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フールの大冒険 ~聖なるマップを手に、異世界でまだ見ぬ両親を探します~  作者: ☆☆アダム☆☆


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第3話 はじめてのQUEST

「アデュー……」


聖なるマップに浮かんだ名前を読み上げると、赤、緑、黄の三匹が、私の手元を覗き込むように集まってきた。


地図には、私たちがいる海岸から森へ一本の道が伸び、そのずっと先に小さな印が浮かんでいる。そこに記された《アデュー》という場所が、お父さんとお母さんを探す旅で最初に目指す場所らしい。


「三人とも、アデューって知ってる?」


「知ってるでぷ!」


真っ先に答えたのは緑だった。小脇に抱えていた分厚い本を砂浜へ置くと、慣れた手つきでページをめくっていく。


「ここからなら森を抜けて、街道をずっと進んでいけば着くでぷ。人もたくさんいるから、パパとママのことを調べるなら、まずは人の集まる場所へ行くのがいいと思うでぷよ」


「本当に!? じゃあ、すぐ行こう!」


目的地が決まっただけで嬉しくなり、私は聖なるマップを畳んで立ち上がった。ところが一歩踏み出したところで、背後からじゃらじゃらと硬貨のぶつかる音が聞こえてくる。


「その前に、フールちゃんには覚えておかないといけないことがあるでぷ」


黄色だった。


黄色は大切そうに持っていた袋の口を開き、中から色の違う硬貨を何枚か取り出した。


「旅をするなら、ご飯にも宿にも道具にもお金が必要でぷ。この世界のお金は《ババ》っていって、文字では《B》って書くでぷよ」


「ババ……B……」


変わった名前だけれど、妙に覚えやすい。


黄色の手のひらには、赤銅色、銀色、金色の三種類の硬貨が並んでいた。それぞれ大きさも、表面に刻まれている模様も少しずつ違っている。


黄色が最初に摘まみ上げたのは、赤銅色の小さな硬貨だった。


「これが赤Bでぷ。一番よく使うお金で、ご飯を買ったり、ちょっとした物を買ったりするときに便利でぷ」


すると横から、赤が骨付き肉を抱えたまま身を乗り出してきた。


「フールちゃんがいた世界でいうと、おにぎり一個くらいでぷ!」


「なんで赤がお金の説明まで食べ物を基準にするの?」


「一番分かりやすいからでぷ!」


「赤にとってだけじゃない?」


緑が本を抱えたまま深く頷いているので、どうやら私の感想は間違っていないらしい。それでも、おにぎり一個分と言われれば確かに想像しやすかった。


続いて黄色が見せてくれた銀Bは、一枚で私の世界ならおよそ五千円ほど。そして最後に取り出した金Bは、なんと一枚で十万円ほどの価値があるという。


「じゅ、十万円!? 黄色、それをそんな普通に持ち歩いて大丈夫なの?」


「俺のお金だから大丈夫でぷ!」


黄色は嬉しそうに金Bを袋へ戻した。


この子、もしかすると相当なお金持ちなのではないだろうか。


さらに黄色によれば、この世界にはごく稀に、刻印などが普通の硬貨とは違う《エラーB》と呼ばれるものまで存在するらしい。黄色自身も本物を見たことはないそうだが、見つかればとんでもない価値になるという。


「そんなお金まであるんだ……」


少し面白いと思ったものの、今の私には珍しい硬貨を探している余裕なんてない。もっと大きな問題がある。


「でも私、その赤Bすら一枚も持ってないよ?」


念のため鞄を調べてみても、おばあちゃんが持たせてくれた旅用品と聖なるマップがあるだけで、この世界のお金は一枚も入っていなかった。


「お父さんとお母さんを探すのにも、ご飯を食べたり泊まったりするのにも、お金って必要なんだよね?」


「必要でぷ。だったら、俺のお金を使えばいいでぷ!」


黄色が金貨袋を高く掲げる。


本当に貸してくれるつもりなのだろう。それなら、少なくとも当分は困らない。


けれど私は少し考えてから、首を横に振った。


「ありがとう。でも、私も自分で稼ぐよ。これは私がお父さんとお母さんを探すために始めた旅だもん。みんなにはこれからいっぱい助けてもらうと思うけど、最初からお金まで全部出してもらうのは、なんか違う気がする」


