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フールの大冒険 ~聖なるマップを手に、異世界でまだ見ぬ両親を探します~  作者: ☆☆アダム☆☆


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193/294

第193話 最深部のティアラ

地下第三階へ続く階段は、これまで通ってきた二つの階層よりも長かった。


左右には青白く光る小さな花のようなものが点々と生えており、その淡い光だけで足元を見ることができる。近くで確認すると花弁に見えた部分まで薄い氷でできていて、中心に閉じ込められた小さな光が一定の間隔で明滅していた。


「本物の花じゃないんだ」


私は屈みそうになり、途中でやめた。


触らない。


地下第一階から何度も繰り返してきたことだ。


メロウも気になっているらしく、鳥の顔付きの杖を握りながら横目で見ている。


「調べたい?」


「……帰りにな」


「すごい。我慢した」


「お前さんはわしを何だと思っとるんじゃ!」


声が階段の奥へ反響した。


地下第二階で音を奪われたあとだから、自分たちの声が聞こえることが少し嬉しい。でも、響いた声が何度も下から返ってくると、そこに誰かがいるようにも聞こえた。


メリーは私の肩から階段の先を見つめたままだった。


「さっき言ってたの、まだ感じる?」


『うん』


いつもの元気な声より少し小さい。


『下にいる。動いてる感じはしないけど、いなくなってない』


「大きい?」


『分かんない。感じるのは小さい。でも……冷たいのは大きい』


意味は完全には分からなかった。


小さな何かがいる。


なのに、そこから感じる冷たさだけは広い。


昨日、大教会から盗まれた保管品が異常を起こしたときとも違うらしい。


「嫌な感じは?」


オラクルが尋ねた。


メリーは少し考えた。


『怖い。でも、昨日の箱みたいな怖さじゃない』


「なら、それ以上は近づいてから判断だな」


私たちは速度を落とした。


先頭はロロット。すぐ後ろでリリィが階段と壁を確認し、私はメリーと中央を歩く。フラン、メロウ、オラクルも離れすぎない距離で続いていた。


地下第二階で使った縄も、まだ外していない。


もう音は聞こえるし、氷壁に仲間の姿が何重にも映ることもなくなった。それでも、外す必要があると判断できるまでは残しておくことにした。


「前、明るくなってる」


フランが言った。


階段の終わりが近い。


青白い花の数が少しずつ増え、その先からもっと強い光が差し込んでいた。


ロロットが最後の数段を下り、そこで止まった。


「どうしたの?」


返事がない。


でも地下第二階とは違う。


聞こえていないのではなく、何かを見ている。


リリィもロロットの横まで進み、同じように足を止めた。


私も続いた。


そして、息を呑んだ。


「……すごい」


階段の先には、巨大な円形の空間が広がっていた。


天井は丸く湾曲し、巨大な氷のドームのようになっている。壁から床まで透明度の高い青い氷で覆われ、その内部を細い白銀の光が何本も走っていた。


地下なのに暗くない。


むしろ、これまで通ってきたどの場所より明るかった。


中央には円形の足場がある。


そこだけ床が一段高くなり、周囲には細い溝が何重にも刻まれていた。雪の結晶にも見えるし、大きな魔法陣にも見える。


そして、その中心。


氷で作られた台座の上に――それはあった。


「ティアラ……?」


誰かに聞いたわけではなかった。


透き通るような白銀の冠。


細い氷を編み上げたような形をしているのに、溶けたり欠けたりした様子はない。正面には大きな青い結晶が一つ嵌め込まれ、その周囲を小さな結晶が雪の結晶のように取り囲んでいた。


