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フールの大冒険 ~聖なるマップを手に、異世界でまだ見ぬ両親を探します~  作者: ☆☆アダム☆☆


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第19話 二回だけの透明化

作戦を決めたからといって、すぐ王宮へ戻ることはしなかった。


昼間は正門も周辺の通りも人通りが多く、王宮へ出入りする者も頻繁に確認されている。何より、オラクルが守衛を買収しようとして連行されてから、まだそれほど時間が経っていない。あの騒ぎの直後に私たち四人が正門の周囲をうろつけば、姿を消す前に怪しまれる可能性が高かった。


そこで私たちは、夕方の守衛交代を狙うことにした。


王宮から少し離れた場所で時間を潰し、日が傾き始めてから正門の見える通りへ戻る。建物の陰から様子を窺っていると、昼間から立っていた守衛たちのところへ、別の兵士たちが王宮内から歩いてきた。


「来たでぷ」


緑が声を潜める。


交代する兵士同士が話し始め、正門付近が一時的に慌ただしくなった。勤務を終えた者が王宮へ戻り、代わりの者が配置につこうとしている。


私は《透明化》のカードを取り出した。


「今なら、戻る兵士についていけるかも」


赤、緑、黄色が頷く。


緊張で手が少し汗ばんでいた。


このカードを使えるのは二回だけ。一度使えば、もう半分を失うことになる。


それでも、ここまで来て迷っている時間はなかった。


「みんな、離れないでね。姿が見えなくなったら、私たち同士も見失うかもしれないから」


「服を掴んでおくでぷ」


赤が私の袖を掴み、緑が赤の服、黄色が緑の服を持った。


「行くよ」


私は《透明化》のカードへ触れた。


カードの表面から淡い光が広がり、最初に私の指先が透け始める。それは腕から身体へ広がり、赤、緑、黄色にも次々と伝わっていった。


自分の身体を見下ろす。


そこにいるはずなのに、見えない。


地面には四人分の足だけがあるような感覚すらなく、赤が袖を握っている感触だけが残っていた。


「本当に消えた……」


「フールちゃん、声は聞こえるでぷ」


「喋るのもできるだけやめよう。姿が見えなくても声でばれちゃう」


小さく確認し合い、私たちは正門へ向かった。


ちょうど勤務を終えた兵士が二人、門を通って王宮へ戻ろうとしている。その少し後ろへ入り、足音を合わせるようにして進んだ。


守衛のすぐ横を通る。


距離は手を伸ばせば触れられそうなほど近い。


私は息まで小さくした。


守衛はこちらを見ない。


当然だ。


見えていない。


それでも、横を通り過ぎる数秒が恐ろしく長く感じられた。


やがて巨大な門を抜け、私たちは王宮の敷地へ入った。


◇


外から見ても大きかった王宮は、中へ入るとさらに広く感じられた。


正門の先には広大な中庭があり、中央にはカードを模した石像を囲む噴水が置かれている。その奥に白い宮殿がそびえ、左右にも別棟や塔が伸びていた。


勤務を終えた兵士たちは正面の建物へ向かっていく。


私たちも途中までは後ろをついていったものの、牢屋へ連れていかれたオラクルが正面の建物にいるとは限らない。


宮殿内へ入ったところで、さらに困った。


廊下が何本も分かれている。


天井は高く、壁にはカードを題材にした絵や装飾が並び、窓には外から見たものと同じ色鮮やかなステンドグラスがはめ込まれていた。床まで磨き上げられていて、歩くたび自分たちの足音が響きそうで怖くなる。