もちろん、本当に困ったときには頼るかもしれない。それでも、自分でできることまで最初から誰かに任せたくはなかった。


黄色は意外そうに目を丸くしていたが、やがて嬉しそうに頷いた。


「だったら、お金を稼ぐ方法を教えるでぷ!」


この世界でお金を得る方法はいくつもあるらしい。魔物を倒して得た素材を売る者もいれば、街で仕事をする者もいる。なかでも旅人がよく利用するのが、《QUEST》と呼ばれる依頼だった。


荷物運び、採取、探し物、護衛、魔物討伐など内容はさまざまで、達成すれば難しさに応じた報酬を受け取れるという。


その説明を聞いた私は、アデューまでただ歩くだけではなく、道中で自分にもできるQUESTをこなしながら進むことにした。


◇


海岸を離れて森へ入り、街道沿いをしばらく歩いていると、屋根だけがついた小さな休憩所が見えてきた。


太い柱には何枚もの依頼書が貼られている。荷物運びに、迷子になった家畜の捜索。採取依頼もあれば、私にはまだ無理そうな魔物討伐まである。


「こういうところにもQUESTが貼られてるんだ」


興味津々で眺めていると、柱の端に、他とは明らかに雰囲気の違う紙が何枚も重ねて貼られていることに気づいた。


QUESTの依頼書ではない。


どの紙にも人物の顔が描かれている。


紙の一部は雨風で変色し、端が破れていた。それでも剥がされることなく、新しい紙がその上から何枚も貼り足されている。


そして、そのすべてに共通する文字があった。


《TIME》


「タイム……? これもQUESTなの?」


何気なく手を伸ばした私の腕を、緑が掴んだ。


「触らないほうがいいでぷ」


さっきまでとは明らかに声が違った。


赤は抱えていた骨付き肉を下ろし、黄色も金貨袋を鳴らすのをやめている。


「どうしたの?」


「それはQUESTじゃないでぷ。手配書でぷよ」


「手配書……」


改めて見れば、確かに一枚だけではなかった。描かれている顔もそれぞれ違うのに、《TIME》という名前だけはすべてに共通している。


「この人たち、そんなに悪い人なの?」


緑は少し迷ってから頷いた。


「有名でぷ。この世界のいろんな場所で事件を起こしてる集団で、本にも載ってるでぷよ。何を目的にしてるのか、俺たちみたいな普通のゴブリンには分からないでぷ」


赤も珍しく笑わず、手配書を睨むように見上げていた。


「もし会っても、戦おうなんて考えちゃ駄目でぷ。見つけたら逃げるでぷよ」


いつも明るい三匹が、そろってここまで警戒している。


そのことのほうが、紙に描かれた知らない顔よりも不気味だった。


「でも、手配書があるなら兵士さんたちが捕まえるんじゃないの?」


私が尋ねると、黄色が周囲を確かめるように見回してから、小さな声で教えてくれた。


「兵士だけじゃないでぷ。手配された人を追って暮らしてる《賞金稼ぎ》もいるでぷよ」


「賞金稼ぎ?」


「手配された人を捕まえたり、危険な仕事を引き受けたりして稼いでる人たちでぷ。強い賞金稼ぎになると、国をいくつも渡り歩いて危ない相手を追いかけることもあるらしいでぷ」


