道具を直す知識だけでは足りん」
「じゃあ、誰なら分かる?」
オラクルが聞く。
「精霊そのものに詳しい人間だ。研究者でもいいし、精霊と深く関わる土地の伝承を知る者でもいい。精霊に関する古い術や儀式なら、そういう場所に残っている可能性がある」
ようやく、今までとは違う情報が出てきた。
「そういう人、どこにいるか知ってますか?」
「確実な相手は知らん。ただ、アデューだけを探すより範囲を広げたほうがいいだろうな」
男性は店の奥から使い込まれた古い冊子を持ってくると、何枚かページをめくった。
「森の奥に精霊を祀る集落があるという話もあれば、山に住む精霊使いの話もある。どれも噂の域を出んが……海沿いの土地には、内陸では残っていない古い精霊伝承が多いとも聞く」
「海?」
私はその言葉に反応した。
「何かあるんですか?」
「私が知っているのはそこまでだ。海の民は昔から独自の伝承を持つことが多い、という程度の話だよ」
答えには程遠い。それでも、朝から何軒回っても何一つ方向さえ分からなかった私たちにとっては、初めて見つけた道しるべだった。
アデューだけで答えが出ないのなら、別の土地へ行けばいい。精霊について詳しい人を探しながら旅を続ければ、いつか《精霊の叫び》を解く方法に辿り着けるかもしれない。
「ありがとうございます!」
私が頭を下げると、男性は黙って手のひらを差し出した。
「……何ですか?」
「情報料」
その一言で、黄色がものすごい勢いでこちらを向いた。
「お金取るでぷ!?」
「商売だからな」
「いくらでぷ?」
「二銀B」
黄色の顔から血の気が引いた。
「高すぎるでぷ! 昨日みんなであんなに頑張って五銀Bだったでぷよ!」
「なら一銀B」
「いきなり半額になったでぷ!?」
オラクルが吹き出した。
「お前、最初から適当に言ってただろ」
男性も少しだけ笑った。
「半分冗談だ。情報だけなら五十赤Bでいい」
それでも黄色は納得しなかった。
「四十赤Bでぷ」
「なぜお前が値段を決める」
「情報には相場があるでぷ」
「さっきまで情報料取られるか心配してただろ」
「だから調べたでぷ」
いつの間に。
結局、そこから黄色と男性の値段交渉が始まり、最終的に四十五赤Bで決着した。
店を出たあと、オラクルが黄色の肩を叩く。
「やるじゃねえか」
「五赤B守ったでぷ」
「そこまで頑張る?」
「五赤Bを笑う者は五赤Bに泣くでぷ」
そんな言葉が本当にあるのかは知らない。でも黄色は、今日一番誇らしそうな顔をしていた。
私たちはそのまま宿へ戻ろうとしたけれど、店を出て少し歩いたところで緑が突然足を止めた。
「そういえば、さっきの人が見せてくれた本に何か挟まってたでぷ」
「何か?」
「海沿いの地名みたいなのが書いてあったでぷ。話を聞くのに夢中で聞き忘れたでぷ」
オラクルが呆れた顔をする。
「一番大事そうなところ忘れてんじゃねえか」
「忘れてないでぷ! 今思い出したでぷ!」
「それを忘れてたって言うんだよ」
結局、私たちは来た道を引き返した。
扉を開けると、片眼鏡の男性が「今度は何だ」と面倒そうにこちらを見る。
緑はすぐに尋ねた。
「さっきの本に、海沿いの場所の名前みたいなのが書いてあったでぷ。あれ何でぷ?」
「ああ……あれか」
男性は先ほどの古い冊子を取り出し、何枚かページをめくった。
「精霊の話そのものではない。この辺りから南へ向かった海沿いに、古い伝承が多く残っている地方があるという記録だ」
「そこなら何か分かるかもしれない?」
私が尋ねると、男性は首を傾げた。
「分からん。そもそも随分古い記録だからな。ただ、このアデューで同じ店を何十軒回るよりは可能性があるだろう」
男性は冊子の一部分を指でなぞった。
「この辺りには昔から海にまつわる妙な話が多い。水の中から聞こえる歌、人ではない者が湖や海へ消えたという話、月の形によって姿を変える水辺の話……まあ、どれも昔話だがな」
私はその言葉に引っ掛かった。
「歌?」
「伝承の一つだ。詳しいことまでは知らんよ」
《精霊の叫び》を解く方法そのものではなかったけれど、朝から何軒もの店を回って初めて得られた、次へ進むための情報だった。