そして、どこにも《牢屋》とは書かれていない。


当然だけれど。


私たちは人の少ない廊下へ入り、姿を消したまま王宮内を探し始めた。


最初の階段を下りてみる。


倉庫だった。


別の廊下の奥へ行ってみる。


使用人たちが働く部屋が並んでいる。


地下へ続きそうな扉を見つけて近づいたところ、兵士が二人出てきたので慌てて壁際へ避ける。


兵士がすぐ目の前を通り過ぎた。


姿は見えていないはずなのに、心臓が激しく鳴った。


「……広すぎるでぷ」


兵士が十分離れてから、黄色が耳元で囁いた。


私も同じことを思っていた。


王宮へ入ることばかり考えていて、中へ入ったあとどうやって牢屋を見つけるのかを甘く考えていた。


オラクルが連行された場所を知っている人に尋ねることもできない。


姿を消しているのに、兵士へ「牢屋はどこですか」と聞くわけにもいかない。


「時間、大丈夫でぷ?」


緑に聞かれ、私はカードを確認した。


表面の光がかなり弱くなっている。


嫌な予感がした。


「もうそんなに経った?」


王宮へ入ってから、何本もの廊下を歩いた。


階段も二度使った。


時間を気にしていたつもりだったのに、焦っているせいで感覚が分からなくなっていた。


そのとき、私の手が薄く見え始めた。


「まずい……!」


赤の輪郭も、ぼんやり浮かんでくる。


一回目が切れる。


廊下の先から兵士の話し声が聞こえていた。


隠れられる部屋も近くにはない。


「もう一回使う!」


迷っている時間はなかった。


私は《透明化》のカードへ触れた。


二度目の光が広がり、浮かびかけていた私たちの身体が再び景色へ溶けていく。


直後、廊下の角から三人の兵士が現れた。


間に合った。


私たちは壁際へ身体を寄せ、兵士たちが横を通り過ぎるのを待った。


一人が、ほんの少しこちらへ顔を向けた。


私は息を止める。


兵士は何も言わず、そのまま仲間と歩き去っていった。


完全に姿が見えなくなったのを確認してから、ようやく息を吐く。


でも安心はできなかった。


私は手に持ったカードを見た。


二回目。


これで最後だ。


「もう使えないね……」


「今のうちに絶対見つけるでぷ」


赤が声を潜めて答えた。


そうするしかなかった。


◇


そこからは、さっきより急いだ。


ただし走ることはできない。姿が見えなくても足音は消えないし、誰かへぶつかればすぐ異変に気づかれる。


私たちは廊下の案内や兵士の動きを見ながら、牢屋がありそうな場所を探した。


一階。


地下へ続く階段。


兵士の詰所らしい部屋。


その周辺を順番に調べていく。


それでも見つからない。


一度、鉄格子らしきものが見えたので急いで近づいたけれど、そこは武器を保管する場所だった。


「オラクル、どこに連れていかれたのでぷ……」


赤の声にも焦りが混じり始めていた。


私も不安だった。


三十分がどのくらい残っているのか分からない。


二回目を使った直後から時間を数えていればよかったのに、兵士を避け、廊下を覚え、牢屋を探すだけで頭がいっぱいになっている。


緑が途中で見つけた案内板を確認した。


「地下にまだ別の区画があるみたいでぷ。でも、ここからだと反対側でぷよ」


「行こう」


「間に合うでぷ?」


「分からない。でも行くしかないよ」


私たちは方向を変えた。


長い廊下を進み、角を曲がる。


そこで私は、自分の腕が見えていることに気づいた。


「……え?」


最初は光の加減かと思った。


違う。


指が見える。


腕も見える。


赤の身体も少しずつ輪郭を取り戻している。


「切れる!」


黄色が慌てた声を上げた。


「カードは!?」


「もう二回使った!」


三匹が一瞬黙った。


《透明化》は、これで終わりだった。


身体が急速に元へ戻っていく。


しかも最悪なことに、今いるのは隠れる場所のない長い廊下だった。


遠くから足音がする。


複数。


こちらへ近づいている。


「どうするでぷ!?」


「隠れる場所探して!」


四人で周囲を見る。


廊下の左側に扉が三つ。


一つ目には札が掛かっている。


二つ目は鍵が掛かっていた。


三つ目。


私は取っ手を掴んだ。


動いた。


「ここ!」


「中に人がいたらどうするでぷ!?」


「廊下で兵士に見つかるよりいい!」


扉を開け、四人で中へ滑り込む。


黄色が最後に入り、私は音を立てないよう急いで扉を閉めた。


直後、廊下を兵士たちの足音が通り過ぎていく。


間一髪だった。


私は扉へ背中を預けたまま、胸を押さえた。


「危なかった……」


「もうカード使えないでぷね」


「うん……」


二回とも使い切った。


これからは姿を隠せない。


しかも、オラクルの居場所すらまだ分かっていない。


これからどうしよう。


そう考えながら、私はようやく隠れた部屋の中を見た。


広い部屋だった。


大きな机。


本棚。


壁には何枚ものカードが額へ入れて飾られている。


どう見ても、物置ではない。


「……ここ、誰かの部屋じゃない?」


私が小声で言うと、緑の顔が引きつった。


「まずいところに入ったかもしれないでぷ」


そのとき、部屋の奥から声がした。


「――君たち、そこで何をしている?」


身体が固まった。


ゆっくり振り返る。


部屋の奥。


大きな窓のそばに、一人の人物が立っていた。


無人だと思って飛び込んだ部屋には――最初から、人がいた。

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