台座から離れているのに、冷気が頬へ届く。


メロウが一歩出そうとして、自分で止まった。


「……あれが《氷結のティアラ》かもしれん」


「分かるの?」


「グライツで見つけた古い記録にあった意匠と似とる。断定はまだできんが、少なくとも普通の装飾品ではなさそうじゃ」


胸が高鳴った。


火山の奥で溶岩の川に阻まれてから、ずっと探してきた。


あの熱を越えられるほど強い氷の力。


その手掛かりを求めてグライツで記録を調べ、スノーリアまで来た。


《聖なる白銀の鍵》を手に入れ、地下第一階と第二階を越え、ようやく最深部まで来た。


もし、あれが探していたものなら。


「取れたら、火山に戻れるかな」


私は小さく呟いた。


「待て」


オラクルの声がすぐ飛んでくる。


「分かってるよ。取りに行かない」


「ならいい」


以前ならもう数歩進んでいたかもしれない。


でも、ここまで何もなく置かれていることのほうがおかしい。


地下第一階には罠があった。


第二階は音と視界を狂わせた。


それを越えた最深部の中央に、目的らしいものがそのまま置かれている。


簡単に取れるとは思えなかった。


「まず周囲」


リリィが言った。


全員で入口付近からドームを観察する。


円形の空間には、中央の台座以外にもいくつか気になるものがあった。


壁際には古い石柱が六本。


それぞれの表面には、氷門でも見た細長い生き物の模様が刻まれている。床にある何重もの溝は石柱の根元まで続き、中央の台座と繋がっていた。


「床、全部仕掛けになってそう」


フランが言う。


「わしもそう思う」


メロウは杖を構えた。


「いつものように先へ力を掛けてみるぞい。全員、入口から出るでないぞ」


重力魔法が中央へ向かって伸びる。


まず一歩先。


何も起きない。


さらに奥。


変化なし。


円形の足場へ入る直前。


それでも何もない。


「罠ない?」


私が尋ねる。


「そう簡単に決めるでない」


メロウがさらに力を移動させる。


中央の台座まであと数歩。


その瞬間だった。


床へ刻まれていた溝の一本が青白く光った。


「止めて!」


メロウがすぐ魔法を解除する。


光も消えた。


全員が黙って床を見る。


「反応したね」


リリィがしゃがみ込む。


「重さじゃなくて、魔力に反応した可能性もある」


「なるほどのう」


メロウはもう一度、今度は少し離れた位置へ弱い重力魔法を掛けた。


反応なし。


中央へ近づける。


また溝が光った。


魔法を止めると消える。


「一定の範囲へ魔法が入ると反応する?」


フランが尋ねる。


「可能性はある。まだ二回じゃから確定はできんが」


私は台座を見る。


ティアラは変わらずそこにある。


「じゃあ魔法を使わず歩けばいい?」


「そう思わせる罠かもしれねえぞ」


オラクルが言う。


「一個分かっただけで正解だと思うな」


「分かってるって」


そう答えながら、もう一度ドーム全体を見る。


そこで初めて気づいた。


台座の横。


少し離れた場所に、白いものがある。


最初は氷の塊だと思った。


周囲が全部白と青だから、完全に景色へ溶け込んでいた。


でも、形がおかしい。


細長い。


少し曲がっている。


「ねえ」


私は目を細めた。


「台座の横、何かいない?」


全員の視線が集まる。


リリィが最初に見つけた。


「いる」


フランも気づく。


「蛇……?」


小さかった。


氷門へ刻まれていた巨大な蛇の模様とは比べものにならない。


腕に乗せられそうなくらいの、小さな白蛇。


純白の身体を丸め、台座の少し横でじっとしている。


動かない。


でも死んではいない。


ときどき身体が僅かに上下している。


呼吸している。


「メリーが感じてたの、あの子?」


『たぶん』


メリーが私の肩から白蛇を見つめる。


『あの子からする』


「冷たい感じ?」


『うん。でも……』


メリーはそこで黙った。


「どうしたの?」


『分かんない』


珍しく、本当に困った顔をしている。


『あの子が冷たいのか、あの子の周りが冷たいのか、混ざってて分かんない』


私は白蛇を見る。


向こうも私たちに気づいているのだろうか。


目を閉じているように見える。


襲ってくる様子はない。


ティアラを守っている?


