第29話 私にできること
これからの方針が決まると、私たちはまず赤の新しい武器を買うため、アデューの商店が集まる地区へ戻った。
とはいえ剣を買うにもお金が必要なので、最初に旅の途中で集めた魔物の素材や、今後使う予定のない品物を売ることにした。荷物を減らせるうえ、そのお金を赤の武器やこれからの旅費に回せる。
最初に入ったのは、魔物素材を扱う店だった。
ウインドホークから回収した青い羽根や爪などを受付台へ並べると、店主は一つずつ状態を確認して値段を提示した。私はそれで売るのだと思っていたのだけれど、オラクルは品物を袋へ戻し、黄色も当然のように店を出ようとする。
「え? 売らないの?」
「まだ一軒目だぞ。ほかならもっと高く買うかもしれねえだろ」
「一軒だけで決めるのは駄目でぷ。比較するでぷよ」
言っていることは分かるので、私たちは二人について二軒目へ向かった。
ところが、そこでも値段を聞いただけで売らない。三軒目でも売らず、四軒目へ向かい、それが五軒目になったころには、私は何軒回ったのか分からなくなっていた。
「……まだ?」
「もうちょいだ。比較できる店は多いほうがいい」
オラクルは平然としており、黄色も疲れた様子すら見せず、それぞれの店で提示された金額を覚えているらしい。
「二軒目は羽根が高かったでぷ。でも爪は四軒目のほうが高いでぷね。まとめて売るなら三軒目も悪くないでぷ」
「よく全部覚えてるね……」
最初は感心していた私も、さすがに疲れてきた。赤はとっくに「お腹空いたでぷ」と言い始め、緑も本を抱えたまま「素材を売るだけでこんなに歩くとは思わなかったでぷ」とうんざりしている。
少し先では、オラクルと黄色が次の店について真剣に相談していた。
この二人は、お金が絡むと本当に疲れないらしい。
結局、いくつもの店を回った末、素材ごとに条件のいい店へ分けて売ることになった。全部を最初の店で売るよりかなり高くなったらしく、黄色は受け取ったお金を数えながら満足そうに頷いている。
「やっぱり比較は大事でぷ」
「勉強になっただろ?」
オラクルまで得意げだった。
「勉強にはなったけど……これ、毎回やるの?」
私が尋ねると、二人は揃ってこちらを見た。
「当たり前だろ」
「当たり前でぷ」
「……聞かなきゃよかった」
◇
素材を売り終え、今度は武器屋が集まる通りへ向かって歩いていたとき、オラクルが煙草を咥えながら突然私を見た。
「そういやフール、お前は何が得意なんだ?」
「え?」
あまりに急だったので、すぐには質問の意味が分からなかった。
「何がって?」
「戦うときだよ。赤は剣、緑は魔法、黄色は道具を使ったり周りを見たりする。俺は素早く動いて相手の隙を突いたり、使えそうなものを利用したりするのが得意だ。で、お前は何ができる?」
「私……?」
言われて初めて、これまでの戦いを思い返した。
魔物に襲われれば赤が前へ出てくれた。緑は本から魔法を使い、黄色は周囲を見ながら助けてくれる。オラクルが仲間になってからは、危ない瞬間に腕を引かれて助けられたことまである。
それに比べて私はどうだっただろう。
剣をまともに習ったことはなく、魔法の使い方も知らない。黄色のように道具を使う経験もなければ、オラクルのように素早く状況を判断できるわけでもない。そもそも旅へ出るまで戦った経験自体がほとんどなく、今まで無事に進んでこられたのは、みんなが私を守ってくれたからだった。
そう考えると、急に答えが分からなくなった。
「……私、何が得意なんだろう」
自然と歩く速度が落ちた。
両親を探したくて旅へ出たのは私なのに、危険なことが起きるたび誰かに助けてもらっている。力があるわけでも、経験があるわけでもなく、自分に何が向いているのかさえ分からなかった。
「今まで、みんなに守ってもらってただけだったかも」
口にすると、少しだけ情けなくなった。
けれど、私が考え込むより早く赤が横へ並んだ。
「じゃあ、俺が剣を教えるでぷ! フールちゃんを弟子にするでぷよ!」
「赤が?」
「任せるでぷ!」
私は思わず赤の腰を見た。そこには、まだ新しい剣すらない。
「自分の剣なくなったばっかりなのに?」
「これから買うでぷ!」
赤が胸を張ると、今度は緑が反対側から身を乗り出した。
「剣より魔法のほうがいいでぷよ。本があれば覚えられるでぷ。俺が教えるでぷ!」
「緑だって、まだまだ弱いって自分で言ってたじゃん」
「だから一緒に強くなるでぷ!」
すると黄色まで黙っていられなくなったらしく、「アイテムを使うのもいいでぷよ」と加わった。
「力がなくても、相手が油断してるところで煙玉を使ったり、周りにある物を利用したりすれば戦えるでぷ。俺が教えるでぷよ」
「黄色も、これから覚えるところじゃなかった?」