そんな仕事まであるのか。


私はもう一度、TIMEの手配書を見上げた。


この人たちを追う兵士がいる。


賞金稼ぎまでいる。


それなのに、古くなった手配書が剥がされるどころか、その上へ新しいものが重ねられている。


「……ずっと捕まってないの?」


三匹はすぐには答えなかった。


森を抜ける風が休憩所へ吹き込み、何枚もの手配書を揺らしていく。紙同士が擦れる乾いた音の中で、一枚の端がめくれ、その下から別の誰かの顔が一瞬だけ覗いた。


緑が、ぽつりと言った。


「だから、有名なんでぷ」


私はそれ以上聞かなかった。


この世界には、私がまだ知らない危険がある。


おばあちゃんが「想像しているより、ずっと危ない」と言っていた意味を、ほんの少しだけ理解した気がした。


黄色が念を押すように、「もしTIMEを見かけても、絶対についていっちゃ駄目でぷよ」と言う。


「大丈夫だよ。私、知らない人についていくほど子供じゃないもん」


すると、三匹がそろって私を見た。


「……なに?」


赤が申し訳なさそうに口を開く。


「フールちゃん、今日会ったばっかりの俺たちと、もう一緒に旅してるでぷ」


言い返そうとして、何も出てこなかった。


緑と黄色まで深く頷いている。


「み、みんなはいいの! それよりQUESTを選ぼう!」


恥ずかしくなり、私は逃げるように依頼書へ向き直った。


背後では三匹が楽しそうに笑っている。


私もすぐにTIMEのことを頭の隅へ追いやった。


今の私には関係のない人たちだ。


そう思っていた。


◇


魔物討伐の依頼書は、内容を最後まで読む前にそっと元へ戻した。


武器もないし、戦い方も知らない。旅を始めたその日に無茶をして死んだら、お父さんとお母さんを探すどころではない。


その隣にあった依頼書には、《薬草採取》と書かれていた。


森の街道付近に生えている薬草を十本集め、巡回してくる依頼人へ渡せば達成らしい。


「これなら私にもできそう!」


それが、私がこの世界で初めて受けたQUESTになった。


ところが森へ入ってみると、開始してすぐ重大な問題へぶつかった。


「……どれが薬草なの?」


見渡す限り、草だらけだった。


丸い葉もあれば、細長い葉もある。ぎざぎざしたもの、小さな花を咲かせているものまであって、私にはどれも似たような植物にしか見えない。


試しに一本抜いて緑へ見せると、「雑草でぷ」と即答された。


気を取り直して別の草を選んでも、それも雑草。三本目に手を伸ばしたところで、今度は緑が慌てて私の手首を掴んだ。


「それは触った手で食べ物を持たないほうがいいでぷ」


「そういう大事なことは先に教えてよ!」


赤と黄色が声を上げて笑ったので、私は頬を膨らませた。


「三人とも笑ってないで手伝ってよ!」


「QUESTを受けたのはフールちゃんでぷ」


正論を返されてしまった。


とはいえ、何も知らないまま探していたら日が暮れてしまう。そこで緑は、代わりに採ってしまわない程度に、薬草の特徴を教えてくれた。


葉の形、茎の色、生えやすい場所。


私は教えてもらった特徴を何度も頭の中で繰り返しながら、草むらを一つずつ調べていった。


何度か間違えたあと、木漏れ日の落ちる木の根元で、教わった特徴とよく似た草を見つけた。


今度はすぐに抜かず、葉を確認して、茎を見て、周囲の環境まで確かめる。


「これ……薬草じゃない?」


隣へしゃがみ込んだ緑が確認し、大きく頷いた。


「正解でぷ!」


「やった!」


たった一本なのに、思わず三匹と一緒になって喜んでしまった。


そこからは少しずつ見分けられるようになり、赤が匂いを頼りに生えていそうな場所を探し、緑が種類を確認し、黄色が集めた本数を数えてくれた。


気づけば私一人のQUESTだったはずなのに、四人全員が夢中になって森を歩き回っていた。


最後の一本を袋へ入れたころには、私の手も服もすっかり土で汚れていた。それでも、十本の薬草が入った袋は、今の私にはちょっとした宝物に見えた。


◇


夕方になり、街道を巡回してきた依頼人へ薬草を渡した。


一本ずつ状態を確認した依頼人が満足そうに頷き、報酬の赤Bを私の掌へ載せてくれる。


朝、赤が「おにぎり一個くらい」と説明してくれた、この世界ではありふれた硬貨。


黄色の袋に入っている金Bとは比べものにならない。


それでも私には、あの金色の硬貨よりずっと輝いて見えた。


「……これ、私が稼いだんだ」


何度も雑草を間違えながら薬草を探し、自分で見分けられるようになり、最後までQUESTをやり遂げて受け取ったお金だった。


黄色から同じ額をもらっていたら、きっとこんな気持ちにはならなかったと思う。


「初給料でぷ! おめでとうでぷ!」


三匹が自分のことのように喜んでくれる。


赤だけは私の掌にある硬貨を見ながら、「これでお肉を買えば――」と言いかけたので、最後まで聞く前に首を横に振った。


「買わないよ?」


「まだ最後まで言ってないでぷ!」


「絶対お肉って言おうとしたでしょ!」


「違うでぷ! お肉を買って四人で食べるって言おうとしたでぷ!」


「……それなら、ちょっとだけ考える」


「やったでぷ!」


赤が飛び跳ね、緑と黄色が笑う。


私も笑いながら、初めて稼いだ赤Bを鞄の小さな内ポケットへしまった。


たぶん、これからもっとたくさんのBを手にすることになる。


銀Bだって、いつかは金Bだって稼げるかもしれない。それでも、この一枚だけは簡単に使いたくないと思った。金額ではなく、私がこの世界で初めて自分の力で手に入れたお金だからだ。