精霊について詳しい人物や古い伝承を探すなら、アデューで同じ聞き込みを続けるより、南の海沿いへ向かったほうがいいのかもしれない。
私はオラクルを見る。
「行ってみたい」
「だと思ったよ。どうせ両親探しも行き先が決まってねえんだ。旅を続けながら情報を集めるって話だったし、南へ向かう理由ができたと思えばいい」
「うん」
赤もすぐに手を上げた。
「海行くでぷ! 精霊を助けたら魚も食べるでぷ!」
「やっぱり魚が目的に入ってるじゃん」
緑は笑いながら、本へ《南・海沿い・古い水の伝承》と書き加えた。その横では、黄色が真剣な顔で指を折っている。
「南まで何日掛かるでぷ? 宿代と食事代も計算するでぷ。せっかく五銀B増えたのに、もう四十五赤Bも減ったでぷ」
「五赤B値切ったんだからいいじゃん」
「増えたお金が減るのは悲しいでぷ」
オラクルが呆れたように煙を吐いた。
「旅してりゃ金は使うんだよ。そんなに嫌ならここに住め」
「それは嫌でぷ。フールちゃんと一緒に行くでぷ」
黄色が当然のように答えると、赤と緑も揃って頷いた。
何気ない言葉だったけれど、私は少し嬉しくなった。
この世界へ来たばかりのころは一人で、お父さんとお母さんの顔も名前も分からず、何をすればいいのかさえ分からなかった。それが今では三匹がいて、オラクルまで一緒に旅をしている。
両親の手掛かりはまだほとんど見つかっていないうえ、《精霊の叫び》という新しい問題まで増えた。それでも、最初のころほど心細くはなかった。
「南へ行っても、お父さんとお母さんのこと聞いてみる」
「ああ。行く場所が増えりゃ、会う人間も増える。今のお前は二人について知らねえことが多すぎるんだから、いろんな場所へ行って情報を拾うしかねえ」
オラクルの言葉に、私は頷いた。
《精霊の叫び》を助ける方法を探しながら、両親の手掛かりも集める。旅を続けるなら、どちらか一方を諦める必要はない。
「じゃあ、明日出発?」
「待て。南へ行くって決めただけで、道も距離も確認してねえだろ。食料もいるし、途中で泊まれる場所も調べなきゃならねえ」
「……そうだった」
緑が呆れたように「フールちゃん、すぐ出発しようとするでぷ」と言うと、赤まで感心したようにオラクルを見上げた。
「オラクルがちゃんと考えてるでぷ」
「お前ら俺を何だと思ってんだ?」
私は少し考えてから答えた。
「煙草を吸って、賭け事して、王宮で捕まって、倉庫から物を盗もうとした人?」
「悪いところだけ並べんな!」
「全部本当でぷ」
三匹が揃って頷き、オラクルが頭を抱える。その声が大きすぎて通行人に振り返られたので、私たちは笑いながら宿へ戻ることにした。
◇
その夜、私は部屋のベッドに《聖なるマップ》を広げていた。
赤、緑、黄色も私の部屋へ集まり、オラクルは窓際の椅子に座っている。いつものように煙草へ火をつけようとしたところで緑に睨まれ、渋々しまっていた。
地図には、旅を始めてから訪れた場所や出会った人、手に入れた物が少しずつ増えている。その中には、新しく登録された《精霊の叫び》もあった。
私は地図を眺めながら、昼間に聞いた話を思い返す。
南の海沿い。
古い水の伝承。
水の中から聞こえる歌。
月によって姿を変える水辺。
どれも《精霊の叫び》を助ける方法に直接つながるものではない。それでも今の私たちには、進む方向を決めるには十分な手掛かりだった。
「南へ行ったら、何か見つかるかな」
私が呟くと、赤がベッドの横から顔を出した。
「見つからなかったら、もっと先に行くでぷ。世界は広いでぷ」
「調べる場所が増えるだけでぷ」
緑も頷く。
黄色も続けた。
「お金がなくならない範囲なら、どこまでも行くでぷ」
「そこはやっぱりお金なんだ」
私が笑うと、オラクルは椅子へ背中を預けたまま言った。
「今から答えがあるか心配しても仕方ねえ。行って、なかったら次だ。そうやって情報を増やしていきゃいい」
「うん」
お父さんとお母さんを探すことも同じなのだと思う。
顔も名前も分からないから、今すぐ二人を探し出すことはできない。それでも世界を歩き、いろいろな人と出会っていけば、いつか何か一つくらい手掛かりを見つけられるかもしれない。