「一緒に覚えればいいでぷ」
「みんな自分が練習中じゃん!」
三匹は顔を見合わせたものの、それを問題だとは思っていないらしい。
赤は剣、緑は魔法、黄色は道具。それぞれ自分が選んだものを自信満々に私へ勧めてくるので、さっきまで少し落ち込んでいたのが馬鹿らしくなってきた。
オラクルは少し離れたところから、その様子を面白そうに眺めていた。
「人気者だな」
「笑ってないで、オラクルは何かないの?」
「俺みたいになりたいなら、まず人の財布を――」
「それは絶対やらない」
「最後まで聞けよ」
「聞かなくても分かるよ」
私は三匹を見ながら、もう一度考えた。
剣も魔法も道具も、今の私にはほとんど経験がない。だったら、今ここで無理に一つへ決める必要もないのかもしれない。旅を続けながら実際に試してみて、その中から自分にできることを探せばいい。
「……ひとまず考える」
赤が首を傾げた。
「弟子にならないでぷ?」
「ならないとは言ってないよ。剣も魔法も道具も、まだちゃんとやったことがないから、自分に何が向いてるのか分からないの。だから今は保留」
「保留でぷか……」
赤だけでなく、緑と黄色まで少し残念そうな顔をする。
「なんで三匹とも、そんなに私を弟子にしたいの?」
誰も答えなかった。
◇
それから私たちは武器屋を何軒か回り、赤が使う新しい剣を探した。
素材を売ったときと同じ勢いでオラクルと黄色が店を回ろうとしたので、今度は私と緑が早めに止めた。赤自身にも何本か持たせ、実際に構えたり軽く振ったりしながら、重さや長さを確かめていく。
店には高価な剣もたくさん並んでいた。宝石の付いたものや特殊な素材を使ったものまであったけれど、今の赤に必要なのは飾っておくための武器ではない。
旅の途中で何度も使えて、赤が無理なく振ることができ、壊れたり傷んだりしても修理しやすい剣。
最終的に選んだのは、派手な装飾のない一本だった。赤が扱うにはちょうどいい長さで、重すぎず、刃もしっかりしている。値段もオラクルと黄色が二人揃って「悪くない」と認めたので、かなりお値打ちらしい。
「どう?」
私が尋ねると、赤は新しい剣を握り、周囲に人がいないのを確認してから軽く振ってみた。
「使いやすいでぷ!」
「じゃあ、それにしよう」
「お肉も買うでぷ!」
「それはあと」
「忘れないでぷよ」
ついさっきまで剣を選んでいたのに、もう頭の中は骨付き肉へ戻っている。
それでも、これでひとまず赤の武器の問題は解決した。
店を出ると、オラクルが煙草を咥えながら大通りの先へ目を向けた。
「次はQUESTだな。金も必要だし、人と関われば情報も入る。お前の親につながる手掛かりだって、どこで拾うか分からねえからな」
私は頷いた。
QUESTをすれば、いろいろな人と出会う。その中に両親を知っている人がいるかもしれないし、直接知らなくても、何か別の手掛かりにつながる話を聞けるかもしれない。
顔も名前も居場所も分からない両親を、どうやって探せばいいのか。
その答えは、まだ見つかっていない。
そして今日、もう一つ分からないことが増えた。
私は、何ができるんだろう。
これまで危険なことが起きるたび、赤たちが守ってくれた。それが嫌なわけではないし、みんながいてくれたからここまで来られたことも分かっている。
でも、この旅は私がお父さんとお母さんを探すために始めた旅だ。
いつまでも守ってもらうだけではなく、いつかは私も誰かを助けられるようになりたい。
剣なのか、魔法なのか、道具なのか。それとも、まだ知らない何かなのか。
今は分からない。
「フールちゃん、行くでぷよ!」
少し先から赤に呼ばれ、私は顔を上げた。
新しい剣を腰へ下げた赤の隣では、緑が本を抱え、黄色とオラクルが次に受けるQUESTの報酬について早くも言い合っている。
私は少しだけ笑い、四人のところへ駆け寄った。
「待って!」
両親を探す方法も分からない。
自分に何が向いているのかも分からない。
考えてみれば、分からないことばかりだ。
それでも、立ち止まっていて答えが見つかるわけではない。
私は歩きながら、鞄の上から《聖なるマップ》へ触れた。
アデューへ来たとき、この地図は一枚のカードを示した。その意味すら最初は分からなかったのに、追いかけた先で《真実のカード》を見つけ、たくさんの人と出会った。
だったら、次も同じなのかもしれない。
今は意味が分からなくても、進んだ先で何かがつながる。
お父さんとお母さんにつながる、最初の手掛かり。
そして、私自身にできること。
次のQUESTで何が見つかるのかは、まだ誰にも分からない。
私は前を歩く仲間たちを追いながら、賑わうアデューの大通りを進んだ。
――次に見つけるものが、ただの報酬だけではないことを願いながら。