そう考えた。


台座のすぐ近くにいる。


この最深部にいる生き物。


何か関係があってもおかしくない。


「近づくなよ」


オラクルが言う。


「分かってる」


「特に蛇にもな」


「何で?」


「正体不明だからだ。可愛いとか小さいとかで近づくな」


言われて黙った。


ちょっとだけ、近くで見たいと思っていた。


「……分かった」


リリィが私を見る。


「今、図星だったでしょ」


「違うよ」


「間があった」


「ちゃんと行かないって言ったじゃん!」


白蛇はそんな私たちの会話にも反応しなかった。


まずはティアラ。


そして、この部屋の仕掛け。


白蛇の正体を考えるのは、それからでも遅くない。


メロウが別の角度から魔法を試す。


今度は重力そのものを台座へ近づけず、床の外側だけへ掛ける。


反応なし。


中央へ近づけると、やっぱり溝が光る。


「範囲はだいたい分かってきたぞい」


メロウが床を指した。


「中央の円。あの内側へ魔法を通すと反応する可能性が高い」


「反応したら何が起こるの?」


「まだ分からん」


それが一番怖い。


今は光るだけ。


でも、その先があるはずだ。


ロロットが腕を組んだ。


「だったら俺が行くか?」


全員が見る。


「魔法使わねえし、走って取って戻るだけなら俺が一番速い」


筋は通っている。


ロロットは身体能力が高い。


大剣を置いていけばさらに動きやすい。


「でも最初からティアラまで行くのは危なくない?」


私が言う。


「ああ。だから最初は円の中へ一歩だけ入る」


ロロットも無茶をするつもりではなかった。


オラクルが少し考える。


「悪くねえ。ただし、一歩入って何か起きたら即戻れ。ティアラが見えてても進むな」


「分かってる」


ロロットが背中の大剣を下ろした。


身軽になる。


リリィが床を確認する。


メロウも魔法を解除した。


全員が入口付近へ下がる。


「行くぞ」


ロロットが円形の足場へ近づいた。


境界の直前で止まる。


片足を出す。


氷床へ置く。


何も起きない。


もう片方は外。


数秒待つ。


変化なし。


「大丈夫そうだ」


ロロットが振り返る。


「まだ一歩だけね」


私が言う。


「分かってるって」


今度は身体全体を円の内側へ入れる。


床の溝は光らない。


魔法に反応するという予想は、かなり当たっていそうだった。


ロロットがもう一歩進む。


何もない。


さらに一歩。


台座まで、まだ距離がある。


白蛇も動かない。


「行けるか?」


フランが呟く。


ロロットが少しずつ進む。


半分。


もう少し。


床は静かなまま。


「本当に魔法だけ?」


私も期待し始めた。


そのときだった。


白蛇が目を開いた。


青い。


氷よりも淡い青色の目。


ロロットを見る。


でも、襲わない。


威嚇もしない。


ただ見ている。


ロロットも気づいた。


一瞬だけ足を止める。


「戻る?」


私が尋ねる。


ロロットは白蛇を見たまま、首を横へ振った。


まだ何も起きていない。


もう一歩。


台座まであと数歩。


ティアラが近い。


青い結晶の光がロロットの顔へ反射している。


「届くぞ」


ロロットが手を伸ばす。


私は無意識に息を止めた。


あと少し。


指先がティアラへ触れる。


その瞬間。


床の溝がすべて青白く輝いた。


「ロロット、戻って!」


私が叫ぶ。


ロロットもすぐ手を引いた。


でも遅かった。


台座の周囲から、冷気が爆発するように広がった。


同時に、ロロットの足元の氷が透明になった。


その下。


何かがいる。


黒い影。


「下!」


ロロットが跳ぶ。


直後、透明な床の中から腕が伸びた。


氷をすり抜けるように現れたその腕は、ロロットと同じ手袋を着けていた。


「また俺かよ!」


床から現れたのは、ロロット自身だった。


地下第一階で戦った鏡像と同じ顔。


同じ身体。


ただし今度は、鏡からではなく氷床の下から這い出してくる。


さらに嫌な音がした。


ミシッ。


「床!」


リリィが叫ぶ。


円形の足場へ亀裂が走っていた。


一本。


二本。


中央から外側へ。


「戻れ!」


オラクルの声が響く。


ロロットはティアラを見た。


ほんの一瞬。


手を伸ばせば届く距離。


でも、すぐ背を向けた。


「分かってる!」


ティアラを捨て、こちらへ走る。


鏡像のロロットが追う。


本物が一歩進むたび、床の亀裂が増える。


台座の周囲から氷が崩れ始めた。


「あと少し!」


フランが入口から手を伸ばす。


ロロットが円の境界へ飛ぶ。


鏡像も追って跳んだ。


本物の手をフランが掴む。


その瞬間、中央の床が大きく崩れた。


「引け!」


フランと私、リリィまで加わってロロットの腕を引いた。


ロロット自身も残った足場を強く蹴り、円形の足場から身体を投げ出すように跳ぶ。その背後では鏡像がほとんど同じ動きで追いすがり、さらに中央から広がった亀裂が、台座を囲む床を次々と割っていた。


