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フールの大冒険 ~聖なるマップを手に、異世界でまだ見ぬ両親を探します~  作者: ☆☆アダム☆☆


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第20話 フードの男の正体

「――君たち、そこで何をしている?」


部屋の奥から聞こえた声に、私たち四人は揃って身体を固くした。


逃げ込むことだけで精一杯で、中に誰かいるか確認する余裕などなかった。廊下へ戻れば、ついさっき通り過ぎた兵士たちに見つかるかもしれない。それでも、この部屋の人に騒がれれば結果は同じだった。


大きな窓の前に立っていた男は、机の上に広げていた書類から顔を上げ、明らかに警戒した目で私たちを見ている。


「答えろ。どうやってこの部屋に入った?」


誰もすぐには答えられなかった。


男はその沈黙を怪しいと判断したらしく、机の脇に置かれていた小さな呼び鈴へ手を伸ばした。


「待ってください!」


私が慌てて声を上げる。


「侵入者なら守衛に話してもらう」


「違うんです! いや、勝手に入ったから違わなくもないんですけど……!」


自分で言っていて余計に怪しくなった。


男の指が呼び鈴へ触れようとする。


ところが、その直前だった。


男の視線が私の顔で止まった。


「……ん?」


伸ばしていた手も止まる。


私は何を見られているのか分からず、赤たちと顔を見合わせた。


男は少し眉を寄せ、改めて私を頭から足元まで見た。


「子供……?」


「十歳です」


「十歳?」


男の警戒が完全に消えたわけではない。でも、少なくとも今すぐ守衛を呼ぶつもりはなくなったらしく、呼び鈴から手を離した。


「十歳の子供が、なぜ王宮の中にいる」


「それには理由があって……」


説明しようとしたところで、今度は男の視線が赤へ移った。


赤は剣を持っているため、少しでも怪しまれないよう両手を身体の横へ下ろしている。


男はしばらく赤を見つめたあと、何かを思い出したように目を細めた。


「その赤いゴブリン……街で見かけたな」


「え?」


赤が首を傾げる。


私も男をよく見た。


どこかで会った?


いや、直接話した覚えはない。


でも、その声と立ち姿には何となく覚えがある。


男が窓際からこちらへ歩いてくる。


上質な服。


細かな刺繍が施された上着に、胸元にはカードを模した飾り。腰には装飾の入った剣を下げている。部屋そのものも広く、大きな机や本棚だけでなく、壁には額装された珍しそうなカードが何枚も飾られていた。


どう考えても、普通の王宮職員の部屋ではない。


そして近くまで来た男の顔を見た瞬間、昨日の光景が頭の中でつながった。


「……あっ!」


私は思わず声を上げた。


「昨日の人!」


男が僅かに眉を動かす。


赤たちが私を見る。


「昨日って、誰でぷ?」


「露店のお姉さんからカードを買ったあと、向こうからこっちを見てた人! フードを被ってた人だよ!」


さらに今日。


オラクルが連行された直後、別の入口で何かを守衛へ見せ、王宮へ入っていった人物。


「王宮に入っていったのも、あなたですよね?」


男は否定しなかった。


それだけで十分だった。


「やっぱり……」


フードを深く被っていたから顔は見えなかった。でも、立ち姿は同じだった。


赤もようやく分かったらしく、男を見上げる。


「フードの人でぷ?」


「そうだよ。たぶん」


「たぶんって言うな」


男が呆れたように返した。


それでも守衛を呼ぶ様子はない。


むしろ今度は、私たちのほうを調べるように見ている。


「私を見ていたことに気づいていたのか」


「気づいてました。でも一回目は、赤に呼ばれてちょっと目を離したらいなくなってて……」


「そうか」


それ以上は説明しなかった。


私は少し気になったけれど、今はオラクルのほうが大事だった。


男も同じように、今度は私たちがここにいる理由へ話を戻した。


「それで、まだ答えを聞いていない。王宮は許可のない者が自由に入れる場所ではない。君たちはどうやってここまで来た?」


四人で顔を見合わせた。


《透明化》のカードを使って勝手に入ったなんて言えば、やっぱり守衛を呼ばれるかもしれない。


でも嘘をついて、あとでばれるのもまずい。


「……カードを使いました」


私は正直に答えた。


「カード?」


「姿が見えなくなるカードです。二回しか使えなくて、もう全部使っちゃいました」


男の表情が僅かに変わった。


「《透明化》か」


「知ってるんですか?」


「アデューで扱われているカードなら、ある程度はな」


やっぱり普通の人ではない。


男は腕を組んだ。


「そのカードを二回とも使い切ってまで、王宮へ忍び込んだ理由は?」


私は迷わず答えた。


「オラクルを助けるためです」


「オラクル?」


「一緒に旅してる仲間です。さっき正門で捕まって、王宮の中へ連れていかれました」


男は少し考える。


「何をした?」


聞かれると、ものすごく説明しづらかった。


私は一度息を吸った。


「守衛さんに……お金を渡そうとしました」


「…………」


男が黙った。


「王宮へ入れてもらえなかったから、オラクルが『任せろ』って守衛さんと話し始めて、それで銀Bを渡そうとして……」


「買収を試みたのか?」


「たぶん……」


「たぶんじゃないでぷ。完全に渡そうとしてたでぷ」


緑が訂正した。


黄色も頷く。


「銀Bを出してたでぷ」


「黄色まで……」


味方が誰も庇ってくれない。


男はしばらく黙って私たちを見ていた。


私は少しくらい同情してもらえるかと思ったけれど、返ってきた言葉は非常に冷静だった。


「それは捕まって当然だ」


「やっぱりそうですよね……」


反論できない。


赤まで「俺もそう思うでぷ」と頷いた。


「じゃあ、助けてもらうのは無理ですか?」


私が尋ねると、男はすぐには答えなかった。


代わりに、私たち四人を順番に見る。


十歳の私。


剣を持った赤。


本を抱えた緑。


荷物を大切そうに抱えている黄色。


そして、使い切った《透明化》のカードまで持って王宮へ忍び込んできた四人組。


自分でも、かなり変な集団だと思う。


「仲間が捕まったから、四人で王宮へ忍び込んだのか」


「はい」


「捕まる可能性は考えなかった?」


「考えました。だから怖かったです。でも、置いていくのはもっと嫌だったから」


男は何も言わなかった。


ただ、さっきまでの侵入者を見る目とは少し違う気がした。


そのとき赤が、男の服をじっと見ていることに気づいた。


「どうしたの?」


「この人、すごく偉そうでぷ」


「赤、それ本人の前で言っちゃ駄目!」


「服がすごいでぷよ。剣もキラキラしてるでぷ」


言われてみれば、確かにそうだった。


王宮の中に自分の部屋があり、守衛へ何かを見せるだけで別入口から入れる。さらにアデューのカードについても詳しい。


私は恐る恐る尋ねた。


「もしかして……王宮の偉い人ですか?」


男は少しだけ笑った。


「今さら気づいたのか」


「だって昨日はフード被ってたから……」


「街を歩くたび、この格好では面倒だからな」


男は机の横へ移動すると、そこに置かれていた一枚の布を持ち上げた。


昨日見た、あのフードだった。


間違いない。


男はそれを椅子へ戻し、改めて私たちへ向き直った。


「まだ名乗っていなかったな」


さっきまでとは少し違う、王宮の人間らしい落ち着いた声だった。


「私は、この国――アデューの王子だ」


私は目を瞬いた。


赤も、緑も、黄色も黙っている。


そして数秒遅れて、四人の声が部屋の中で重なった。


「「「「王子!?」」」」

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