《精霊の叫び》も、今は助け方が分からないだけだ。
私は《聖なるマップ》を閉じ、大切に鞄へ戻した。
「明日は準備して、それから南だね」
「今度はちゃんと準備する気になったか」
「さっき言われたからね」
「覚えてて偉いでぷ」
赤に褒められたけれど、なぜかあまり嬉しくなかった。
◇
翌朝、私たちは朝食を済ませると、南へ向かうための準備を始めた。
オラクルによれば、海まで一本の道が続いているわけではなく、いくつかの街や村を経由しながら南へ下っていくことになるらしい。そこで道順を確認し、食料や水、旅に必要な日用品を買い足していった。
黄色は支払いのたびに金袋を抱えて苦しそうな顔をしていたけれど、必要な物まで削ろうとはしなかった。
「偉いね、黄色」
「何がでぷ?」
「ちゃんと必要な物にはお金使ってるから」
黄色は少し考えた。
「水を買わないと死ぬでぷ。死んだらお金使えないでぷ」
「理由が黄色らしい……」
成長したと思ったけれど、やっぱり黄色だった。
昼前には準備も整い、私たちはアデューの南門までやって来た。
門の向こうには街道が続き、その先には緩やかな丘と草原が広がっている。ここから何日も歩けば、やがて海の近くまで辿り着くという。
「寄り道しなきゃ、南の海沿いまでは数日ってところだな」
オラクルの説明に、緑がすぐ反応した。
「寄り道しなかったら、でぷね」
なぜか全員が黙った。
私たちが何事もなく目的地まで進む姿を、誰も想像できなかったらしい。
「今回はまっすぐ行くよ」
私が宣言すると、オラクルが鼻で笑った。
「無理だな。お前、道端で誰かが困ってたら絶対止まるだろ」
「それは……」
否定できない。
赤も自信満々に手を上げる。
「美味しそうな肉があっても止まるでぷ」
「それは赤でしょ」
「安売りしてても止まるでぷ」
今度は黄色だった。
「それは黄色」
緑まで少し考えてから、「珍しい本があったら止まりたいでぷ」と言い出した。
「緑まで!」
結局、寄り道しそうな人しかいなかった。
私は最後にオラクルを見る。
「オラクルだって賭場があったら止まるじゃん」
「…………」
「一番駄目でぷ」
三匹から一斉に言われ、オラクルは何も返せなかった。
笑いながら南門を抜けたところで、私は一度だけ足を止めて振り返った。
遠くにはアデューの建物が並び、その向こうには王宮の一部も見えている。
王子やマリーお姉さんたちは元気にしているだろうか。
そして街から少し離れたガレオさんの倉庫には、今も《精霊の叫び》が残されている。
あの絵の中で、精霊たちは助けを待っている。
「絶対、戻ってくるから」
小さく呟いた。
今度戻ってくるときには、ただ絵を眺めるだけではなく、精霊たちを外へ出す方法を持って帰りたい。
「フール、行くぞ」
少し先を歩いていたオラクルに呼ばれ、私はアデューから前へ視線を戻した。
南へ続く街道が、遠くまで伸びている。
その先には、私たちがまだ見たことのない土地がいくつもある。
精霊について知る人がいるかもしれない。
水にまつわる古い伝承が、本当に残っているかもしれない。
お父さんとお母さんにつながる何かだって、どこかで見つかるかもしれない。
何が待っているのかは分からない。
だから、自分たちの足で確かめに行く。
「行こう!」
私が歩き出すと、赤、緑、黄色もすぐについてきた。
赤は新しい剣を腰へ下げ、緑はこれまで集めた情報を書いた本を抱え、黄色は旅費の入った金袋を大切そうに押さえている。最後尾ではオラクルが、いつものように面倒そうな顔をしながら歩いていた。
こうして私たちはアデューを離れ、南へ向かう旅を始めた。
目的は《精霊の叫び》を解く手掛かりを探すこと。
そして旅を続けながら、まだ顔も名前も分からない両親についての情報も集めていく。
目指す場所の名前さえ、まだ知らない。
分かっているのは――南へ行けば、海があるということだけ。
その海へ辿り着くまでに、どんな出会いや騒動が待っているのか。
このときの私たちには、まだ知る由もなかった。