「もう少し!」


ロロットの上半身が境界を越える。


フランが腕を引き、私は厚い外套を掴んだ。リリィも腰へ手を回し、三人で一気に引き寄せる。


次の瞬間、ロロットの足元に残っていた氷が崩れた。


身体が沈みかける。


「うおっ!」


「離さないで!」


私たちはそのまま後ろへ倒れ込んだ。


ロロットの身体も引きずられるように円の外へ滑り出し、最後には全員が折り重なって床へ転がった。


「重い!」


「助けてもらって最初にそれ言うのかよ!」


「だって本当に重いんだもん!」


「大剣置いてきただろ!」


「本人が重いの!」


「喧嘩はあと!」


リリィに怒られた。


でも、その声を聞いたことでロロットが無事だと分かり、胸の奥に詰まっていた息がようやく抜けた。


すぐ身体を起こす。


「ロロット、怪我は?」


「ねえ。服が少し擦れただけだ」


ロロットは腕と脚を確認してから立ち上がった。


フランもすぐ右腕の状態を確かめ、リリィは私の右足まで見ている。


「私は大丈夫」


「まだ聞いてない」


「どうせ聞くでしょ?」


「聞くけど」


それなら先に答えて正解だったと思う。


オラクルの声が飛んできた。


「安心するのはまだ早え。中央見ろ」


私たちは一斉に振り返った。


円形の足場は、さっきまでとはまるで違う姿になっていた。


中央から放射状に亀裂が走り、何枚もの巨大な氷板へ分かれている。その隙間からは底の見えない暗闇が覗き、崩れた氷が次々と落ちていくのに、いつまで待っても底へぶつかる音が聞こえなかった。