「これは取っておく」


「使わないのでぷ?」


黄色が不思議そうに尋ねてくる。


「うん。初めて稼いだお金だから、なんとなく持っていたいの」


そう答えると、黄色は自分の金貨袋を見つめたあと、納得したように頷いた。


「それなら大事にするでぷ。お金には、使う以外の価値がつくこともあるでぷね」


「黄色が言うと、なんか説得力あるね」


「お金のことなら任せるでぷ!」


得意げに胸を張る黄色の横で、赤が「でもお肉は買ったほうがいいでぷ」とまだ諦めていなかったので、緑と一緒に笑ってしまった。


◇


日が沈む前に、私たちは街道から少し離れた安全そうな場所で休むことにした。


赤たちが慣れた手つきで焚き火の準備をしているあいだ、私は明日進む道を確かめようと聖なるマップを広げた。


アデューを示す印は変わっていない。


今日歩いた分だけ、最初にいた海岸から伸びる道が少し長くなっているようにも見える。


「明日はこの辺りまで行けるかな……」


指で道をなぞっていると、地図の端に小さな印が増えていることに気づいた。


「ん?」


朝にはなかった。


小さな葉の絵だった。


指先で触れると、その横へ文字が浮かび上がる。


《薬草》


「これ……今日採った薬草?」


どうして地図に薬草が載っているのだろう。


道を示すためなら、こんな小さな草まで記録する必要はないはずだ。


不思議に思いながら他の場所も調べてみると、今度は三つ並んだ小さな姿を見つけた。


赤い服を着て、骨付き肉を抱えているゴブリン。


緑の服を着て、本を持っているゴブリン。


黄色い服を着て、お金の袋を持っているゴブリン。


「……みんなだ!」


思わず声を上げると、焚き火の向こうから三匹が一斉に振り返った。


「どうしたのでぷ?」


「これ見て!」


三匹が集まってきたので、私は聖なるマップを地面へ広げた。


赤は自分の姿を見つけるなり、大きな目を輝かせた。


「俺でぷ! お肉もちゃんと描いてあるでぷ!」


「本もあるでぷね」


緑は自分の記録を興味深そうに覗き込み、黄色も金貨袋が描かれているのを確認して満足そうに頷いている。


「俺の大事なものまで分かってるでぷ。なかなか見る目のあるマップでぷね」


「黄色の大事なものって、やっぱりお金なんだ……」


私は苦笑しながら、もう一度地図を眺めた。


三匹だけではない。


今日立ち寄った休憩所らしき小さな印もある。受けたQUESTについても、ごく簡単な記録が残っていた。


どうやら聖なるマップは、目的地までの道を示すだけではないらしい。


私がこの世界で訪れた場所や、出会ったもの、実際に関わったものまで、少しずつ記録しているようだった。


「もしかして、この地図……私の旅を覚えてるのかな」


返事を期待したわけではない。


もちろん、聖なるマップは何も答えなかった。


けれど、今日一日の記録を眺めていると、本当にそんな気がしてくる。


試しに休憩所の印へ触れてみても、特に何も起こらない。


QUESTの記録も同じだった。


ところが、《薬草》へ触れた瞬間――その縁を囲むように、淡い光が一度だけ走った。


「……あれ?」


目を凝らす。


もう一度触れてみる。


今度は何も起こらない。


「どうしたのでぷ?」


緑に尋ねられ、私は首を傾げた。


「今、薬草だけ光ったような気がしたの」


三匹も覗き込むが、薬草の絵は普通の記録へ戻っている。


見間違いだったのかな。


そう思いながら薬草の絵を見ていると、今日の出来事が次々に頭へ浮かんできた。


最初は薬草と雑草の違いすら分からなかったこと。


危ない草へ触りかけて、緑に止めてもらったこと。


赤と黄色に笑われて、悔しくなったこと。


初めて自分だけで本物の薬草を見つけた瞬間、三匹が私以上に喜んでくれたこと。


そして十本を集めきり、この世界で初めて自分の力で赤Bを稼いだこと。


ただの薬草なのに、もう私にとっては「ただの草」ではなくなっていた。


「……これを見ると、今日のこと全部思い出すね」


私がそう呟くと、今度は三匹の記録が淡く光った。


赤、緑、黄。


三つの記録をつなぐように柔らかな光が走り、すぐに消えていく。


「今のはみんなも見たよね!?」


「見たでぷ!」


赤が興奮して地図へ顔を近づける。


