第34話 荷物の中から声がする
ガレオさんが倉庫を出ていくと、私たちはさっそく一回目の荷物を台車へ積み始めた。
改めて中を見ると、倉庫は入口から奥へ向かって細長い造りになっている。左右の壁際には商品棚が並び、壺や絵、骨董品などが置かれ、その間には荷物を運ぶための広い通路が真っ直ぐ伸びていた。一番奥には二階へ続く階段があり、ガレオさんから港へ運ぶよう頼まれた十五個の荷物は、入口から見て右奥の一画にまとめられている。
そのすぐ近くの壁には大きな両開きの搬出口があり、外には荷物を運ぶための台車が置かれていた。反対側の左奥は今回の仕事とは関係のない商品の保管場所らしく、背の高い棚の前に木箱や布包みが何段にも積まれ、大きな箱は床へ直接置かれている。通路こそ確保されているものの、場所によっては私の背丈より高く荷物が積み上がっていた。
「まずこっちを台車に載せればいいんだよね」
私は右奥にまとめられた荷物の中から、小さめの木箱を両腕で抱えた。
赤はもっと大きな箱へ挑戦し、緑は荷物に付いた札を確認している。黄色は搬出口のそばに置かれた台車を眺めながら、どの順番で積めば一度に多く運べるのか考えているようだった。
この調子なら、思っていたより早く終わるかもしれない。
そう思っていたとき、中央の通路に立っていたオラクルが突然仕事の手を止めた。
「なあ、お前ら。大金、欲しくないか?」
黄色がものすごい速さで振り返った。
「欲しいでぷ!」
「即答なんだ……」
私は抱えていた木箱を台車へ置いてから、オラクルを見る。
「急にどうしたの?」
「大金って何でぷ?」
緑も不思議そうに尋ね、赤は新しい剣を腰へ下げたまま首を傾げている。
オラクルは私たちの反応を確認すると、左右の商品棚をゆっくり見回した。
「考えてみろよ。ガレオのおっさんはもういないし、ここにいるのは俺たちだけだ。それなのに、こんだけ売れそうな物が山ほど残ってる」
そう言って、左側の棚に並んだ骨董品や美術品、その下に積まれた商品を指差す。
嫌な予感がした。
「今なら盗み放題だぞ」
一瞬、倉庫が静かになった。
私と赤と緑は揃ってオラクルを見た。黄色だけは棚の商品とオラクルを交互に見ていたけれど、私が視線を向けると慌てて首を横へ振る。
「オラクル、最低」
「いきなり酷くねえか?」
「最低でぷ。依頼主の物を盗むなんて駄目でぷ!」
緑に続いて赤も怒り、黄色も「大金は欲しいでぷけど、まだ盗むとは言ってないでぷ!」と必死に弁解した。
それでもオラクルは悪びれず、肩をすくめる。
「別に全部持っていけとは言ってねえだろ。これだけあるんだぞ。一個くらいなくなったって――」
「駄目!」
「駄目でぷ!」
「泥棒でぷ!」
今度は一斉に怒られた。
「ガレオさん、私たちを信用して仕事を任せてくれたんだよ?」
「冗談だって」
「絶対ちょっと本気だったでぷ」
緑が疑いの目を向けると、オラクルは悪びれもせず「半分くらいな」と答えた。
「本気じゃん!」
赤まで呆れたように首を横へ振る。
「オラクルは駄目な大人でぷ」
「ゴブリンに言われたくねえよ」
「バカ猫でぷ」
黄色まで加わった。
「誰がバカ猫だ!」
「泥棒猫でぷ」
「猫じゃねえ!」
「煙草猫でぷ」
「もう猫関係ねえだろ!」
私たちの言い争う声が中央通路に響き、左右の商品棚の間で何度も反響する。
その騒ぎに紛れて――ほんの一瞬だけ、聞き慣れない声が混じった。
「――……けて……」
「え?」
私は口を閉じた。
今のはオラクルでも、三匹でもない。
「ちょっと待って。みんな静かにして」
「どうした?」
「今、誰かの声が聞こえた気がする」
オラクルたちも言い争うのをやめた。
倉庫が急に静かになる。
私は中央通路に立ったまま耳を澄ませた。右奥には港へ運ぶ十五個の荷物と搬出口、正面奥には二階へ続く階段があり、左側には今回の仕事とは関係のない商品が積み上げられている。
人の姿はどこにもない。
やっぱり聞き間違いだったのだろうか。
そう思いかけたとき――。
「……助けて……」
今度は、はっきり聞こえた。
赤たちの表情が一斉に変わった。
「聞こえたでぷ……」
「本当に誰かいるでぷ」
オラクルもすぐに表情を引き締め、声の方向を探るように周囲を見回した。
私も耳を澄ませながらゆっくり身体の向きを変える。声は右奥にある十五個の荷物からでも、正面の階段からでもない。
「……あっちだと思う」
私が指差したのは、倉庫の左奥だった。
今回運ぶ荷物とは関係のない商品が保管されている場所で、背の高い棚の前には大小の木箱や布包みが何段にも積み重なっている。一番奥は入口からではほとんど見えず、昼間なのに薄暗かった。
全員の視線が同じ場所へ集まった。
私たちは声を聞き逃さないよう黙ったまま、中央通路から左側の商品置き場へ近づいていく。
積み上げられた荷物との距離が縮まるにつれて、声が聞こえた場所も絞られてきた。
どうやら一番奥に積まれた荷物の辺りらしい。
オラクルが足を止め、さっきまでとは別人のような真剣な表情で木箱の山を見つめた。
「……この中だな」
私は頷いた。
ガレオさんから港へ運ぶよう頼まれた十五個ではない。
倉庫の左奥に保管されている、別の商品。
その積み上げられた荷物のどこかに――誰かがいる。