台座だけが残っている。


《氷結のティアラ》も、その上から動いていない。


そして小さな白蛇も、台座のすぐ横にいた。


あれだけ床が崩れたのに逃げていない。


身体を丸めたまま、青い目でこちらを見ている。


その手前では、もう一人のロロットが立っていた。


「影、残ってる」


私が呟く。


鏡像のロロットは追ってこない。


円の境界ぎりぎりで止まり、本物のロロットを見ている。


「何で来ないんだ?」


ロロットが一歩前へ出ようとする。


「待って」


今度は自分で止まった。


「……いや、行かねえよ。確認しただけだ」


少し成長した。


口には出さなかった。


ロロットが怒りそうだから。


メロウが鳥の杖を構えた。


「試すぞい」


「何を?」


「影が円の外へ出られるかじゃ。直接攻撃はせん」


メロウは鏡像の少し手前へ重力を掛けた。


影が反応する。


本物のロロットと同じように大剣を構え、こちらを警戒した。


でも境界は越えない。


メロウが力を少しずらす。


影も位置を変える。


それでも円の内側だけ。


「出られない?」


フランが言う。


「あるいは、出る必要がないと判断しとるかじゃな。まだ決めつけんほうがよい」


メロウはすぐ魔法を解除した。


すると、床の溝が青白く光った。


「また!」


今度は何が起きるのか分かっている。


全員が円からさらに距離を取った。


光が台座へ集まる。


崩れた床の断面が白く輝き始めた。


「え?」


割れた氷が動いている。


落ちたはずの破片が戻ってくるのではない。


亀裂の内側から、新しい氷が生まれていた。


薄い膜のような氷が暗闇を覆い、それが何層も重なりながら厚くなっていく。


一本の亀裂が塞がる。


次。


また次。


ほんの少し前まで崩れ落ちていた床が、目の前で元の形へ戻っていった。


鏡像のロロットの身体も薄くなる。


足から光の粒へ変わり、腰、胸、最後には顔まで消えていく。


完全に消滅したとき、円形の足場は最初に見た状態へ戻っていた。


傷一つない。


台座。


ティアラ。


白蛇。


全部同じ。


「……戻った」


私は目の前の光景を見つめた。


「床まで?」


リリィが境界の外から確認する。


「さっきの亀裂がない」


フランも床を見る。


「落ちた氷が戻ったわけじゃないよね?」


「ああ」


メロウが興味深そうに目を細めた。


「新しく凍結したように見えた。しかし、それにしては復元が正確すぎる。溝の位置まで同じじゃ」


「リセット……?」


私が言う。


オラクルが頷いた。


「そう考えるのが自然だろうな。一定の条件を満たすと罠が動いて、最後には最初の状態へ戻る」


それなら、今起きたことを整理できる。


ロロットは魔法を使わず円へ入った。


途中までは何も起こらなかった。


ティアラへ触れた瞬間、床の溝が光った。


ロロットの鏡像が現れた。


同時に床が崩れ始めた。


ロロットが円の外へ逃げると、しばらくして足場も影も元へ戻った。


「ティアラに触ったのが始まり?」


私が聞く。


「可能性は高い」


リリィが答えた。


「少なくとも、ロロットが歩いて近づいている間は何も起きなかった。手がティアラに触れた直後に全部始まってる」


「じゃあ、掴んですぐ戻れば取れる?」


ロロットが言った。


私はティアラまでの距離を見る。


円の境界から台座まで、それなりに離れている。


ロロットだから短時間で近づけた。


でも、帰りは鏡像が追ってくる。


さらに床まで崩れる。


「さっきは触っただけで戻ったよね?」


「そうだな」


「今度は取って走る?」


「待て」


オラクルが止める。


「同じことやって結果だけ変わると思うな。まず何が失敗だったか考えろ」


ロロットも反論しなかった。


私は台座を見る。


ティアラ。


白蛇。


円形の足場。


鏡像。


崩れる床。


全部が一つの仕掛けなのだろうか。


「ねえ、メロウさん」


「何じゃ?」


「さっき魔法を近づけたときも床が光ったよね」


「うむ」


「でも崩れなかった」


「そうじゃな。あのときは光っただけで、わしが魔法を止めれば消えた」


「じゃあ、魔法に反応する仕掛けと、ティアラに触ったときの仕掛けは別?」


メロウは少し考えた。


「その可能性は高いのう。あるいは同じ仕掛けでも、反応の段階が違うのかもしれん。中央へ魔力が入れば警告、ティアラへ触れれば本格的に作動、といった具合にな」


なるほど。


一つ分かった。


でも、まだ取る方法は分からない。


「俺がもう一回行こうか?」


ロロットが言う。


オラクルはすぐ否定しなかった。


「同じやり方じゃ駄目だ。次に行くなら、一回目で分かったことを使う」


「影への対策?」


フランが尋ねる。


「ああ。それと床だ。ティアラに触れてから完全に崩れるまで時間があった。正確に測ってねえが、数秒で全部落ちたわけじゃない」


リリィが頷く。


「私も見てた。最初の亀裂が出てから、中央が大きく崩れるまで少し間があった」


ロロットが台座を見る。


「なら、取った瞬間に戻れば――」


「影が邪魔する」


私が言う。