「俺たち、光ったでぷ!」


「でも、どうしてでぷ?」


緑が本を開きかけたものの、すぐに閉じた。


「……分からないでぷ。俺の本にも、こんな地図のことは載ってないでぷよ」


私にも分からない。


今日関わったものは、他にも記録されている。


それなのに、《薬草》と三匹だけが違う反応をした。


何が違うのだろう。


私は赤、緑、黄の小さな絵を見つめた。


考えてみれば、三匹は私がこの世界で初めて出会った仲間だ。


ほんの少し前までは知らない相手だったのに、もう一緒に笑い、一緒にQUESTをして、これからアデューまで旅をしようとしている。


薬草だって同じだった。


世界中にいくらでも生えているものかもしれない。


けれど私にとっては、初めて自分で仕事をして、初めてお金を稼いだ日の薬草だ。


「……まあ、いっか」


今考えても答えは出そうにない。


私は聖なるマップを丁寧に畳み、鞄へ戻した。


「この地図が覚えててくれるなら、これからいっぱい増えるかもしれないね」


「俺のお肉も記録してほしいでぷ!」


「赤が食べたお肉を全部記録してたら、地図がお肉だらけになるよ」


「それは最高の地図でぷ!」


「絶対嫌!」


三匹の笑い声が、暗くなり始めた森へ広がっていく。


少し離れた街道には、昼間に見た休憩所がまだ小さく見えていた。


そこには今も、TIMEの手配書が貼られている。


風が吹くたび、何枚もの紙が重なり合って揺れていた。


あれほど警戒していた三匹も、今はもう楽しそうに明日の話をしている。私もTIMEという名前を忘れたわけではなかったけれど、わざわざ危険な人たちへ近づくつもりなんてなかった。


私の目的は、お父さんとお母さんを探すことなのだから。


そのころ、私たちから遠く離れた街道を、一人の旅人が歩いていた。


腰には使い込まれた武器を提げ、背中には長旅で傷んだ外套をまとっている。


休憩所の前まで来ると、その人物は足を止めた。


QUESTには目もくれない。


視線が向かったのは、何枚も重ねて貼られた《TIME》の手配書だった。


そのうちの一枚を剥がし、しばらく眺めたあと、旅人は紙を折って懐へしまう。


「……まだ、この辺りじゃないか」


誰に聞かせるでもなく呟くと、再び歩き出した。


向かった先は、私たちが目指すアデューとは別の方角だった。


その人が兵士なのか、ただの旅人なのか、このときの私は知る由もない。


ただ、この世界にはすでにTIMEを追う者たちがいる。


後になって私は、そういう人たちが《賞金稼ぎ》と呼ばれていることを、もっと深く知ることになる。


◇


翌朝。


鳥の声で目を覚ますと、赤はすでに朝ご飯の準備をしていて、緑は本を読み、黄色は朝から金貨を数えていた。


昨日会ったばかりなのに、この光景が少しだけ当たり前に思えるから不思議だ。


私は鞄の内ポケットへ指を入れ、昨日稼いだ赤Bがちゃんと残っていることを確かめた。


たった一枚。


それでも、その硬貨に触れると自然と嬉しくなる。


「今日もQUESTしながら進もう!」


「もちろんでぷ!」


「次はもっと稼ぐでぷ!」


「そして今度こそお肉を買うでぷ!」


「赤は自分で稼いで!」


笑いながら立ち上がり、私は聖なるマップを開いた。


目的地は変わらない。


《アデュー》。


そこへ続く道の途中には、まだ何が待っているのか分からない。


昨日の朝まで、私は本の世界について何も知らなかった。


お金の名前すら知らず、QUESTという仕組みも知らず、TIMEも賞金稼ぎも知らなかった。


それでも今は、三匹の仲間がいる。


自分で稼いだ最初の赤Bもある。


そして聖なるマップには、昨日まで存在しなかった私たちの旅の記録が残っている。


私は地図を畳み、三匹へ笑いかけた。


「行こう。アデューへ!」


三匹の「でぷ!」という元気な返事を聞きながら、私は歩き出した。


お父さんとお母さんへ続いているかもしれない道を、今度は一人ではなく、最初の仲間たちと一緒に。


鞄の中では、閉じたはずの聖なるマップに記された《薬草》と三匹の小さな姿が、誰にも気づかれないほど淡い光を残していた。

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