第33話 交易商の倉庫
外から見たときは、今にも崩れそうなお化け屋敷だと思っていた。
ところが、ガレオさんに続いて中へ入った私は、外観との違いに驚いた。建物そのものは古く、歩くたびに床板が僅かに軋むものの、倉庫の中は思っていた以上に綺麗に整理されている。
壁際には大小さまざまな木箱が積まれ、棚には壺や食器、額縁に入った絵、古びた置物などが種類ごとに並べられていた。布を掛けられた大きな荷物には一つずつ札が結びつけられ、これだけ物が多いのに、人が歩くための通路はきちんと確保されている。
「外と全然違うでぷ」
緑が感心したように周囲を見回すと、ガレオさんは「商品まで適当に置いたら商売にならんからな」と笑った。
確かに整理はされている。ただ、とにかく量が多かった。
入口から見える範囲だけでも何十個もの箱があり、その奥にも棚が続いている。二階へ上がる階段の近くにも荷物が積まれ、どこまでが今日運ぶ物なのか見ただけでは分からない。
黄色はさっそく棚の品物を眺め、赤も見たことのない置物を不思議そうに見上げていた。
私も近くの棚を覗いてみる。
綺麗な模様の入った壺の隣には何に使うのか分からない古い道具が置かれ、その横には色を何重にも塗り重ねたような不思議な絵まで立て掛けられていた。
「ガレオさん、これ全部何なんですか?」
「商売で集まった物だよ。人を使って各地と貿易をしてるから、いろんな物がここへ来るんだ」
ガレオさんは何でもないことのように答え、棚に並んだ品物を順番に指差した。
「骨董品も扱うし、最近作られた美術品も売る。いらなくなった物をまとめて買い取ることもあるから、気づいたらこんな倉庫になってた」
「本当に何でもあるでぷね」
「売れる物なら何でも見る。それが長く商売を続けるコツだ」
ガレオさんは笑った。
私はもう一度、倉庫を見渡した。
ここには、遠い土地から運ばれてきた品物もあるのだろう。ガレオさん自身も長く交易に関わり、大勢の商人や旅人と会ってきたはずだ。
そう考えたところで、一つ聞いてみたいことが浮かんだ。
「ガレオさん。私、お父さんとお母さんを探してるんです」
「ご両親を?」
「はい。でも、名前も分からないし、顔も覚えてないんです。どこにいるのかも、どこにいた人なのかも分からなくて……」
口にするほど、自分が二人について何も知らないことを改めて思い知らされる。
それでも、いろいろな土地と関わってきたガレオさんなら、せめて探す方法くらいは知っているかもしれない。
けれど、ガレオさんは少し考えてから、申し訳なさそうに首を横へ振った。
「それは難しいな。私も商売で大勢の人間と会ってきたが、名前も顔も場所も分からないとなると、さすがに探しようがない。せめて何か一つでも手掛かりがあれば違うんだがな」
「……やっぱりそうですよね」
分かっていたはずなのに、少しだけ胸が沈んだ。
すると、横で話を聞いていたオラクルが口を挟んだ。
「そりゃそうだ。最初から一人目で答えが見つかるなんて思ってねえだろ? 何も分からねえなら、分かることを一個ずつ増やすしかねえ」
「うん……」
「だったら今はそれでいい。それより先に仕事を終わらせようぜ。QUESTを受けに来たのに話だけして帰ったら五銀Bも貰えねえからな」
「それは困るでぷ!」
黄色が真っ先に反応したので、私は思わず笑ってしまった。
落ち込んでいても、知らないことが急に分かるわけではない。今は目の前のことを一つずつやるしかないのだと思う。
「うん。まず仕事しよう」
ガレオさんも頷き、私たちを倉庫の奥へ案内した。
「それじゃ、運んでもらう物を見せよう。こっちだ」
ガレオさんが指差した一画には、ほかの商品とは分けるように十五個ほどの木箱や包みがまとめられていた。両手で抱えられそうな箱もあれば、私一人では持ち上げるのが難しそうなものもある。
「これ全部でぷ?」
赤が尋ねると、ガレオさんは頷いた。
「ああ。港まで運んで、船に積んでもらいたい」
私は依頼書の内容を思い出して首を傾げた。
「市場じゃないんですか?」
「ああ。依頼を出したあとで送り先が変わってな。そのまま船で出すことになったんだ。距離は大して変わらんから、港まで頼めるか?」
オラクルが荷物の量を確認してから、「これくらいなら問題ねえだろ」と答えた。
「外に台車がある。全部を一度には載せられんが、二回か三回に分ければ終わるはずだ」
それを聞いて少し安心した。十五個の荷物を一つずつ抱えて港まで歩くわけではないらしい。
「台車なら私も押せそう」
「俺も押すでぷ!」
赤も元気よく手を上げる。
ガレオさんは満足そうに頷くと、ポケットから一本の古い鉄製の鍵を取り出した。
「それと悪いんだが、私はこれから少し用事があってな。港へ着けば船長が待ってるから、荷物を渡したらこの鍵も一緒に渡してくれ」
「鍵もですか?」
「ああ。船長に渡せば分かる」
差し出された鍵を受け取ると、見た目よりもずっしりと重かった。何の鍵なのか少し気になったけれど、船長に渡すだけなら私が中身を知る必要はないのかもしれない。
「分かりました」
なくさないよう鞄の内側へしまうと、ガレオさんはそれを確認してから頷いた。
「荷物は乱暴に扱わなければ大丈夫だ。港まで運んで船長へ渡せば仕事は終わりだよ。それじゃ、頼んだぞ」
「はい!」
ガレオさんは私たちへ仕事を任せると、そのまま用事を済ませるため倉庫を出ていった。
古びた扉が閉まり、足音が遠ざかっていく。
オラクルはすぐに十五個の荷物へ向き直った。
「よし。話は終わりだ。暗くなる前に片づけるぞ」
「いっぱい運ぶでぷ!」
赤が真っ先に木箱へ駆け寄り、緑も運ぶ荷物を確認し始める。黄色は台車にどの箱を載せれば効率がいいのか考えているらしく、大きさの違う荷物を順番に見比べていた。
私も鞄の中に預かった鍵が入っていることだけ確かめ、袖をまくった。
やることは難しくない。十五個の荷物を台車へ積み、港まで運ぶ。それを二、三回繰り返し、最後に船長へ荷物と鍵を渡せば終わりだ。
「私もやる!」
一番近くにあった小さめの木箱へ両手を掛ける。
今までなら、赤たちが先に動くのを見ていたかもしれない。でも今回は、私にもできる仕事だ。
少し力を入れて持ち上げると、予想していたより重かったものの、なんとか胸の高さまで抱えることができた。
「持てた!」
「落とすなよ」
「分かってる!」
オラクルに返しながら、私は木箱を台車まで運んだ。
ただの荷物運び。
そう思って選んだQUESTが、ようやく始まった。