「さっきはロロットさんと同じ速さだった」


「そうなんだよな」


本人と同じ身体能力を持つ影。


逃げるだけでは追いつかれる。


地下第一階では、本人と同じ力を持つ鏡像をシャイニーさんという《本人には含まれない力》で突破した。


でも、ここでは状況が違う。


鏡像は一人。


そして床そのものに時間制限がある。


「影を誰かが止めれば?」


フランが言った。


全員がフランを見る。


「ロロットがティアラを取る。影が出たら、俺たちの誰かが相手をする。その間にロロットだけ戻る」


「円の中へ入る必要があるぞ」


オラクルが言う。


「それに、二人目が入ったとき何が起きるか分からねえ」


「じゃあ外から?」


私は考える。


「フランの技って届かない?」


「短剣の攻撃は無理だね。光を飛ばす技なら届くかもしれないけど……」


メロウが首を横へ振った。


「魔法に反応する場所じゃ。外から力を入れた瞬間、別の仕掛けが動く可能性がある」


簡単ではない。


でも、それが少し楽しくもなってきた。


地下第一階と同じだ。


最初から答えが分かっているわけではない。


試して。


失敗して。


起きたことを覚えて。


次の方法を考える。


ただし、失敗してもいいという意味ではない。


一歩間違えば、本当に戻れなくなる。


「今日は何回まで試す?」


私が聞いた。


みんながこちらを見る。


「何で回数決めるんだ?」


ロロットが尋ねる。


「ずっと失敗してたら疲れるでしょ。疲れてるのに『次はいける』って続けたら危ないと思う」


オラクルが少し笑った。


「珍しくまともなこと言うな」


「珍しくいらない!」


でも、反対する人はいなかった。


メロウの魔力。


ロロットやフランの体力。


私たち全員の集中力。


迷宮から帰る分まで残しておかなければならない。


オラクルが決めた。


「あと二回。合計三回試して駄目なら、一度ここを出るか、少なくとも長く休む。その時点で判断する」


「分かった」


二回目の方法を考える。


ロロットがもう一度取りに行く。


でも今回は、触れる前に戻る道を確認する。


鏡像が出る位置も、さっきと同じとは限らない。


リリィが床の溝を観察し、フランが影の出現位置を警戒する。


私は全体を見る。


メロウは魔法を使わない。


オラクルが時間を数える。


「白蛇は?」


私が聞く。


みんなが台座の横を見る。


小さな白蛇は、また目を閉じていた。


さっきの騒ぎが嘘だったように、身体を丸めている。


「今のところ、直接何かした様子はない」


リリィが言う。


「ロロットが近づいたとき目を開けたくらい」


「ティアラの番人じゃないの?」


「可能性はある。でも、まだ分からない」


白蛇は襲ってこなかった。


ロロットの邪魔もしなかった。


ただ見ていた。


私は少し気になったけれど、今は答えを作らない。


「じゃあ二回目、行くぞ」


ロロットが大剣を置く。


さっきより身体を軽くするため、外套の留め具まで確認した。


フランが声を掛ける。


「無理だと思ったらティアラ捨てて戻って」


「分かってる」


「絶対ね」


今度は私も言う。


ロロットが笑った。


「お前ら、俺を何だと思ってんだよ」


「目の前に欲しいものがあると取りたくなる人」


「それお前だろ!」


否定できなかった。


少し笑ったあと、全員の表情が戻る。


二回目。


ロロットが円へ入った。


一歩。


二歩。


何も起きない。


さっきと同じ。


台座へ近づく。


白蛇が目を開いた。


やっぱりロロットを見る。


でも動かない。


あと三歩。


二歩。


一歩。


ロロットがティアラへ手を伸ばした。


「取るぞ!」


指が白銀の冠を掴む。


床の溝が一斉に光った。


今度はロロットも迷わない。


ティアラを台座から持ち上げる。


「取れた!」


私が叫んだ。


でも、その瞬間。


台座の反対側の床が盛り上がった。


影のロロットが現れる。


さっきより早い。


本物が振り返る前に、鏡像が大剣を振り抜いた。


「危ない!」


ロロットはティアラを抱えたまま身体を沈めた。


刃が頭上を通過する。


その直後、床へ最初の亀裂が走った。


「戻れ!」


オラクルが叫ぶ。


ロロットが走る。


ティアラを持っている。


あと半分。


鏡像が追う。


同じ速さ。


でも本物は片手にティアラを持っている。


その分だけ、大剣を持つ影より動きが悪い。


「追いつかれる!」


フランが叫んだ。


ロロットが一度だけ後ろを見る。


影の大剣が迫っていた。


避ければ時間を失う。


受ければティアラを落とすかもしれない。


そして足元の亀裂は、すでにロロットの前まで伸びている。


「ロロットさん、ティアラ捨てて!」


私は叫んだ。


ロロットが一瞬だけ顔を歪めた。


あと少し。


手を伸ばせば私たちまで届きそうな距離。


それでも。


「くそっ!」


ロロットは《氷結のティアラ》を手放した。


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